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デッカツリー録音とは、無指向性マイク3本を三角形に置く方式です。
左右2本と中央1本で構成し、中央のマイクを前に出します。
AB方式で中央が薄くなる弱点を、中央のマイクで補う狙いがあります。
この記事では、その仕組みと判断の基準を解説します。
デッカツリー録音とは
デッカツリーは、無指向性マイク3本を使うステレオ録音の配置です。
左右2本を横に離して置き、中央1本をその前方に置いて三角形を作ります。
デッカ社の録音技師が確立した配置として知られ、オーケストラなど広い音源を一体として収める場面で使われてきました。
方式の分類では、マイク同士の距離で空間を捉える間隔方式(スペースド)に属します。
左右の間隔や中央の出し量の具体的な数値は、音源の幅と会場の残響で変わるため、ここでは断定しません。
以下では、どういう理由でこの形になり、何を手がかりに決めるかを説明します。
なぜデッカツリーなのか
デッカツリーの土台は、無指向性マイクの性質にあります。
無指向性マイクは全方向から等しく拾い、近接効果が生じません。
近接効果とは、指向性マイクを音源に近づけると低域が持ち上がる現象で、無指向性マイクでは起きません。
そのため低域まで素直に収まり、部屋の響きもそのまま捉えます。
この性質が、広い音源と会場の空間を一体で録る場面に向きます。
では、なぜ3本なのでしょうか。
無指向性マイク2本を間隔を空けて平行に置くAB方式は、空間の広がりが大きく取れる一方、間隔が広いと中央が薄くなることがあります。
左右のマイクが音源から等距離だと、中央の音は両方に同じレベルで入りますが、間隔が広いほど正面の音像は左右に比べて不安定になります。
到達時間差で定位を作る方式では、正面の情報が弱まりやすいのです。
ここに3本目を加え、中央のマイクを前に出して正面の直接音を確実に捉えることで、この薄さを補います。
中央のマイクを前に出すのは、直接音を強く捉えるためです。
音源からの距離が2倍になると、レベルは自由音場では約6 dB下がります。
これを逆二乗の法則といいます。
中央のマイクは左右のマイクより音源に近いので、直接音の割合が高く、レベルも大きくなります。
左右のマイクが空間と残響を担うのに対し、中央のマイクは定位の芯を担う、という役割分担ができます。
ただし室内では反射があるため、距離に応じた低下はこの通りにはなりません。
残響が支配する距離を超えると、レベルはほとんど下がらなくなります。
3本を混ぜる以上、干渉には注意が必要です。
同じ音が時間差をもって2つの経路から到達すると、特定の周波数が打ち消され、櫛の歯状の周波数特性が生じます。
これをコムフィルタといいます。
マイクの間隔と、マイクから音源までの距離の関係で、乱れる周波数が変わります。
目安として、マイク間の距離をマイクから音源までの距離の3倍以上にするという3対1の法則があります。
ただしこれは目安であって、音源の指向性や部屋の響きによって必要な比率は変わります。
間隔方式と対をなすのが、2本のカプセルを近づけて交差させるXY方式や、正面のMと左右のSで収録するMS方式です。
XY方式は時間差がほぼ生じずモノ互換性が良く、MS方式は後からステレオ幅を変えられます。
デッカツリーを含む間隔方式は、これらと比べて空間の広がりを優先する立場です。
実際にどう選び、どう使うか
デッカツリーをどう組むかは、条件で変わります。
決め手になるのは、音源の幅、会場の残響、そして広がりと中央の安定のどちらを優先するかです。
左右の間隔を広げると空間の広がりは増しますが、中央の薄さと干渉の可能性も増えます。
逆に狭めると中央は安定しますが、広がりは控えめになります。
中央のマイクを前に出す量も同様で、出しすぎると中央が浮いて聞こえ、出さなければ補う効果が薄れます。
唯一の正解はありません。
まず音源の幅を確認し、会場の残響時間を聞き、そのうえで優先する方を決めてから、間隔と出し量を調整します。
指向性の選び方も条件次第です。
無指向性は部屋の響きも拾うため、残響の良い会場に向きます。
残響が過剰な会場では、響きを拾いすぎて像がぼやけることがあります。
その場合は単一指向性など、正面の感度を優先する選択肢を検討します。
無指向性は近接効果がなく低域まで素直という長所の一方、音源を近づけて録る用途にはそのままでは向きません。
この方式は空間を一体で捉えるためのものだからです。
誤解しやすい点
デッカツリーは、3本あれば失敗しないという万能の配置ではありません。
3本の混合はコムフィルタの可能性を伴い、間隔と距離の関係を整えないと中央付近の周波数特性が乱れます。
3対1の法則も逆二乗の法則も、目安であって規則ではありません。
3対1の法則は音源の指向性や部屋の響きで必要な比率が変わり、逆二乗の法則は自由音場での話で、室内では反射があるためその通りには下がりません。
数値を鵜呑みにせず、実際に録って聴いて確かめることが前提です。
無指向性の「低域まで素直」という長所は、裏を返せば部屋の響きも余すところなく拾うということです。
残響が過剰な会場やノイズの多い場所では、その長所が裏目に出ます。
配置を工夫しても、会場そのものの音は変えられません。
最後に
あなたがこれから録る音源は、左右の広がりと中央の安定のどちらを先に満たすべきでしょうか。
まず会場で一度手を打ち、残響がどのくらい尾を引くかを聴いてみるところから始めてください。
