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カーオーディオに投資しても、期待した音にならない。
原因の多くはスピーカーの性能ではなく、車室という小さな空間が音に与える影響にあります。
では、車内の音場をどう測り、どう評価すれば、聴き手の好ましさと結びつくのでしょうか。
Choi ら(2002年)の研究をもとに考えます。
車内の音場評価はなぜ難しいのか
カーオーディオの評価は、スピーカーユニット単体の性能に集中しがちです。
しかし実際に車内で聴く音は、スピーカーの取り付け位置と車室の音響特性によって大きく変わります。
コンサートホールのような広い空間では、音の減衰時間や、直接音と反射音のエネルギー比にもとづく指標が、音場評価に使われてきました。
ところが車室は容積が小さく、反射音がごく短時間で発生し減衰します。
そのため、ホール向けの従来指標では車種間の違いを捉えきれません。
また、単一のマイクによる測定では、直接音と反射音を分離できず、音の到来方向という空間的な情報も失われます。
ここで鍵になるのが、空間印象に関わる指標です。
IACC(Inter-Aural Cross-Correlation)は、左右の耳に届く信号がどれだけ似ているかを表す尺度です。
値が小さいほど両耳の信号が異なり、音の広がり感や包み込まれる感覚と関係します。
LEF(Lateral Energy Fraction)は、側方から届く音のエネルギーの割合で、空間の広がり感と結びつきます。
また、見過ごせないのがサウンドステージです。
サウンドステージとは、ステレオ再生において、各音源が空間上のどこに定位し、どの程度の幅で広がって聴こえるかという知覚を指します。
スピーカーの位置が左右非対称になりがちな車内では、とくに重要な要素です。
Choi らは、これらの空間的な指標を車内音場に適用し、主観評価と結びつけることを試みました。
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主観的な好みと物理測定をどう結びつけたのか
Choi らは5台の車を対象に、主観評価と物理測定の両面から評価を行いました。
いずれの車も、その車種向けに調整されたオーディオシステムが搭載されています。
まず主観評価です。
34語の形容語を用いて被験者に車内の音を評価してもらい、統計的な分類によって「音色の正確さ」「空間バランス」「ダイナミクス」「自然さ」「ノイズ」「ひずみ」の6つの代表項目に集約しました。
つづいて物理測定です。
測定には、HATS(Head and Torso Simulator)と、この研究のために開発された5本のマイクによる独自のアレイを用いました。
HATS は、人間の頭部と胴体を模したダミーヘッドで、耳の位置にマイクを内蔵しています。
これにより、左右の耳に実際に届く音を、耳介や頭部の影響を含めて収録できます。
5本マイクアレイは、従来の正四面体方式では球面上の等距離にある反射源を捉えられないという限界を克服するために設計されました。
中央にマイクを追加することで、その死角を補っています。
測定信号には、44.1 kHz のスイープトサインを使いました。
スイープトサインとは、周波数が連続的に変化する正弦波です。
ひずみに強く、ノイズの影響も受けにくいため、車室内のような反射の多い空間でのインパルス応答測定に適しています。
測定は、右前スピーカーのみ、左前スピーカーのみ、全スピーカー同時の三つの条件で行いました。
得られたインパルス応答から、従来の室内音響指標(RT、C80、D50、BR、LEF、IACC)に加えて、新たに開発した指標を計算しました。
新しい指標には、インパルス応答のごく初期に含まれるエネルギーと全体のエネルギーとの比、左右チャンネル間のバランス、両耳での1/3オクターブバンド RTA(125 Hz から 20,000 Hz の範囲)におけるばらつきの統計量、そして5本マイクアレイから得られる三次元の反射プロファイルが含まれます。
車種間の違いは何で捉えられたのか
まず、従来の時間-エネルギー指標(RT、BR、C80、D50)は、車室内では極端な値を示し、車種間で有意な差は見られませんでした。
これらの指標が車内音場の評価にはほとんど役立たないことが確認されたといえます。
一方、空間指標である LEF と IACC は、車種間で意味のあるばらつきを示しました。
音の定位やイメージングに関わるこれらの指標が、主観評価にとっても重要な要素であることが示唆されます。
LEF は car d で 0.15、IACC は car b の左前スピーカー条件で 0.56 という値が報告されています。
新たに開発された指標のうち、初期エネルギー比と左右バランスに関わるものは、車種間の違いを明確に示しました。
なかには、片方のチャンネルだけを鳴らした場合でも、反対側に大きく偏ったエネルギーを示す車種がありました。
左右バランス指標 F4 は car d で 10.89 に達しています。
音色の正確さで高く評価された車種(a、c)では、両耳 RTA の1/3オクターブバンドごとの偏差が小さく、標準偏差を超えるバンド数も少ない傾向にありました。
空間バランスで優れると評価された車種(a、c、e)では、チャンネル間の分離がよく、IACC が適度な範囲にあり、左右のスピーカーを個別に鳴らしたときの IACC の差が小さいという特徴が見られました。
RTA のばらつきを示す指標では、car b の最大値と最小値の差が 31.9、car e では標準偏差を超えたバンド数が 13 バンドでした。
5本マイクアレイによる三次元反射分布からは、車種ごとに異なる反射パターンが観察され、これがサウンドステージの知覚と関係している可能性が示されました。
この研究の結果はどこまで適用できるのか
著者らは、この研究の限界を明示していません。
そのため、研究の条件から自然に読み取れる適用範囲を整理します。
この研究の知見は、対象となった5台の車種、使用された HATS、専用に調整された各車のオーディオシステム、そして 44.1 kHz のスイープトサインによる測定という条件のもとで得られたものです。
測定は車室内という、反射音が約 100 ms のうちに集中して生起・減衰する特殊な音響空間で行われました。
得られた結果はこれらの条件におけるものであり、異なる車種、異なるスピーカー配置、異なる測定系へそのまま一般化できるかどうかは、この研究だけでは確かめられていません。
また、主観評価の被験者数や属性についても、この論文の報告範囲では詳細が不明です。
6つの代表項目に集約された形容語の選び方や、統計的な分類手法の詳細についても、論文の記述に委ねられています。
この研究をどう受け止めるか
2002年当時、カーオーディオの評価はスピーカーユニットの周波数特性やひずみ率といった、機器単体の測定に偏っていました。
Choi らの研究は、車室を含めた音場全体を、空間情報を保持したまま測定し、主観評価と結びつけようとした点で、車内音響の評価に一つの方向性を示したといえます。
とくに、ホール用の指標が車室では機能しないことを定量的に確認し、IACC や LEF といった空間指標の有効性を示したこと、そして5本マイクアレイによる三次元反射分布の可視化を試みたことが、この研究の核です。
車室音響という分野の初期の試みとして、測定と知覚をどう橋渡しするかという課題に正面から取り組んだ研究として位置づけられます。
参考資料
Chulmin Choi, Lae-Hoon Kim, Sejin Doo, Yangki Oh, Koeng-Mo Sung, "Assessment of Sound Field in a CAR," AES Convention 113, Convention Paper 5701, 2002.
原典の主張は、Assessment of Sound Field in a CAR をご参照ください。

