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Revox B77が名機と呼ばれる理由の一つに、メンテナンス性に優れた「モジュラー構造」があります。
電源、走行制御、オーディオ回路などがそれぞれ独立した「プラグイン基板」になっており、故障箇所の特定や修理が非常に合理的です。
この記事では、B77の動作の根幹を担う「走行系および電源系」の主要な4つの基板について、サービスマニュアル(Section 5.8, 5.9)に基づき、その役割と配置を解説します。
レストアを始める前に、まずはこの「基板マップ」で全体像を把握しましょう。
【全体図】基板配置マップ
まずは、裏蓋を開けた際に見える基板の配置を確認します。
1. 電源基板 (Power Supply Board)

Part No: 1.177.310.00( / 311 / 312)
B77の心臓部です。
巨大な電源トランスユニットにマウントされています。
- 役割: トランスからの入力を整流し、以下の電圧を供給します。
+24V (非安定): モーターやソレノイドなどの駆動系へ。
+21V (安定化): オーディオ回路および制御回路へ。 - 特徴 (Section 5.8より): マニュアルによれば、+21VラインはICレギュレータによって制御されており、電圧変動は5%以内に抑えられています。
また、ショート保護回路も内蔵されています。 - 【レストアの勘所】 ここには、電源ON/OFF時の不快なポップノイズ(「ボッ」という音)を防ぐための遅延リレー回路(Q4, Q6, Q7, Q9およびリレーK1)が含まれています。
電源投入直後に音が鳴らないのは、この回路が正常に働いている証拠です。
2. テープ走行制御基板 (Tape Transport Control)


Part No: 1.177.315 / 317
B77の頭脳です。
ボタン操作に対して「どう動くか」を指令するロジック回路です。
- 役割: 再生、早送り、巻き戻しなどの操作ボタンからの信号を受け取り、リールモーターやブレーキソレノイドを制御します。
- 特徴 (Section 5.9より):ロジックIC制御: 操作コマンドはICチップに記憶されます。
これにより、機械式のガチャガチャしたレバー操作ではなく、ソフトタッチなボタン操作を実現しています。
トライアック制御: モーターのON/OFFには、リレー(物理接点)ではなく「トライアック(半導体スイッチ)」が使われています。
接点摩耗がないため、非常に高い信頼性を誇ります。 - 【レストアの勘所】 この基板には、悪名高い「RIFA製コンデンサ」が使用されていることが多く、経年劣化で発煙・破裂するトラブルの定番箇所です。
動作していても予防交換が必須です。
3. 速度制御基板 (Speed Control Board)

Part No: 1.177.325
キャプスタンモーター(テープ送り用モーター)の回転速度を一定に保つための基板です。
- 役割: キャプスタンモーターに内蔵されたタコヘッド(回転センサー)からの信号を読み取り、モーターの回転数を厳密に制御(サーボコントロール)します。
- 特徴: B77の正確なピッチ(音程)は、この基板の精度にかかっています。
テープ速度(9.5cm/s や 19cm/s)の切り替えもこの基板が司っています。
4. テープモーションセンサー (Tape Motion Sensor)
Part No: 1.177.320 / 321
右側のリールモーター付近にある小さな基板です。
- 役割: テープが実際に動いているかどうかを光電センサーで検知しています。
- なぜ重要か: 例えば「早送り」から急に「再生」ボタンを押した際、テープが高速で動いている状態でブレーキやピンチローラーがかかると、テープが切れてしまいます。
このセンサーが「テープがまだ動いている」と検知している間は、次の動作に移らないように保護(インターロック)をかけています。
【保存版】Revox B77 オーディオ基板構成リスト
信号の流れ順(入口→出口)に並べると以下のようになります。
これらすべて「1枚でステレオ(左右チャンネル)」を処理します。
1. 入力アンプ基板 (Input Amplifier)



- 正式名称: Input Amplifier PCB
- パーツNo: 1.177.220.00
- 役割: マイクやライン入力(AUX)の信号を増幅し、録音アンプへ渡せるレベルまで引き上げます。
2. 録音アンプ基板 (Record Amplifier)



- 正式名称: Record Amplifier PCB (NAB 7.5 - 15 ips)
- パーツNo: 1.177.230.81
- 仕様:High Speed (19cm/s & 38cm/s)この基板は、プロ用規格であるハイスピード仕様専用にチューニングされています。
標準機(9.5/19cm)とは回路定数が異なるため、非常に貴重なパーツです。
この基板は、B77が「ただの再生機」ではなく「録音機」として機能するための心臓部です。
特にハイスピード仕様(7.5/15 ips)のこの基板は、適切にメンテナンスすれば、現代のデジタル録音にも劣らない、太く艶のあるアナログサウンドをテープに刻み込むことができます。
3. 発振回路基板 (Oscillator)



録音の品質を根底から支える「発振回路(オシレーター)基板」です。
右下の 19/38 というスタンプは、テープ速度 19cm/s (7.5ips) と 38cm/s (15ips) に対応したハイスピード仕様であることを示しています。
- 正式名称: Oscillator PCB
- 推定パーツNo: 1.177.243.00 (High Speed仕様)
- 役割: 録音ヘッドに必要な「バイアス電流(高周波)」と、消去ヘッドで音を消すための「消去信号」を生成します。
この基板は部品点数は少ないですが、一つ一つの部品が「録音の質」に直結します。
1. 黒いブロック "AZ1531..."(発振トランス)
左側にある2つの黒い箱は、高周波を作り出すための発振用トランス(コイル)です。
- 役割: ここで150kHz前後の高い周波数の信号が作られ、音楽信号と混ぜ合わされてテープに記録されます(交流バイアス法)。
- 注意: 基本的に壊れませんが、ハンダクラック(割れ)が起きやすい箇所なので、裏面のハンダ付けをチェック・修正(再ハンダ)しておくと安心です。
2. "FRAKO" コンデンサ(3兄弟)
上部に並んでいる3つの金色のコンデンサ。
- 警告: これらも全交換です。
オシレーターの電源ラインにあるコンデンサが劣化すると、バイアス信号が不安定になり、「録音レベルがふらつく」「以前の音が消え残る」といった致命的な不具合につながります。
3. 4つの半固定抵抗(上部の黒い部品)
基板の上端に並んでいる4つの黒い丸い部品です。
- 役割: 録音バイアス量(Bias)や録音レベルなどを、左右チャンネル・テープ速度ごとに微調整するためのものです。
- 絶対禁止事項: 絶対にドライバーで回さないでください。
ここは「ミリボルト単位」の精密な調整がされており、測定器なしで回すと、高域が全く出なくなったり、音が歪んだりします。
コンデンサ交換の際も、指が当たって回ってしまわないよう細心の注意を払ってください。
4. "19/38" のスタンプ
右下の印字は、このB77がプロ用規格である「ハイスピードモデル(2トラ38など)」であることを示しています。
標準モデル(9.5/19)の発振回路とは定数が異なるため、もし基板ごと交換する場合は、同じ数字が書かれたものを探す必要があります。
「再生は綺麗なのに、録音すると音が濁る」
そんな時は、録音アンプだけでなく、このオシレーター基板のコンデンサ劣化を疑うのがセオリーです。
ただし、調整トリマーには絶対に触れずに、コンデンサだけを交換する「外科手術」のような慎重さが求められる基板でもあります。
4. 再生アンプ基板 (Reproduce Amplifier)


Comments:

- 枚数: 1枚
- 役割: 再生ヘッドが拾った極めて微弱な信号を増幅し、音楽として聴けるバランス(イコライザー補正)に整えます。
- 特徴: 「REPR. AMP.」というラベルが貼られた基板です。
5. モニターアンプ基板 (Monitor Amplifier)


Comments:

- 枚数: 1枚
- 役割: 最終的な出力用です。
VUメーターを振らせたり、ヘッドホン端子を駆動したり、RCA出力端子へ信号を送ります。 - 特徴: 音が出ない、メーターが動かない時はここを疑います。
まとめ:レストアの地図
Revox B77の裏蓋を開けて、下部のシールドカバーを外すと、これら5枚の基板がスロットに並んで刺さっています。
- Input (入口)
- Record (録音用)
- Oscillator (バイアス用)
- Reproduce (再生用)
- Monitor (出口)
「録音基板」と「再生基板」は完全に別物(別々のカード)として存在しており、それぞれの役割に特化しています。
これにより、プロ用機材と同じように、録音しながらその直後の音を再生ヘッドで確認する「同時モニター」が可能になっています。



