
I
私には、師がいる。
私のオーディオの原点には、師がいます。そしてその師にも、また師が存在します。もちろんその系譜や哲学はオーディオ業界すべてを包み込みます。
オーディオの世界、技術の世界というのは、たった一人の手から生まれた概念が、世界中のどんな高級機材も追従できない場所に到達していた・・・なんてことは当たり前に起こります。それらを資本主義に移植したのが今日のGAFAMになっていることは言うまでもありません。
今も昔も大量生産では絶対に到達できない領域というのが存在します。世界中のどんな名機も届かない音が、一人の職人の手作りから生まれる。私はそれを、耳で知っています。
これは決して奇跡でもありません。自作にしか行けない場所があるという、揺るぎない事実なのです。
だから私は、オーディオはアンプ、スピーカー、マイクや、ソフトウェアまでも、自分の納得のいく領域、水準まで妥協せずに生み出すことを選びました。
自作にしか行けない場所がある。
II
企業は、妥協の産物を作る。
誤解を恐れずに言います。市販の製品は、いつも妥協の産物です。
実際大手企業の仕事というのは「最高のもの」を作っているのではありません。決められたコスト、量産の歩留まり、部品の調達、万人向けの汎用性、そして採算。これら無数の制約の中で、「十分に良いもの」を最適解として設計しています。そしてしなければいけません。
もちろんそれが悪いのではないのです。大きな組織で、多くの人に、安定して届けるためには、そうするしかないからですし、一つの選択肢として社会になくてはならない存在です。
しかし、その構造こそが、企業が決して越えられない壁を生みます。数量とコストに縛られる限り、理想の一点を極点まで突き詰めることは、採算上、絶対にできない。のです。
一人の芸術家の手作りが市販品を超えるのは、その個人が企業より優秀だから、ではありません。企業には引き受けられない妥協のすべてを、自ら捨てられる立場にいるからです。
コストを度外視し、量産性を無視し、一つひとつに理想を追い込む。その自由こそが、自作の最大の武器となるのです。
III
自作とは、「制約からの自由」である。
自作の真価は、「市販品と同じものを、安く作る」ことではありません。それなら、市販品を買ったほうがいいのは言うまでもありません。すでに完成されているわけですから。
自作の真価は、企業が構造的に行けない場所へ、行けることにあります。つまり、ある意味で市販品を超えていく、超越していくところに意味があります。
一点を選び、その一点を、採算やしがらみに縛られず、極点まで突き詰める。かつての名手たちが、アナログの世界でそれを証明してきたように。
そして今、私は過去のそうして創造的先駆者たちと同じ思想をもちながら、音楽制作の領域でソフトウェアやハードウェアに持ち込みます。Kuonは、市販のDAWと同じものを安く作ったソフトではありません。大手が採算上、作れないものを作っています。
企業が構造的に行けない場所へ、行く。
IV
ソフトウェアもまた、同じ物語。
大手のソフトウェアは、簡単には変えられません。いえ、簡単に進化できないと言った方が正確かもしれません。膨大な既存ユーザー、巨大なコードベース、後方互換の呪縛。「手を入れる」という判断ひとつに、途方もない時間がかかる。
変えられないから、変えない。時代が変わっても、古い体制のまま走り続けるしかない。
そして今、音楽制作の世界は、まさに変革期の只中にあります。すべてがブラウザで完結する時代。インストールも、OSの壁も、重いローカル環境も要らない時代です。これまで当たり前だったプラグインの規格が、次の世代へと更新されていく、その最高の転換点にあります。
大手は、この波にすぐには乗れません。守るものが大きすぎるからです。一つの規格や設計を捨てるとなればそのリスクは甚大で、社員を含めた誰かの人生を大きく左右しかねません。
しかし、しがらみのない個人開発者は、いま、いちばん身軽に、いちばん速く、この新しい時代の体制で作り始められる。
Kuonが、ブラウザだけで完結することを世界で初めて実現したのは、制約から自由な立場にいる者、そして先述した「採算やしがらみに縛られず、極点まで突き詰める」ことができる者だけが選べた、最速の一手でした。
V
だから、Kuonは自作でなければならない。
私、朝比奈幸太郎は芸術家である前に一人の音楽家です。だから、音楽家が本当に必要とする機能をすべて知っています。現場で本当に必要だと感じるポイントをすべて知っています。
これらは、企業の会議室からは生まれなかったものです。採算の計算からは、こぼれ落ちる理想だからです。
もちろんソフトウェアだけでなく、ハードウェアも。マイクロフォン一つとっても、そのパーツ選び、構成、設計など、すべて芸術家朝比奈幸太郎がトータルコーディネートするからこそ、一貫して統一感のある最高水準の音をみなさんに提供できる。

かつての名手たちが、音そのものの一点を極めたように。Kuonは、音楽家の創造性という一点を、妥協なく極めます。
これが、私が自作を選んだ理由です。買えるものを安く作るためではない。世界のどこにも売っていない、音楽家のためだけの理想を、この手で形にするためです。
世界のどこにも売っていない、音楽家のためだけの理想を、この手で形にする。
人が奏でる音楽を、これからも。
制約から自由であること。時代の転換点に、いちばん身軽に立っていること。師、そしてそのまた師から脈々と受け継いだ「自作の思想」を、次の時代の技術へと引き継ぐこと。
それが、空音開発の、そしてKuonの存在理由です。