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REVOX A77が持つ、他のテープデッキでは決して再現できない情報密度の高い豊かな音質。
その秘密は、洗練されたアナログ回路設計にあります。
とりわけ、A77の内部に搭載された複数のプリント基板(PCB)は、それぞれが明確な役割を持ち、アナログ信号処理を極めた構造になっています。
信号経路をできるだけ短く保ち、必要な部分でのみ厳選されたコンポーネントによって増幅・制御を行うという、徹底的な合理性がここに詰まっています。
本記事では、その基板ごとの役割と構成、修理・整備のヒントまでを、写真とともに徹底解説していきます。
REVOX A77 の内部基板構成|全体像と安全な確認方法

第1章:Input Amplifier CH1 / CH2(1.077.700)
録音入力信号の心臓部:A77の音を決める最初のゲインステージ。
基板の役割と構造
REVOX A77 に搭載されている「Input Amplifier CH1 / CH2」基板(型番:1.077.700)は、それぞれ左(CH1)・右(CH2)チャンネルに対応した録音入力プリアンプ基板です。
この段階ではマイク入力やライン入力の信号が増幅され、後段の録音アンプへと送られます。
- 入力信号のゲイン調整
- 低ノイズでの初段増幅
- イコライゼーション前の整形
という重要な処理が行われ、A77特有の自然で滑らかな録音音質はこの回路設計によるところが大きいです。
- トランジスタによるディスクリート回路構成(FETではなくBJT)
- 高品質なフィルムコンデンサとセラミックコンデンサの組み合わせ
- パッシブ部品(抵抗・コンデンサ)によるゲインと周波数帯域の設定
- 基板上の可変抵抗(トリマー)でゲイン微調整可能(サービスマニュアルに従う)
よくある不具合と症状
メンテナンスポイント
- 可変抵抗の洗浄 → 接点復活剤は使用量を最小限に。
多用すると抵抗値がズレる場合があります。 - トランジスタの交換 → BC107/BC550等に相当。
ゲインマッチングに注意してペアで交換。 - フィルムコンデンサの確認と交換 → 0.1μF / 0.047μF などが使用されている箇所は、WIMA製など信頼性の高い製品へ交換推奨。
- 基板ごと引き抜いて作業可能 → ソケット式であり、取り外し・挿し替えが比較的簡単。
作業前に絶縁対策を忘れずに。
修理・整備に使えるパーツ例
第2章:Record Amplifier CH1 / CH2(1.077.705)
REVOX録音音質の「魂」を司る中枢基板。
基板の役割と重要性
この基板は、A77の録音セクションにおいて最も音質へ影響を与える中核部分です。
Input Amplifierで増幅された信号はここで最終的に整形され、録音ヘッドを通じてテープに記録されます。
- NAB規格に準拠したイコライザー回路を内蔵
- 録音用バイアスとの混合回路を内蔵
- VUメーターへの信号分配も担う
CH1・CH2で独立した基板ですが、基本的な構成・部品配置・回路は完全に同一です。
回路構成の特徴
- 3段増幅構成(入力プリアンプ、バイアス混合段、出力バッファ)
- NABイコライザ回路(3,180μs):低域補正フィルムコンデンサと抵抗による時定数処理
- トランジスタ構成:Q501〜Q505(例):低雑音品を使用し、温度安定性を確保
- バイアス電流混合:録音バイアス信号と音声信号を加算し、ヘッドへ供給
よくある不具合と症状
メンテナンスで注目すべき部品
メンテナンスポイントと技術アドバイス
- 左右チャンネルのバランス調整:録音前にはサービスマニュアルに基づいてトリマ調整が必要
- テープ速度に応じたバイアス調整:19cm/sと38cm/sでは最適電流値が異なるため、オシロスコープまたはAC電流プローブで確認
- ハンダクラックに注意:長年の熱膨張収縮により、Q503やC507周辺のハンダに亀裂が入りやすい
- 録音品質チェック:テストトーンを録音→再生して、周波数バランス・歪みをチェックすることが理想
基板の取り扱い
- ソケット式で比較的容易に引き抜き可能
- 作業時には静電気対策と、基板背面のジャンパー線断線に注意
- トリマは小型で繊細なため、専用の精密ドライバーで調整し、力を入れすぎないこと
備考
この録音アンプ基板は、REVOX A77の録音音質を支える最重要回路です。
オリジナルのパーツを活かしつつも、安全性・耐久性・音質のバランスを見ながら慎重なリキャップ(コンデンサの総交換)を行うことで、真に“復活した”REVOX A77が手に入ります。
第3章:Playback Amplifier CH1 / CH2(1.077.720)
テープの音を“音楽”に変える、REVOX再生回路の核心。
基板の役割と重要性
Playback Amplifier(再生アンプ)基板は、再生ヘッドから出力される微弱な信号(数ミリボルト)をリスニングレベルまで増幅する重要な役割を担います。
- 微小信号の高精度な増幅
- NAB / IEC等の再生イコライゼーション処理
- 出力段はライン出力やヘッドフォンアンプにも接続
REVOX A77が持つ立体感のある自然な再生音は、この再生アンプ回路の高S/N比と絶妙な帯域設計によって支えられています。
回路構成の特徴
- 初段:低雑音トランジスタによる微小信号アンプ
- 中段:イコライザー段(RLC構成)
- 後段:バッファ/ラインドライバ
- DCカップリング設計(低域位相の安定性)
再生ヘッドからの信号は、低雑音トランジスタにより増幅された後、イコライザ回路を通って、最終的にラインアウトやモニター出力へと送られます。
よくある不具合と症状
メンテナンスポイント
- コンデンサ交換 → 特に0.1μF~1μFのフィルム/電解系は交換推奨。
高域の伸びが戻ります。 - トリマ調整 → 左右バランス調整用トリマがある場合、劣化していることが多いため交換も検討。
- トランジスタの再選定 → BC550や2N3904などのローノイズ型で代替可能。
左右同時交換が望ましい。 - NAB / IEC切替確認 → 一部基板にはEQカーブ切替ジャンパが存在。
切替設定を誤ると周波数特性が崩れます。
使用部品例と交換の目安
整備作業時の注意点
- 基板はソケット式だが、挿抜時の端子接触部に接点洗浄剤を使用するのは最小限に
- 再生ヘッドとの位置関係も含めて音を総合判断
- 作業前に録音テストテープで左右の再生バランスをチェックしておくと、作業後の比較がしやすい
再生基板の“音の決め手”とは?
REVOX A77が評価される理由のひとつに、「ただ増幅するだけで音が音楽になる」という評価があります。
これは、この再生アンプ基板の回路定数・帯域設計、使用部品(特にトランジスタとコンデンサ)の選定バランスによるもので、安易な“オーディオ用高級部品への交換”が逆効果になるケースもあるほどです。
可能な限りオリジナルの音質を尊重したうえで、劣化部品だけを厳選して更新することが、A77本来の音を蘇らせる最も確実な道です。
第4章:Oscillator Board(1.077.712)
録音と消去を支える「超高周波の心臓」。
基板の役割と重要性
Oscillator Board(発振器基板)は、A77 の録音および消去に欠かせない高周波バイアス電流(約120kHz)を生成する基板です。
ここが損傷していると、ゴーストと呼ばれるような前の録音が残ったような現象が発生します。
音声信号の録音を高音質で行うには、この高周波成分を音声信号に重ねて磁気テープに書き込む必要があり、また同じ発振器から供給される強力な高周波電流でテープを完全に消去します。
- 録音用バイアス信号の発生
- 消去ヘッド用の高周波電流供給
- 録音CH1/CH2両方を支配する1枚の中枢基板
回路構成の特徴
- 約120kHzのサイン波発振回路(コルピッツ型・プッシュプル出力)
- 左右チャンネルおよび2速度(19cm/s・38cm/s)対応の出力分岐
- コイル/トランス/コンデンサによる周波数安定化
- 電圧調整用トリマ x 4(各チャンネル × 各速度)
構成としては安定性と耐久性を重視しており、奇高調波の抑制や温度による周波数ドリフトの回避も意識された設計です。
よくある不具合と症状
メンテナンスポイント
- 発振コンデンサの交換(例:0.1μF〜0.33μF) → RIFA製のX2フィルムコンなどは膨張・亀裂が見られやすいため、事故予防にも交換必須。
- トランジスタの再選定 → バイアス発振段の Q701/Q702(例:BC107)は劣化しやすく、ペアで低ノイズ型に置換。
- バイアストリマ(P707〜P710)の調整と交換 → 接触不良が多く、録音バイアスが不安定になる場合があるため、信頼性の高い多回転型へ更新がおすすめ。
- バイアス出力波形のチェック → オシロスコープにてテストポイントから波形(約120kHzのサイン波)を観察することが望ましい。
使用部品例と交換の目安
整備・調整作業時の注意点
- 必ず絶縁と放電処理を実施:X2フィルムキャパシタにはACライン電圧がかかる箇所があるため、取り扱いに注意。
- 録音ヘッドとの組み合わせで最終調整:録音後の再生バランスを確認しながら微調整するのが確実。
- オシロスコープを活用できる環境が望ましい:簡易的な録音レベル計だけでは調整の限界がある。
補足:バイアス発振の音質への影響とは?
高周波バイアスは、ただ信号を上書きするだけでなく、テープへの記録効率と歪率、ノイズフロアの低減にも大きく関わります。
REVOX A77の録音品質がナチュラルかつ豊かな倍音を持つ理由の一つは、この発振器の設計とチューニングの精度にあります。
第5章:Power Supply Unit(PSU)とヒューズ回路
安定動作の“基盤”を支える、見えない屋台骨。
ユニットの役割と構成
REVOX A77 の電源部は、録音・再生・モーター制御など全ての回路へ正確な電圧を供給する心臓部です。
電圧の安定性やノイズの少なさは、最終的な音質にも直接関係します。
本ユニットには以下のような要素が含まれます:
- トランス(AC → 多系統のAC)
- 整流回路(ダイオードブリッジ)
- 平滑回路(電解コンデンサ)
- レギュレーター回路(トランジスタまたはZener方式)
- 各種ヒューズ:3本(背面・内部2本)
電源供給ラインの概要
A77に搭載されたヒューズの種類と位置
REVOX A77 MK II には合計3本のヒューズが使用されています。
※ PSU内部ヒューズは日本国内で代替品購入可(例:セラミック管タイプ推奨)
よくある不具合と症状
メンテナンスと修理ポイント
1. 背面ヒューズの確認
- テスターで導通確認(電源OFFでも可)
- ヒューズホルダー内部の腐食も要点検
- T1A 250V スローブロー(ガラス管 or セラミック可)
2. PSU内部ヒューズの点検
- 基板を固定している2本のネジを外し、慎重に取り出す
- 両端の金具にテスターのリードを当てて導通確認
- 型番:T315mA または F315mA(F = ファーストブロー)
3. 平滑コンデンサの交換
- 元は2200μF / 35V 程度の大型電解コンデンサが2本
- NichiconやPanasonicのオーディオグレードへ交換推奨
使用パーツの一例
音質との関係
電源部は「音が通るわけではないから音に関係ない」と思われがちですが、供給される電圧の質がノイズ感や定位の安定性に直接影響します。
特にリップルの多い電源は、録音時のSN比を劣化させ、再生時の「静けさ」を失わせます。
第6章:基板の取り出し方法
効率的かつ安全にメンテナンスを行うための準備作業。
なぜ「引っ張っても抜けない」のか?
REVOX A77の基板はソケット式で抜き差しが可能ですが、以下の理由により固着・取り出し困難なことがあります:
- ソケットの金属疲労で「固着」している
- 基板背面のパーツや配線がフレームに引っかかっている
- 長年のホコリ・酸化で端子が半ば“溶着”状態になっている
取り出し手順(例:Record Amplifier CH1)
- 電源を完全にオフにし、プラグも抜いておく
- 前面パネルを開放(ロック付きパネルの場合、左右の金具を外す)
- 対象基板を確認(型番と基板ラベルに注意)
- 両手で基板を均等に握る(片側だけ引かないこと)
- 左右にわずかに揺らしながら、まっすぐ手前に引き出す
- どうしても抜けない場合は、プラスチック製レバーや竹べらなどで、ソケット根元を軽くテコにして持ち上げる ※ 金属工具はショートのリスクがあるため非推奨
第7章:整備ログのつけ方
修理と音の記憶を記録し、資産としての価値を守る
なぜ整備ログが必要なのか?
REVOX A77のようなヴィンテージ機器は、「どこをどう触ったか」が品質と価値に直結します。
自分の作業の振り返りだけでなく、将来の再整備・販売時の信頼性にも関わります。
整備ログの基本構成(例)
整備ログの保存方法
- 紙とバインダー:修理工房スタイル、現場作業には最適
- Excel / Googleスプレッドシート:並べ替え・検索が容易、写真や波形ファイルのリンク管理も可能
- Evernote / Notion:画像+テキストで資産化、PDF化にも対応可能
おすすめ整備ログテンプレート(コピペ用)
■ 整備日:______
■ 基板名:______
■ 症状:
■ 処置:
■ 使用部品:
■ 調整内容:
■ 音質印象:
■ コメント:本記事では、REVOX A77 MK II に搭載された全ての主要基板について機能・構造・故障例・メンテナンス方法を網羅的に解説し、さらに整備の実践に役立つ基板の取り外し方法や整備ログの記録法までを紹介しました。
このA77という機体は、ただの録音機ではなく「音を記録する芸術品」です。
あなたの手で整備し、音を蘇らせることは、過去の名録音と向き合う最も直接的な方法です。



