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同じ演奏なのに、映像が退屈に見える
演奏はうまくいったのに、あとで見返すと映像が平坦に見える。
理由は編集ではなく、カメラの位置かもしれません。
演奏動画は、撮り始めた瞬間にほとんどが決まっています。
色は編集で直せますが、カメラの高さと距離と角度は、あとから直せません。
これはマイクの位置と同じですね。
そしてこの三つは、10分あれば決められます。
この記事では、手元・全身・客席という三つの基本形と、楽器ごとの置き場所を整理します。
まず、目的を一つに決める
カメラ位置に「万能の正解」はありません。
映像の目的が違えば、正解も変わるからです。
演奏動画の目的は、実務上は三つに分かれます。
一つ目は、技術を見せること。
指使い、運弓、ペダリングを見せたいなら、カメラは手元に寄ります。
二つ目は、記録すること。
コンクール、オーディション、レッスンの記録なら、全身と楽器が入っていることが条件になります。
三つ目は、雰囲気を伝えること。
リサイタルの告知や、演奏そのものの空気を残したいなら、客席側からの引きが効きます。
ここで大事なのは、一本の動画に三つを詰め込まないことです。
「技術も見せたいし雰囲気も出したい」と欲張ると、中途半端な中距離になり、手元も表情も読み取れない映像になります。
まず一つ選んでください。
高さは、演奏者の胸から目の高さ
三つのどれを選ぶ場合でも、共通する原則があります。
カメラの高さは、演奏者の胸から目の高さの範囲に置くこと。
これだけで映像の印象が変わります。
低すぎるカメラは演奏者を見上げる構図になり、顎の下が写って威圧的になります。
高すぎるカメラは見下ろす構図になり、演奏者が小さく、頼りなく見えます。
床置きのスマートフォンで撮った映像がどこか素人っぽく見えるのは、色でも画質でもなく、この高さの問題です。
三脚は必ず使ってください
演奏動画において、三脚は照明よりも先に買うべき機材です。
手持ちで撮った映像は、どれだけ丁寧に演奏しても落ち着いて見えません。
高さが足りない三脚しかない場合は、机や椅子の上に置いて、テープで固定するだけでも構いません。
大事なのは絶対に動かないことです。
距離を取って、望遠側で寄る
もう一つの共通原則が、距離です。
被写体に近づいて撮ると、手前が大きく、奥が小さく写ります。
スマートフォンの標準カメラは広角寄り(35mm換算でおよそ24〜26mm)なので、この歪みが強く出ます。
近くから撮ったピアノが、鍵盤だけ巨大で奥行きが不自然に伸びて見えるのはこのためです。
対策は単純です。
カメラを最低2メートル、できれば3メートル離してください。
そのうえでスマートフォンなら2倍、カメラならレンズの望遠側で構図を合わせます。
同じ「全身が入る絵」でも、近くから広角で撮るのと、離れて望遠で撮るのとでは、まったく別の映像になります。
離れて望遠のほうが、演奏者の体型も楽器の形も自然に写ります。
なお、スマートフォンの倍率を上げすぎるとデジタルズームになり画質が落ちる機種があります。
光学の2倍までに留めるのが安全です。
三つの基本形
手元
技術を見せる映像です。
ピアノなら鍵盤の上から、ギターやウクレレなら弦の上から、指の動きが読み取れる範囲に寄ります。
このとき、手元だけを切り取らないでください。
手元しか写っていない映像は、演奏者が誰なのか分からず、記録としても作品としても弱くなります。
顔の一部、あるいは上半身の輪郭がフレームの端に入っているだけで、映像は人間のものになります。
手元は「弾いてみた」やSNSに強い構図です。
縦画面との相性も良いので、Instagram向けなら手元+縦を選ぶと再生が伸びます。
全身
記録の基本形です。
演奏者の全身と、楽器の全体が入ること。
上下左右に少し余白を残すこと。
この二つを満たしていれば、コンクールやオーディションの提出動画として通用します。
余白を残す理由は、演奏中に体が動くからです。
ぴったり収めると、盛り上がった場面で頭や弓先がフレームから切れます。
撮影前に、いちばん大きく動く箇所を一度弾いて、切れないことを確認してください。
多くのコンクールは「演奏者の手元と全身が確認できること」「編集による繋ぎがないこと」を要件にしています。
規定の具体的な読み方は、コンクール提出動画の記事で別途扱います。
客席
雰囲気を伝える映像です。
ホールなら客席の中央より少し前、ライブハウスなら人の頭が入らない高さから。
この構図の強みは、空間が写ることです。
天井の高さ、椅子の並び、照明の落ち方。
演奏の音がどんな場所で鳴っているのかが、映像で伝わります。
弱点は、演奏者が小さくなることと、会場が暗い場合にノイズが出やすいことです。
暗い会場での撮影は、露出を上げるより、あとで色を整えるほうが破綻しません。
そのあたりは照明とグレーディングの記事で扱います。
楽器別の、置き場所
ピアノ
正面ではなく、演奏者の右斜め前、鍵盤に対しておよそ45度が基本です。
この位置なら、顔・上半身・鍵盤・手の動きが一つのフレームに収まります。
グランドピアノの場合は、開いた蓋が反射板になって顔に光を返してくれる側から撮るときれいです。
真横は手元が見えず、真正面は蓋に隠れます。
45度は妥協ではなく、最適解です。
ヴァイオリン・ヴィオラ
正面よりわずかに左(演奏者から見て右手側)に寄せます。
弓の動きが横切る方向が見え、右手の運弓が読み取れます。
真正面に置くと、弓が奥行き方向に動くため、動作がほとんど見えません。
チェロ・コントラバス
正面やや右。
左手のポジション移動が見えることを優先します。
楽器が大きいので、全身構図は縦の余白を多めに取ってください。
管楽器
正面またはやや斜め。
管楽器は指よりも姿勢と息づかいが映像的な情報になるので、上半身が大きく入る構図が向いています。
ギター・ウクレレ
座奏なら斜め上から、右手のストロークと左手のコードが両方入る角度。
「弾いてみた」なら手元寄り、ライブ映像なら全身。
用途で明確に分かれます。
歌
顔が主役です。
胸から上のバストショット、目線の高さ。
このとき、背景に生活感のあるものが写り込んでいないかを必ず確認してください。
歌の映像は、視聴者が顔をじっと見るぶん、背景の情報が邪魔になります。
1台しかないなら、二回撮る
カメラが1台しかない場合、多くの人は「どちらか一つを諦める」と考えます。
しかし、別の方法があります。
同じ曲を、カメラ位置を変えて二回弾くのです。
一回目は全身、二回目は手元。
音は両方ともレコーダーで別撮りしておきます。
この二本を編集で切り替えれば、1台のスマートフォンで2カメラ風の映像になります。
演奏が二回とも同じテンポで進むわけではないので、映像同士は完全には合いません。
ですが、音を一方のテイクに統一してしまえば、映像の切り替わりは違和感になりません。
演奏の「見せ場」だけ手元に切り替える、という使い方で十分効果があります。
この方法の面倒なところは、映像と別撮り音声を手作業で合わせる工程です。
波形を見ながらドラッグして、数フレーム単位で詰めていく作業に、一本あたり15分から30分かかります。
その工程を自動化したのが、空音開発のKUON VIDEO SYNCです。
映像ファイルと別撮り音声ファイルを選ぶだけで、ずれを1000分の1秒単位で検出して音を差し替えます。
音を差し替えるだけなら映像は再圧縮しないので、画質は撮影したままです。
書き出す音量は配信基準の−14 LUFSに自動調整され、処理はすべて端末内で完結します。
映像や音声がサーバーに送信・保存されることはありません。
会員登録は無料で、2GB・30分までの動画を扱えます。
二回撮って切り替える手法は、この工程が自動になった時点で、はじめて現実的になります。
▼無料会員登録はこちら (CTAボタン設置位置)
ツールの詳細はこちらです。
https://kuon-rnd.com/video-sync-lp
撮る前の、30秒チェック
演奏を始める前に、これだけ確認してください。
三脚が水平か。
傾いた映像は、あとから回転させると画角が削られます。
演奏者の全身、あるいは意図した範囲がフレームに収まっているか。
いちばん大きく動く場面で切れないか。
背景に不要なものが写っていないか。
譜面台のケース、飲みかけのペットボトル、洗濯物。
これらは映像の質を一段下げます。
露出とフォーカスが固定されているか。
スマートフォンは自動で明るさとピントを変え続けるので、演奏中に画面が明滅します。
画面を長押ししてAE/AFロックをかけてください。
そしてHDR撮影がオフになっているか。
iPhoneの初期設定はHDR録画で、これをそのままにするとPCで白っぽく見えます。
理由と設定方法はこちらにまとめています。
https://kuon-rnd.com/journal/iphone-hdr-video-washed-out
まとめ
目的を一つに決める。
高さは演奏者の胸から目の高さ。
距離は2メートル以上取って、望遠側で寄る。
手元・全身・客席のうち、記録なら全身、SNSなら手元、告知なら客席。
ピアノは右斜め45度、ヴァイオリンはやや左、歌はバストショット。
1台しかないなら、二回弾いて切り替える。
カメラ位置は、編集で取り返せない唯一の要素です。
ここに10分使うほうが、グレーディングに2時間使うより映像は良くなります。
撮影から書き出しまでの全体像は、工程表の記事にまとめています。
https://kuon-rnd.com/journal/performance-video-workflow
次は、コンクール提出動画の規定と、編集がどこまで許されるのかを扱います。



