目次
三時間かけた色が、一瞬で消える
グレーディングが終わった。
ホールの陰影も、ピアノの艶も、思いどおりになった。
書き出して、フォルダを開いて、ダブルクリックする。
別物になってる?
。
白い。
眠い。
あるいは逆に、妙に暗く沈んでいる。
編集画面に戻ると、そちらは正しい。
同じファイルのはずなのに、二つの色が存在している。
この現象は、DaVinci Resolveを使う人が最も多く踏む落とし穴で、しかもほとんどの場合、映像は正しく書き出されています。
壊れているのは、あなたの作業ではありません。
順番に切り分けていきます。
三分あれば、原因は特定できます。
疑うべき場所は、三つしかない

原因は次の三つのいずれかです。
それ以外は、まずありません。
ひとつめは再生ソフト。
書き出したファイルを開いているプレイヤーが、独自に色を変換しているケースです。
これは最も頻度が高く、そして最も無害な原因です。
ふたつめはデータレベル。
映像信号の黒と白の位置を、書き出し時に取り違えている。
白っぽくなる、あるいは黒が潰れる典型的な原因です。
みっつめはプロジェクトの色設定。
作業していた色空間と、出力する色空間が食い違っている。
カラーマネージメントを有効にしている人に起こります。
重要なのは問題を切り分ける順番です。
多くの人はいきなり三つめを疑って設定をいじり回し、状況を悪化させます。
最初に確認するのは、書き出し設定ではありません。
まず、これだけやってください
原因を特定する前に、たった一つの実験をします。
これで、疑う範囲が三分の一に絞れます。
書き出したファイルを、二つの異なる再生ソフトで開いて見比べてください。
たとえばMacならQuickTime PlayerとVLC、WindowsならメディアプレーヤーとVLC。
VLCは無料で、色管理をほとんど行わないため、比較の基準として優秀です。
さらに確実なのは、YouTubeに限定公開でアップロードして、ブラウザで見ることです。
最終的に人が観る環境そのものなので、これが事実上の正解になります。
ここで結果が二つに分かれます。
プレイヤーによって色が違う なら、ファイルは正常です。
原因Aへ進んでください。
作業をやり直す必要はありません。
どのプレイヤーでも同じように色がおかしい なら、書き出し側に問題があります。
原因Bと原因Cへ進みます。
音の作業に置き換えると、これはミックスを別のスピーカーで鳴らしてみる行為に近い。
一つの環境だけで判断すると、機材の癖なのか素材の問題なのか、永遠に切り分けられません。
原因A 再生ソフトが、勝手に色を変えている

これが最頻出です。
映像ファイルには「この映像はRec.709という規格で作られています」という札(メタデータ)が付いています。
再生ソフトはその札を読み、画面の特性に合わせて表示を調整します。
ここまでは正しい動作。
ところが、この調整の解釈がソフトごとに違うんです。
特にmacOSのQuickTime Playerは、システム全体の色管理を通すため、Resolveの表示より明るく、コントラストが浅く見えることがあります。
これが有名な「ガンマシフト」と呼ばれる現象です。
また、Windowsで白っぽく見える場合、真っ先に疑うべきはディスプレイ設定のHDRがオンになっていないか確認してください。
Windowsの設定 → システム → ディスプレイ → HDRを使用する、の項目です。
ここがオンだと、SDRの映像が薄く眠く表示されます。
編集中もこの状態なら、そもそも判断の土台が崩れていますので、オフにしてください。
対処方法としては、YouTubeやSNSに上げた結果が正しければ、それが正解です。
手元のプレイヤーの見え方に合わせて色を作り直してはいけません。
それをやると、公開した映像が今度は濃すぎることになります。
判断の基準は常に、視聴者の環境に置きます。
これはオーディオでも同じことなのです。
原因B データレベルの、フルとビデオ

どのプレイヤーでも白っぽい、あるいは黒が塗り潰されている場合、ここです。
映像の明るさは、数値で記録されています。
この数値の使い方に、二つの流儀があります。
0から255までを全部使うフルレンジと、16から235までしか使わないビデオレンジです。
放送の歴史的な事情で、後者が長く標準でした。
問題は、書き出す側と再生する側で流儀が食い違ったときです。
ビデオレンジで作られた映像をフルレンジとして読むと、本来「黒」だった16という値が、より暗い位置へ引き伸ばされ、黒が潰れます。
逆に、フルレンジの映像をビデオレンジとして読むと、黒が持ち上がって灰色になる。
あの白っぽさの正体は、これです。
DaVinci Resolveでは、デリバーページの詳細設定に「データレベル」という項目があります。
既定は「自動」で、通常はこれが正しく働きます。
しかし素材が混在していたり、特殊なコーデックを使ったりすると、判定を誤ることがあります。
H.264やH.265で、Rec.709の一般的な映像を書き出すなら、ビデオレベルが正解です。
ここを明示的に指定してから、もう一度書き出してみてください。
これで直る例が、非常に多い。
なお、クリップ側にも同じ設定があります。
メディアプールでクリップを右クリックし、クリップ属性を開くと、そこにもデータレベルの項目がある。
入口と出口の両方に流儀があるという点だけ覚えておくと、迷いません。
原因C 出力カラースペースの食い違い
カラーマネージメントを有効にしている場合の原因です。
プロジェクト設定のカラーマネージメントで「DaVinci YRGB Color Managed」を選んでいると、Resolveは入力・作業・出力の三つの色空間を管理します。
このうち出力が、実際の配信先と食い違っていると、書き出しの色がずれます。
一般的な配信を想定するなら、出力カラースペースは Rec.709 Gamma 2.4 が標準です。
ただしmacOSで作業し、Webでの見え方に合わせたい場合、Rec.709-A を選ぶとQuickTimeやブラウザでの見え方に近づきます。
この二つは、暗部の見え方が目に見えて違います。
どちらが正しいかは、環境によって変わります。
決め方は単純で、限定公開でYouTubeに上げ、正しく見えた方を採用してください。
理屈より、結果です。
そしてもう一つ。
素材がiPhoneのHDR動画である場合、入力側の設定が合っていなければ、出力を何度直しても正しくなりません。
この場合は入口の問題なので、iPhoneのHDR動画が白っぽく見える原因と直し方を先に読んでください。
見落としがちな、もう一つの落とし穴
三つの原因をすべて潰しても直らない場合、確認すべき場所が一つあります。
Resolveのビューアで、画面右上のオプションから「クリーンフィード」や各種のオーバーレイが有効になっていないか、そしてノードの一部が無効化されていないかです。
特定のノードをバイパスしたまま書き出すと、当然その色は出力されません。
カラーページで、無効になったノードは薄く表示されます。
三時間の作業のあとでは、意外と気づけません。
結局、何を信じればいいのか
この記事の結論は、設定値ではありません。
判断の基準をどこに置くかです。
編集画面の色は、あくまであなたの環境での見え方です。
書き出したファイルの色は、それを読む側の解釈で変わります。
どちらも絶対ではない。
信じるべきは、実際に人が観る場所での見え方です。
YouTubeに上げて確認する。
可能なら、自分以外の端末でも開いてみる。
その手間を一度かけておけば、以降のすべての判断が安定します。
録音でいえば、最後に必ずスマートフォンのスピーカーで鳴らして確かめる行為に相当します。
プロが必ずやることで、そして最も省略されやすい工程です。
まとめ
書き出した色が違うときは、まず同じファイルを二つの再生ソフトで開く。
プレイヤーごとに違うなら、ファイルは正常で、原因は再生環境。
どこで見ても同じにおかしいなら、データレベルをビデオレベルに指定して書き出し直す。
それでも直らなければ、出力カラースペースを確認する。
この順番を守れば、必ず原因にたどり着きます。
設定を闇雲に変える前に、切り分けてください。
次は、色を扱ううえで避けて通れない土台の話です。
入力・作業・出力という三つの色空間が、なぜ必要なのかを扱います。



