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マイクロホンの周波数応答を測りたいとき、どんな音を当てればよいのか。
風船の破裂音、木板を打つ音、リボルバーの発射音、スピーカから流す測定用の信号。
どれも候補にはなりますが、測定に本当に適しているかははっきりしません。
この記事は、これらの音源を並べて比較した研究を読み解きます。
マイクロホンの周波数応答を測る音源には、何が求められるのか
マイクロホンの周波数応答を測るとき、結果は周波数応答関数(FRF)という量で表されます。
周波数応答関数(FRF)とは、測定対象のマイクロホンの出力スペクトルを、基準となるマイクロホンの出力スペクトルで割った比です。
式では H(ω)=YDUT(ω)/YREF(ω) と書きます。
DUT は測定対象のマイクロホンを指します。
基準マイクロホンとは、この FRF を求めるときに基準スペクトルを与える側のマイクロホンです。
マイクロホンの校正法は、規格 IEC 60268-4:2014 に置換法と同時比較法が定められています。
置換法とは、測定対象のマイクロホンと基準マイクロホンを、同じ音場の同じ測定点に交互に置く方法です。
交互に置くため、音源が毎回まったく同じ音を出せること、つまり音源の完全な再現が求められます。
同時比較法とは、両方のマイクロホンを離れすぎない位置に同時に置く方法です。
こちらは任意の音源を使えます。
音源に求められるのは、測りたい周波数帯域に十分なエネルギーを行き渡らせることです。
インパルス状音源とは、風船の破裂や木板の打撃、リボルバーの発射のように、広帯域の過渡的な音を出す物理的な音源です。
こうした音源は、レーザーで空気を破壊して音を出すような高度な音源に比べて安価という利点もあります。
では、安価なインパルス状音源と、従来のスピーカによる励振とでは、どれがマイクロホンの測定に適しているのか。
この研究は、市販のマイクロホンの周波数応答関数を製造者のデータと突き合わせることで比べています。
マイクロホンの特性をどう測り、どう整理してきたかという歴史は、マイクの基本原理は一世紀でどう体系化されてきたのか、その研究を読む で扱っています。
音源の違いは、どうやって比べられたのか
測定は無響室(音の反射を抑えた測定室)で行われました。
広さはおよそ 5.5 m × 5.5 m × 6.5 m です。
音源とマイクロホンは床のグリッドから 1.87 m の高さに置き、音源とマイクロホンの間隔は 1 m としました。
基準マイクロホンには GRAS 40BP を使いました。
音源は、インパルス状音源と、スピーカによる励振とに分かれます。
インパルス状音源には、大きさと色の異なる風船、30 cm × 40 cm の木板、空包入りの Harpax リボルバーを検討しました。
スピーカによる励振には、RCF ART 712-A MK4 というアクティブスピーカを使いました。
このスピーカは 12 インチのウーファと 1 インチのコンプレッションドライバを備え、50 Hz から 20000 Hz の帯域を持ちます。
これをスイープ正弦波(周波数を連続的に変えていく正弦波)で励振して、置換法の音源としました。
測定対象のマイクロホンは、Rode NT55(内蔵のハイパスフィルタを 150 Hz でオン)、Beyerdynamic M201、Audio-Technica 4050(内蔵のハイパスフィルタを 150 Hz でオン)です。
ハイパスフィルタは、低い周波数の成分を減衰させるフィルタです。
測定では FRF を H(ω)=YDUT(ω)/YREF(ω) として求め、製造者が提供するデータと比較しました。
なぜこの組み合わせなのか。
同時比較法は任意の音源を使えるため、反復再現性の低いインパルス状音源と組み合わせました。
置換法は音源の完全な繰り返しが必要なため、毎回同じ信号を再生できるスイープ正弦波を鳴らすスピーカと組み合わせました。
さらに最初の段階として、インパルス状音源のエネルギー分布を評価し、マイクロホン測定に適した候補を選ぶことを目指しました。
音源によって、マイクロホンの応答はどう違ったのか
まず風船についてです。
風船は直径が大きいほど発生音圧レベルが高く、低域の成分も大きくなりました。
風船の破裂音には、正面(オンアクシス)方向と反対(オフアクシス)方向で、主共鳴 f0 と f1 が観測されました。
これは高い指向性(音の性質が方向によって変わること)と、破裂位置への依存性を示しています。
検討した風船の直径と音圧レベル、主共鳴の値をまとめます。
木板打撃のスペクトルは全域に大きな山谷を含みました。
風船破裂のスペクトルはそれより変動が少なく、Harpax リボルバーは 20 Hz まで平坦なスペクトルを示しました。
マイクロホンごとの結果を見ると、Rode NT55 では風船による測定が最も一貫し、木板による測定が最も一貫しませんでした。
Beyerdynamic M201 では木板を除き製造者の応答と良好な相関を示しました。
木板の大きな山谷は、制御されていないスペクトル内容と、励振周波数の不足によるものです。
Audio-Technica 4050 では木板でも許容範囲で、風船では非常に正確でした。
周波数帯域ごとにも違いが出ています。
80 Hz 未満ではリボルバーが最も平坦で、風船も同程度でした。
リボルバーと風船は低域で従来のスピーカより多くのエネルギーを与え、この帯域ではインパルス状音源がより効率的と見られました。
80 Hz から 1 kHz では、どの測定技術・音源でも明瞭で変動がありませんでした。
1 kHz を超えると、同時比較法は置換法に比べ ±1 dB を超える偏差を示し、置換法が優れていました。
高域の残った変動は、供試マイクロホン自体、両マイクロホンの位置のずれ、スピーカの構成などが原因とされました。
この結果は、どこまで言えるのか
著者自身が述べた限界があります。
インパルス状音源はどれも、正確な反復測定を行えるほど予測可能・再現可能ではありません。
このためインパルス状音源は、反復再現性の制約から同時比較法でしか使えません。
また 1 kHz を超えると、同時比較法は置換法に比べ ±1 dB を超える偏差を示しました。
これは、供試マイクロホンと基準マイクロホンの間隔が、高域では波長と同程度になることと関連すると考えられます。
非常に高い周波数で残った変動は、供試マイクロホン自体の変動、両マイクロホンの位置が完全に同一ではないこと、置換法で使ったスピーカの代わりに同軸ドライバを使えば改善できた可能性などが原因として挙げられました。
この研究をどう受け止めるか
マイクロホンの周波数応答を測る音源について、安価な物理的インパルス状音源と、従来のスピーカによる励振とを、同じ条件の下で並べて比較した研究です。
音源ごとにエネルギー分布がどう変わるか、測定法とどう組み合わせるべきか、そして周波数帯域ごとにどちらが安定するかを、測定例として示しています。
この分野では、測定したい帯域に十分なエネルギーを行き渡らせられるかという問いと、音源を毎回同じように再現できるかという問いとが、常に背中合わせにあります。
この研究は、インパルス状音源が低域では効率的でありながら、反復再現性の点で同時比較法に縛られること、高域では置換法の方が安定することを示しており、その両立の難しさがどこにあるのかを浮き彫りにしています。
参考資料
Balloon explosion, wood-plank, revolver shot, or traditional loudspeaker large-band excitation: which is better for microphone measurement?
Balazs Kakonyi、Riyas Abdul Jaleel、Antonin Novak(2018年)
Presented at the 144th AES Convention, Milan, Italy, Convention Paper 9961
原典の主張は、Balloon explosion, wood-plank, revolver shot, or traditional loudspeaker large-band excitation: which is better for microphone measurement? をご参照ください。

