目次

高級マイクは、何にお金がかかっているのか
高いマイクを買えば上手く録れるのか。
値段の差は何に使われているのか。
どこから先は、自分には要らないのか。
この記事は、あなたが次に買う 1 本を決めるためのものです。
名機を並べて選ばせることはしません。
3 つの問いに答えると、見るべき段が決まります。
値段の差は、3 つに使われています
ひとつは、個体差の小ささです。
2 本そろえたときに、左右が同じ音で返ってくること。
ステレオで録る人にとって、ここが最も大きな差になります。
ふたつめは、壊れにくさです。
湿気と温度が変わる現場で、同じ音が出続けること。
10 年単位で使うと、ここが効いてきます。
みっつめは、設計の素性です。
小さい音が沈まないこと。
大きい音で歪まないこと。
ここは数字にも出ますが、耳で分かるのは 2 本並べて聴いたときです。
名機だから良い、ではありません。
用途と置き場所が合っていないと、高いマイクほど扱いにくくなります。
最高級マイクは「名機だから」で選ばない
「最高級マイク」で検索すると、シュアやAKGなど有名ブランドの記事が並びます。
これらはもちろん名機ですが、プロの現場で本当に信頼される最高峰は、ノイマン、DPA、ショップス、テレフンケンといった専門ブランドに集まります。
大事なのは、名機イコール自分に最適ではない、ということ。
用途とコスト、そして「どんな感情で、どこにマイクを置くか」で選ぶのがプロの視点です。
ここでは音楽家の朝比奈幸太郎自身がこれまで現場で実際に使ってきたマイクだけを目安とともに紹介します。
有名なだけ、値段が高いだけのものは外しています。
判断の根拠は三つあります。
一つは演奏する側の耳です。
ピアニストとして演奏し、アルバムを出してきました。
自分の演奏が正しく残っているかどうかを、演奏した本人として聴いています。
二つ目は直せる手です。
オープンリールデッキ Revox を全面修復し、金田式DC録音を承継しました。
回路と機構を分解して、どこで音が変わるのかを見てきました。
三つ目は作る側の視点です。
ステレオマイク P-86S と X-86S を設計し、一本ずつ手ではんだ付けして販売しています。
AES の論文は日本語に訳して読んでいます。
聴くだけの立場でも、売るだけの立場でもないところから書いています。
ただ、最初に少し紹介しておきますと、これまで以下に紹介するようなマイクを現場で使い倒してきて、一つ気がついたことがあるんです。
「自分で創る」
ということ。
音にうるさい私自身が納得できるマイクを作りました。
ミニXLR版もありますので、ぜひ一度試聴してみませんか?
それではここから世界の高級マイクメーカーめぐりといきましょう。
ノイマン(Neumann) 音楽を描くマイク
1928年ベルリンで世界初の商用コンデンサーマイク CMV 3 を生み、U47・U87で録音史そのものを作ったブランド。
温かく音楽的な鳴りが身上です。
おすすめは、指向性なら KM184、大口径なら TLM 103。
KM184 は初心者にはやや扱いが難しいものの、マイク位置やマイクプリ次第で別次元の録音になり、成長を実感しやすい一本です。
U87 は憧れの定番ですが、個人で揃えるなら「U87 のステレオペア」より「TLM 103 のステレオ」の方が満足度は高いと思います。
TLM 102 と 103 は価格差以上に音が違うので、買うなら必ず 103 を。
予算を抑えるなら、オーディオテクニカ AT4050 が透明感のある良い代替になります。
DPA 何も足さない、科学的で透明なマイク
デンマークの音響計測メーカー B&K のスタジオ部門から1992年に独立。
無指向性の 4006 は 20Hz〜20kHz を ±1dB で捉える驚異的なフラットさで、無指向性の王者と呼べる存在です。
ノイマンが音楽的なら、DPA はありのままを残すマイク。
妥協しないなら 4006 か 4011。
2006 は 4006 の代替として優秀ですが、単なる廉価版ではなく独自の傾向を持ちます。
合唱の編成によって 4006 と 2006 を使い分けるのが筆者の定番です。
ブランド力に釣られて他モデルへ無闇に広げないのが、DPA を使いこなすコツです。
ショップス(Schoeps) クラシック録音の透明な基準
1948年、カールスルーエ工科大学の音響研究から生まれたドイツの名門。
アンプ(CMCシリーズ)とカプセル(MKシリーズ)を分離するモジュラー方式が特徴で、カメラのボディとレンズのように目的で組み替えられます。
弦楽器はショップス、ピアノは DPA、と覚えると一つの基準になります。
買うなら無指向性と単一指向性を切り替えられる Stereo-Set MK 5 が定番。
単一指向は MK4、超単一指向は MK41。
ショットガンは定番の ゼンハイザー MKH416 で十分ですが、ショップスの CMIT 5U はまた別次元の質感です。
テレフンケン(Telefunken)
ノイマン U47 の心臓部である真空管 VF14 を作ったのがテレフンケンです。
ヴィンテージの象徴として、今も真空管マイクの系譜を語るうえで欠かせないブランドです。
数十万円級と、同じ土俵で聴き比べる
どのマイクを選んでも、2 本をどう並べるかで音は決まります。
AB・ORTF・XY・MS・デッカツリーの違いはステレオマイクの選び方と方式にまとめています。
ここまで数十万円から数百万円のマイクを紹介してきました。
もちろん素晴らしい機材です。
ただ録音の本質は、機材の数や値段ではなく、音そのもののあり方と、どこにマイクを置くかにあります。
空音開発の P-86S は、無指向性のワンポイント・ステレオ録音で、この最高級機と同じ土俵に立てることを目指して作った無指向性マイクです。
まずは同条件の録り比べで、その実力を確かめてください。
買い替えるとき、いま持っている機材をどうするか
名機は、生産が終わっても価値が落ちにくいものと、急速に落ちるものに分かれます。
分かれ目は二つです。
いまも使いたい人が残っているかどうかと、壊れたときに部品が手に入るかどうか。
この二つが揃っているうちは、値段が保たれます。
マイクは可動部が少ないので、機械式の機材より価値が落ちにくいほうです。
それでも真空管は消耗しますし、カプセルは湿気で劣化します。
使わないまま置いておくと、動くうちに手放すという選択肢そのものが消えます。
何が値段を決めるかは別の記事にまとめました。
迷ったら、この 1 本です
読み終えて、まだ決めかねているなら、この 1 本から始めてください。
向かない場合は、札の中に書いています。
段ごとに、見る 1 本
声を録る段
部屋の反射を止めたうえで、近くで録ります。
ここは個体差より、声との相性で決まります。
2 本そろえる必要はありません。
楽器と合奏を録る段
2 本で録ります。
左右が同じ音で返ってくることが、ここでの価値です。
ステレオの組で売られているものを選ぶと、選別の手間が消えます。
環境と現場の音を録る段
屋外では、湿気と温度で音が変わります。
同じ日に同じ音が出続けることが、作品になるかどうかを分けます。
手が届く段から始める
最高の段を知ったうえで、実用の落としどころを決めます。
ここから始めて、不満がはっきりしてから上に行くほうが、結果として安く済みます。
買う前に、先に潰しておくこと
高いマイクを買えば、上手く録れるのか
録れません。
置き場所と部屋の反射のほうが先に効きます。
自分の部屋で録るなら、マイクを替える前に、壁の一次反射を止めてください。
順番を逆にすると、高いマイクの素性がそのまま不利に働きます。
2 本そろえる必要はあるのか
声だけなら 1 本で足ります。
楽器と合奏なら 2 本です。
1 本ずつ別に買って左右に使うと、音の違いが真ん中のずれとして出ます。
組で買うほうが安く済みます。
中古でもよいのか
同じ型でも、年式と状態で音が変わります。
確かめられない相手から買うなら、保証のある店で新品を買うほうが、結果として安くつきます。
マイクプリアンプは要るのか
要ります。
マイクは、マイクプリアンプと変換機を通して初めて性能が出ます。
カメラやパソコンの端子に直接挿すと、最高級のマイクでも中級機の音になります。
実用の落としどころ
ここまで読んで、まだ決められないなら、手に入る範囲でいちばん良いものを 1 本買って、使い切ってください。
不満が言葉になったときが、次の 1 本を買うときです。








