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ステレオ録音にはいくつもの方式があります。
そのなかでXY方式は、2本のマイクを同じ位置に置くことで時間差をほぼゼロにし、モノラルとの互換性を最も高く保つ方法です。
録った音をモノラルで再生する場面があるとき、この特性が大きな意味を持ちます。
XY方式とは
XY方式は、2本の単一指向性マイクのカプセルを可能な限り近づけて交差させ、ステレオ録音を行う同軸(コインシデント)方式です。
マイク間の距離をゼロに近づけることで、左右のチャンネルに到達する音の時間差がほぼ生じません。
ステレオの広がりは、左右のマイクが拾う音の強度差だけで作られます。
同じ同軸方式には、双指向性マイク2本を90度で交差させるブルームライン方式や、正面のM(ミッド)と左右のS(サイド)を組み合わせるMS方式があります。
いずれもマイク間の距離をゼロにする点では共通していますが、使う指向性とその後の処理が異なります。
なぜXY方式では時間差がほぼ生じないのか
音が左右の耳に届くとき、到達時間のわずかな差と、頭で遮られることによる強度の差の両方が、方向の手がかりになります。
ステレオ録音も同じで、左右のチャンネルに時間差と強度差のどちらを主に使うかで、方式が分かれます。
XY方式は、2本のマイクカプセルを上下に重ねるように同じ位置に置きます。
音源がどこにあっても、左右のカプセルまでの距離はほぼ等しくなります。
空気中の音速は摂氏20度の乾燥空気で約343 m/sですから、距離差が数ミリであれば、到達時間の差は人の耳では知覚できない程度に抑えられます。
これが「時間差がほぼ生じない」理由です。
その代わり、単一指向性マイクの正面感度と角度による感度の低下を利用して、強度差だけでステレオの広がりを作ります。
音源が中央にあるときは左右のマイクに同じ強度で入り、音源が左に寄れば左のマイクにより強く入ります。
この強度差が定位の手がかりです。
ここで重要なのはモノラルとの関係です。
左右のチャンネルを足し合わせてモノラルにしたとき、2つの信号に時間差があると、特定の周波数が打ち消し合うコムフィルタが生じます。
たとえば、間隔を広く取るAB方式(スペースドペア)では、どうしても時間差が残るため、モノラルに混ぜたときにこの現象が起きます。
XY方式では時間差がほぼゼロなので、モノラルに混ぜてもコムフィルタがほぼ起きません。
これが「モノ互換性が最も良い」と呼ばれる理由です。
実際にどう選び、どう使うか
XY方式を選ぶかどうかは、何を優先するかで決まります。
第一に、再生環境を考える必要があります。
スマートフォンのスピーカーで聴く人は多く、モノラル再生になる機器もまだあります。
放送や配信でも、モノラル互換性が求められる場面は少なくありません。
そうした場面では、XY方式の時間差ゼロという特性が効いてきます。
第二に、録る音の広がりとの兼ね合いです。
XY方式の開き角は90度から135度が一般的で、角度を広げるほど収録できる範囲(収音角)が広がります。
ただし、開き角を広げすぎると中央付近の定位がややあいまいになる傾向があり、狭すぎるとステレオの広がりが控えめになります。
編成の横幅と、マイクを置く距離を踏まえて、試しながら決めるのが現実的です。
第三に、部屋の響きとの関係です。
XY方式は単一指向性マイクを使うため、後方からの音や部屋の反射音をある程度抑えます。
響きの多い空間ではこの特性が有利に働き、響きの少ない空間では逆に、録音がやや乾いた印象になることもあります。
空間の響きを積極的に取り込みたい場合は、指向性の使い分けやワンポイント録音の項も参照してください。
誤解しやすい点
XY方式について、いくつか誤解されやすい点があります。
一つは「XY方式は音が狭い」という印象です。
間隔を広く取る方式に比べてステレオの広がりが控えめに感じられるのは確かですが、それは欠点ではなく、時間差を使わず強度差だけで定位を作るという設計の結果です。
正確な定位とモノ互換性を優先した選択と捉えるのが正しい理解です。
もう一つは、開き角の固定です。
XY方式の開き角は90度と決まっているわけではありません。
90度から135度の範囲で、音源の幅や距離に応じて選びます。
角度を変えることで収音角が変わり、ステレオの広がり方も変わります。
三つ目は「同軸方式ならどれも同じ」という誤解です。
同じ同軸でも、単一指向性を使うXY方式、双指向性を使うブルームライン方式、そしてMとSを組み合わせるMS方式では、得られる音の性格が異なります。
どの指向性をどう組み合わせるかが、録音の結果を左右します。
最後に、マイクを近づけることと実際の録音の制約についてです。
カプセルを可能な限り近づけるのがXY方式の前提ですが、実際にはマイクの筐体やマウントの都合で数センチのずれが生じることがあります。
それでも、間隔が波長に比べて十分に小さければ、実用上のモノ互換性は保たれます。
最後に
XY方式は、ある種のトレードオフの上に成り立っています。
強度差だけで定位を作ることで、時間差に由来する問題を避ける。
その代わりに、空間の広がり方は他の方式と異なる結果になります。
あなたが次に録音の準備をするとき、まず考えてみてください。
その録音は、モノラルで聴かれる可能性がありますか。

