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音響工学 · 2026.08.10

33個のデジタルマイクとFPGAで、音の来る方向はどこまで特定できるのか、その研究を読む(2015年)

騒音源をリアルタイムで特定する。そのために33個のデジタルMEMSマイクとFPGAを組み合わせ、遅延和ビームフォーミングを実装した研究を読み解きます。

目次

騒音源をリアルタイムで見つけたい。

多数のマイクロフォンを使えば音の到来方向は捉えられる。

だが小型の装置で高速に処理するには、回路設計の自由度と処理速度の両立が壁になる。

こんにちは。

音楽家の朝比奈幸太郎です。

この記事では、33個のデジタルMEMSマイクロフォンとFPGAを組み合わせ、遅延和ビームフォーミングを実装した研究(Salomほか, 2015年)を読んでいきます。

FPGAとデジタルMEMSマイクの組み合わせは、なぜ検討されたのか

音の到来方向を機械で特定する技術に、アコースティックカメラがあります。

アコースティックカメラとは、マイクロフォンアレイと光学カメラを組み合わせ、ビームフォーミングで音場を可視化する装置です。

しかし著者らは、既存のアコースティックカメラにはサイドローブの発生や半空間カバレッジといった課題があると指摘します。

そこで検討されたのが、FPGAとデジタルMEMSマイクロフォンの組み合わせです。

FPGA(Field Programmable Gate Array)とは、ハードウェア記述言語で並列デジタル回路を柔軟に構築できるプログラマブルロジックデバイスです。

CPUのように命令を逐次実行するのではなく、回路そのものを書き換えられます。

そのため信号処理の並列実行に向いており、安全性や消費電力の面でも利点があります。

デジタルMEMSマイクロフォンとは、音響トランスデューサ、プリアンプ、シグマデルタ変換器を1チップに集積した小型マイクロフォンです。

従来のアナログマイクロフォンのように外部にADコンバータを必要とせず、デジタル信号を直接出力できます。

本研究で使われたInvenSense ADMP621は、SNRが65 dBA、感度が-46 dBFS、周波数応答が100 Hzから16 kHzの製品です。

出力形式はPDM(Pulse Density Modulation)です。

PDMとは、パルスの密度でアナログ信号振幅を表現する変調方式で、FPGAにデジタル信号を直接入力できる点が、小型軽量な設計を可能にします。

方向特定の中核となるのが遅延和ビームフォーミングです。

遅延和ビームフォーミングとは、各マイクロフォンで受信した信号を方向ごとに時間差補償してから加算し、目的方向の信号を強調して他方向を抑圧する手法です。

ビームフォーミングのなかでも最も基本的な方式にあたります。

複数のマイクに音が到達する時間差を利用し、特定方向からの信号を強め、他方向からの信号を弱めます。

FPGAは高度な並列算術アーキテクチャを実装できるため、遅延和ビームフォーミングのようなカスタムデータパスプロセッサの作成に理想的です。

またデジタルMEMSマイクはADCが不要でFPGAと直接デジタル接続できるため、追加部品を削減できます。

この組み合わせによって、小型で柔軟な音響モニタリングシステムの実現が期待されました。

33個のマイクとFPGAで、音の方向をどう特定したのか

著者らはまず、マイクロフォンアレイを設計しました。

33個のデジタルMEMSマイクロフォンを、同心円リング上に配置します。

各リングの半径は、内周から順に25 cm、40 cm、55 cm、70 cmです。

これらのマイクロフォンから出力されるPDM信号は、まずFPGA(Xilinx Spartan-6 LX25)上でPCM信号に変換されます。

変換には、CICフィルタ(シグマデルタ変調されたPDMビットストリームを高いデシメーション比でダウンサンプリングするフィルタ)、ハーフバンドフィルタ、LP FIRフィルタを用います。

マイクロフォンのクロック周波数は3.072 MHzで、デシメーション比は64、最終的な出力サンプリングレートは48 kHzのPCM信号となります。

PCMに変換された各チャンネルの信号は、遅延和ビームフォーミング処理に入ります。

この処理では、各方向に対して、マイク間の到達時間差を補償したうえで全チャンネルを加算し、目的方向の信号を強調します。

音源がアレイから十分離れており到来波面が平面波とみなせる遠距離場の条件を前提としています。

指向性パターンの算出にはRMS検出器(ビームフォーミング後の信号の実効値を特定の時定数で平均化し、方向ごとの出力レベルを求めるブロック)を用い、6度ステップで極座標ストリームと主要方向を出力します。

測定は半無響EMCチャンバ内で行われました。

アレイ中心から5 m離れた位置にPCラウドスピーカーを置き、ホワイトノイズおよびピンクノイズを再生して音源としました。

著者らは、Matlabによるシミュレーションと実測の両方で指向性パターンを評価しました。

評価したマイク構成は、全マイクを使う構成、一つのリングのみを使う構成、スター型に配置した構成です。

シミュレーションとの比較を採ったのは、Matlab上の理想的なモデルと実機での測定を突き合わせることで実装の妥当性を判断するためです。

指向性パターンは、どこまで予測と一致したのか

Matlabシミュレーションと実測の指向性パターンは、概ね一致しました。

ただしEMCチャンバの壁面における不完全な吸音処理に起因する反射が、実測結果に現れています。

評価したすべてのマイク構成で、音源方向を特定できる指向性パターンが得られました。

FPGA実装についても、Spartan-6 XC6SLX25への実装が成立することが確認されています。

以下に、本研究で用いられたアレイの幾何学的な仕様と、測定系の主要パラメータを整理します。

マイクロフォンアレイの幾何学的仕様
リング半径
第1リング(最内周)25 cm
第2リング40 cm
第3リング55 cm
第4リング(最外周)70 cm
測定系の主要パラメータ
項目
使用マイクロフォン数33
マイクSNR65 dBA
マイク感度-46 dBFS
マイク周波数応答100 Hz 〜 16 kHz
クロック周波数3.072 MHz
出力サンプリングレート48 kHz
デシメーション比64
音源距離5 m
角度分解能6度

この結果は、どんな場面にまで広げられるのか

著者らの挙げる限界は次のとおりです。

第一に、風速や風向の影響の補正、および気温変化による音速の変動に対する補正が組み込まれていません。

屋外での使用を考える場合、これらの要素は無視できず、将来の実装課題とされています。

第二に、半無響室での測定において、壁面の不完全な吸音処理に起因する反射が結果に現れました。

理想的な自由音場での測定とは異なり、反射の影響を完全には排除できなかったことを著者ら自身が認めています。

また、この研究から自然に読み取れる適用範囲もあります。

測定は一つの音源(PCラウドスピーカー)から5 mの距離で、ホワイトノイズとピンクノイズを再生する条件で行われました。

アレイの形状は同心円リングであり、マイクロフォンの周波数応答範囲は100 Hzから16 kHzです。

得られた知見はこれらの条件の範囲内で成り立つものであり、異なるアレイ形状や、より低い周波数、複数音源が同時に存在する環境への適用には、別途の検証が必要です。

この研究は、音響モニタリングの技術地図のどこに置かれるのか

この研究が示したのは、デジタルMEMSマイクロフォンとFPGAを組み合わせることで、遅延和ビームフォーミングに基づくリアルタイム音源方向推定が一つのデバイス上に実装できるという事実です。

小型マイクロフォンのデジタル直接接続と、FPGAの並列処理能力を活かした設計は、音響カメラのような装置をより小型に、より柔軟に構成できる可能性を示しています。

一方で、これは2015年のAESコンベンションで発表された研究であり、あくまで基礎的な実装と評価を目的としたものです。

風や温度といった屋外環境の補正、複数同時音源への対応、より広帯域での性能評価など、実用に近づくために検討すべき項目が著者自身によって明確に示されています。

この研究は、FPGAベースのマイクロフォンアレイ信号処理における一つの実装例として、分野の地図に位置づけられます。

参考資料

Iva Salom, Vladimir Čelebić, Milan Milanović, Dejan Todorović, Jurij Prezelj「An Implementation of Beamforming Algorithm on FPGA Platform with Digital Microphone Array」(2015年、AES Convention 138, Convention Paper 9335)

原典の主張は、「An Implementation of Beamforming Algorithm on FPGA Platform with Digital Microphone Array」をご参照ください。

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