目次
マイクにはコンデンサ型、ダイナミック型、リボン型と多くの種類がある。
これらはどのような原理で音を電気信号へと変換しているのか。
また一世紀にわたる開発の歴史のなかで、その基本原理はどう整理されてきたのか。
1962年に発表された総説論文をもとに、マイクの体系を読み解く。
古い論文だな、、、と思うかもしれないが、音響の世界は実に古典を大切に現在も変わらぬ美学を受け継いているのかがうかがえる貴重な資料になっています。
マイクの基本原理は一世紀のあいだ、どう未整理だったのか
Bauer(1962)が指摘するのは、マイクがすでに広く普及した技術であったにもかかわらず、その一世紀におよぶ発明と改良の歩みを記録した体系的な文書が存在しなかったことです。
膨大な特許と製品が蓄積されている一方で、それらを横断する基本原理の整理は行われていませんでした。
ここで中心的な役割を果たすのが、等価回路という考え方です。
等価回路とは、マイクの機械的・音響的な要素(質量、コンプライアンス、抵抗)を、電気回路の素子(インダクタンス、キャパシタンス、抵抗)に対応させてモデル化する手法を指します。
この手法は無線工学からもたらされたもので、Bauer はこれをマイク開発にもっとも貢献した道具と位置づけています。
実際、1920年代末から1930年代にかけての重要な改良の多くは、等価回路解析を音響構造に適用したことから生まれました。
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一世紀の開発をどう整理し、分類したのか
Bauer のとった方法は、およそ100年にわたるマイクの発明と発展を歴史的に俯瞰し、そこから卓越した五つの変換方式を抽出して分類するというものです。
五つの変換方式とは、カーボン、コンデンサ(静電型)、圧電型、動電型、可動鉄片型です。
カーボントランスデューサは、炭素粒の緩い接触を利用し、変位に応じて抵抗値が変化する変換器です。
40 dB から 60 dB という固有の増幅率をもつことが、他の方式にない特徴です。
炭素粒の大きさは 60 メッシュから 80 メッシュです。
コンデンサ型(静電型トランスデューサ)は、ダイアフラムと背面板で構成されるコンデンサを利用します。
一定の電荷を与えた状態では、出力電圧はダイアフラムの変位に比例します。
ダイアフラムと電極の間隔は典型的に 0.001 インチ、容量は 25 pF から 50 pF です。
動電型(ムービングコイルトランスデューサ)は、ダイアフラムに取り付けたコイルが磁界のなかを動くことで、速度に比例した電圧(E = Blv)を生み出します。
圧電型はバイモルフと呼ばれる二枚の圧電材料を張り合わせた構造で、変位に応じた電位差を発生させます。
可動鉄片型は、可動アーマチャが磁気回路のリラクタンスを変化させ、速度に比例した信号電圧を生成します。
分類の軸となったのが、等価回路による解析です。
Bauer は、この等価回路解析こそが無線工学からもたらされたもっとも重要な道具であり、マイクの動作をより深く理解することを可能にし、将来の発展の基礎を築いたと述べています。
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さらに Bauer は、ダイアフラムの構造を四つに分類しました。
圧力マイクロホンは、ダイアフラムの片面だけを音圧にさらし、全方向に等しい感度をもつ方式です。
圧力傾度マイクロホンは、ダイアフラムの両面を音圧にさらすことで差動動作を得る方式で、双方向性の応答を示します。
これら二つの要素を等しい比率で組み合わせると、カーディオイドと呼ばれるハート型の単一指向性パターン(p = 0.5 + 0.5 cos θ)が得られます。
第四の構造は位相シフト型で、異なる経路長による位相差を利用します。
超指向性マイクについては、反射板・屈折板・回折板を用いる方式、ライン型、高次結合型の三つに整理されました。
五つの変換方式と指向性の体系から何が明らかになったのか
分類の結果、五つの変換方式が卓越したものとして同定されました。
指向特性については、圧力、圧力傾度、これらの組み合わせ、位相シフトの四つの原理にもとづいて、無指向性、双指向性、単一指向性(カーディオイド)、超指向性の各パターンが実現されることが示されました。
数値から読み取れる指向性の特性も明確です。
リボンマイクは、厚さ 0.0001 インチの波形アルミニウムリボンをダイアフラム兼導体とする圧力傾度マイクで、無作為入射時のパワー応答は無指向性マイクの 1/3 です。
カーディオイドを含むリマソン系列のなかで、無作為入射エネルギーの最小値は、無指向性を基準として 1/4(p = 0.25 + 0.75 cos θ)です。
また、前面から到来する音の無作為入射エネルギー比率がもっとも高くなるのは、p = 0.37 + 0.63 cos θ のときで、その値は 93 パーセントです。
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Bauer は将来の展望として、指向性マイクの継続的な改良、ワイヤレスマイクの普及、固体化変換方式の実用化、そして宇宙通信のための非従来型収音技術の発展を挙げています。
この総説の射程はどこまでか
Bauer は本論文に明示的な限界を記していません。
しかし、この研究の射程はその方法から自然に読み取れます。
第一に、対象はダイアフラムを用いて音圧または圧力傾度を運動に変換するマイクに限られています。
第二に、取り上げられた変換方式は、先に挙げた五つが中心です。
温度変化や誘電率の変化、磁化率の変化、屈折率の変化を通じて音を検出する方式については言及にとどまり、詳細な解説は行われていません。
同様に、流体接触の可変、真空管の可動素子、ピエゾ抵抗効果、点接触トランジスタといった変換方式も、広く採用されていないとして深くは扱われていません。
また、この総説が書かれた時点の技術水準を反映したものであり、それ以降の進展は含まれません。
この体系化をどう受け止めるか
Bauer の総説は、単なる歴史の羅列ではなく、等価回路という一貫した解析の枠組みを通じて多様なマイク技術を整理した点に特徴があります。
変換方式の分類と指向特性の整理は、その後のマイク工学の教育や設計において参照される基礎的な見取り図となりました。
本論文が書かれた時点で、Bauer は固体化変換方式の実用化やワイヤレスマイクの普及を「目前に迫った」展開として位置づけていました。
これらは予見として記されたものであり、本論文の価値はその予見の正否にあるのではなく、一世紀分の蓄積を一貫した視点で描き出したことにあります。
1962年という時点でのマイク技術の全景を、一貫した視点で描き出した記録として、現在も参照する意味のある文献です。
今日、多様なマイクのなかから一つを選ぶとき、私たちはこの百年の分類体系のどこに立っているのでしょうか。
その座標を確認するための地図として、この総説は読むに値します。
参考資料
B. B. Bauer, "A Century of Microphones," Proceedings of the IRE, vol. 50, pp. 719-729, 1962 May.
原典の主張は、A Century of Microphones をご参照ください。
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