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音楽家の朝比奈幸太郎です。
空音開発では、ステレオマイクの X-86S と P-86S を、一本ずつ手はんだで作っています。
この記事では、手作りマイクとは何が違うのか、なぜ手作りでなければならないのか、そして手作りマイクをいちばん気軽に使う方法として、メガネに取り付けて録る「メガネマイク」を紹介します。
手作りマイクとは何が違うのか
私には、師がいる
私のオーディオの原点には、師がいます。
そしてその師にも、また師が存在します。
今も昔も、大量生産では絶対に到達できない領域が存在します。
世界中のどんな名機も届かない音が、一人の職人の手作りから生まれる。
私はそれを、耳で知っています。
これは奇跡ではなく、自作にしか行けない場所があるという事実です。
だから私は、マイクからソフトウェアまで、自分の納得のいく水準まで妥協せずに生み出すことを選びました。
企業は、妥協の産物を作る
誤解を恐れずに言います。
市販の製品は、いつも妥協の産物です。
大手企業は「最高のもの」を作っているのではありません。
決められたコスト、量産の歩留まり、部品の調達、万人向けの汎用性、そして採算。
これら無数の制約の中で「十分に良いもの」を最適解として設計しています。
それが悪いのではありません。
大きな組織で、多くの人に、安定して届けるためには、そうするしかないからです。
しかし、その構造こそが、企業が決して越えられない壁を生みます。
数量とコストに縛られる限り、理想の一点を極点まで突き詰めることは、採算上できないのです。
一人の作り手の手作りが市販品を超えるのは、その個人が企業より優秀だからではありません。
企業には引き受けられない妥協のすべてを、自ら捨てられる立場にいるからです。
自作とは、制約からの自由である
自作の真価は「市販品と同じものを、安く作る」ことではありません。
それなら、市販品を買ったほうがいい。
自作の真価は、企業が構造的に行けない場所へ行けることにあります。
一点を選び、その一点を、採算やしがらみに縛られず、極点まで突き詰める。
かつての名手たちが、アナログの世界でそれを証明してきたように。
空音開発のマイクは、無指向性のカプセルを 2 本、AB 方式で並べてステレオを作るという一点のために設計し、部品の選定から手はんだまで、すべてを一人の手で行っています。
方式そのものの考え方はステレオマイクの選び方と方式にまとめています。
メガネマイクという提案
いつも応援してくださる方、ありがとうございます。
おかげさまで手作りのマイクはユーザーのみなさまから好評をいただいており、日々お便りが届いています。
一般的に無指向性マイクは AB 方式で使うことが多く、空音開発でも AB 方式を強く推奨しています。
AB の幅をどう調整するかで変化する音響を楽しんでいただきたいと思っています。
しかし、もっと気軽に録音してほしい。
日常を最高の音で残してほしい。
筆者はひそかに、スマートフォンでなんでも撮るように、最高の音声もなんでも録ってほしいと願っています。
そのための方法が、メガネマイクです。

ちょっとデスクが散らかっていてごめんなさい。
P-86S をメガネに取り付けている様子です。
このメガネマイクは今にはじまったことではなく、筆者の師匠と昔から何度も実験していた方法で、かなりの軽装でロケ録音ができます。
昔はセロテープなどでメガネにくっつけていましたが、今はシリコンのいいアイテムがあり、先日大量に仕入れて実験してみました。
幅とヘッドのアーチ
ここで気になるのが、こんなに短い AB の間隔でしっかりステレオ感が出るのか、というところです。
正直、筆者がピアノの録音方法や他の記事で推奨している間隔に比べると、メガネマイクは狭めです。
ステレオ感はもう少し欲しいところですが、実は無指向性マイクは、完全にステレオ感がゼロになるには左右の幅を 3cm まで狭めないといけません。
逆に 3cm 以上の幅があれば、(使えるかは別として)ステレオとして機能するわけです。
また、メガネマイクの場合、顔にかけるので、頭のアーチが絶妙な立体音響を生みます。
師匠はもう少し耳に近い位置につけた方がバイノーラルらしさが出るから好きだそうです。
ただし完全なバイノーラルマイクとして機能するかというと、それはまた別の話です。
バイノーラルマイクは、やはり耳の中に入れてしまうことがポイントになります。
それでも、対面でインタビューするときや、軽装でフィールドレコーディングをする際などには最高です。
ジャーナリストにも

世界最高クラスのコンパクトカメラと張り合うのにスマートフォンでよくなったように、世界最高クラスの録音をするのに、たったこれだけで可能になるというのは、まだまだ浸透していないと思います。
今回ご紹介したメガネマイクはロケにも最高ですが、重装備では動けないジャーナリストの方にもいいのではないかと思います。
ヘッドホンにショットガンマイクを構えて録音できないシーンはたくさんあることでしょう。
しかし、メガネマイクなら、しかも室内であればウインドジャマーをつけないでいいので、録音していることも周囲からはわからないほどです。
また、よくあるのが「発表会」の録音です。
プロの演奏家でもマイクがずらり並んでいるとやりにくいといった声をよく聞きます。
特にお子さんの場合、マイクは見えないに越したことはない。
そんなシーンでもメガネマイクは絶妙に役立ちます。
マイクセッティング方法とサンプル音源
装着方法は簡単で、メガネのフレームに沿ってシリコンを一緒に通してしっかり固定するだけです。
YouTube チャンネルでは装着の様子を紹介しています。
また、Instagram に投稿中の下記左右二つはメガネマイクのサンプルです。
寒冷地の滝は、冬期は完全に凍ってしまうため音がとれませんが、2 月下旬から 3 月の上旬あたりであれば、このように雪解けでちょろちょろ流れ出します。



