空音開発Kuon R&D
音響工学 · 2026.08.11

FETでコンデンサーマイクロホンの増幅器を作れるのか、その研究を読む

FETが市販されるようになり、コンデンサーマイクロホンの増幅器を真空管から半導体に置き換えられるかが問われました。中村・若林による回路定数と雑音の関係を等価回路で解析した研究を読み解きます。

目次

コンデンサーマイクロホンは、音を受けて振動板と固定電極の間の電気容量が変わることで動作します。

その微小な容量変化を信号として取り出すには、きわめて高い入力インピーダンスを持つ増幅器が必要です。

長いあいだ真空管がその役割を担ってきましたが、FET(電界効果トランジスタ)が市販されるようになり、半導体による置き換えが現実味を帯びてきました。

FETを使えば真空管と同等かそれ以上の性能を実現できるのか。

中村仁一郎と若林倫子によるこの研究は、回路定数と発生雑音の関係を等価回路から明らかにし、実際に試作してその性能を確かめました。

古い資料ですが、メモとしてシェア解説していきます。

なぜ真空管をFETに置き換える必要があったのか

DC型コンデンサーマイクロホンでは、カプセルにあらかじめ直流の高い電圧をかけておきます。

信号を取り出す前置増幅器には高い入力インピーダンスが求められ、従来は真空管が使われ続けてきました。

真空管はこの条件を満たしますが、消費電力が大きく、発熱し、寿命も有限です。

半導体化できれば、小型化や省電力化、信頼性の向上が見込めます。

コンデンサーマイクロホンの真空管から半導体への移行については、U 87は真空管をどう置き換えたのか、その開発記録を読むもあわせてご参照ください。

FETは高入力インピーダンス、低雑音、耐放射線性などを持つ半導体素子です。

この研究では、シリコンpチャネル接合型FETの2SJ-12が使われました。

増幅作用を示す指標である伝達コンダクタンス(gm、ドレイン電流の変化とゲート・ソース間電圧の変化の比)は200 tzf_です。

ゲート・ソース間容量は1.0 pF、ゲート漏れ電流は30 /qμAでした。

前置増幅器の基本構成にはソースフォロワ回路が採用されました。

ソースフォロワはドレイン接地回路の一種で、高い入力インピーダンスと低い出力インピーダンスを両立できる回路形式です。

その後段にはバイポーラトランジスタが組み合わされています。

この構成は、コンデンサーマイクロホンのように高インピーダンスの信号源から、後続の機器へ低インピーダンスで信号を渡すために選ばれました。

コンデンサーマイクロホンのカプセルに直流バイアス電圧を与えるための高抵抗は偏倚抵抗(polarizing resistor)と呼ばれます。

この偏倚抵抗は増幅器の雑音性能に直接影響するため、値を慎重に選ぶ必要があります。

この研究では偏倚抵抗Rの最小推奨値として150 Mf_が示されました。

なお、DC型コンデンサーマイクロホンに必要な直流高電圧を得るために、ブロッキング発振器を用いたDC-DCコンバータが使われています。

これはパルスを発生し、昇圧と整流によって直流高電圧を得る発振回路で、消費電流は500 Wkです。

回路の雑音をどう解析したのか

研究の核心は、等価回路による雑音解析です。

増幅器で発生する雑音には複数の種類があります。

熱雑音は、導体や半導体中の電子の熱的ランダム運動によって生じる雑音です。

ショット雑音は、キャリアの離散的な流れによって生じます。

とくにゲート漏れ電流に起因するショット雑音が、FET増幅器では注目されました。

さらに、周波数に反比例して増加する低周波雑音である1/f雑音も、FETの伝導チャネルで顕著に現れます。

研究者たちは、FETの伝導チャネルで生じる熱雑音、ゲート漏れ電流によるショット雑音、次段のバイポーラトランジスタにおける拡散雑音と熱雑音をすべて含む等価回路を構築しました。

その等価回路から入力換算雑音電圧の式を導出し、雑音の周波数特性を計算しています。

この式の中でとくに注目されたパラメータが、偏倚抵抗Rと、ソース・ゲート間に挿入する抵抗R3の二つです。

Rはカプセルへのバイアス供給に、R3はFETの動作点設定に関わります。

これらの抵抗値が変わると、雑音の周波数特性がどう変化するかを計算で予測しました。

計算だけでは終わらせず、実際に試作回路を組んで検証しています。

種々のRおよびR3の値に対して出力雑音スペクトルを測定し、計算結果と実測値を比較することで、等価回路モデルの妥当性を確認しました。

偏倚抵抗Rを500 Mohmとしたときの雑音指数(信号対雑音比が増幅器の通過によって劣化する度合い)も測定されています。

何が分かったのか

等価回路解析と試作測定から、いくつかの知見が得られました。

第一に、FETのソース・ゲート間に大きな抵抗R3を挿入すると、低周波域での信号対雑音比が改善されることが分かりました。

試作回路ではR3の最適値は約300 Milでした。

第二に、ゲート漏れ電流によるショット雑音は全可聴域で等価入力換算約-135 dBであり、1 kHz以上では支配的な雑音源となります。

これに対して、FETの伝導チャネルで生じる1/f雑音は低周波ほど大きいものの、R3を適切に選ぶことで抑圧できることが示されました。

電流雑音由来の等価入力雑音レベルは、1 kHzにおいて-150 dB、100 Hzにおいて-155 dBです。

試作した前置増幅器全体の性能をまとめます。

試作前置増幅器の総合性能
項目
A特性重み付け等価入力雑音レベル-107 dB
SN比(感度 -57 dBのヘッド使用時)50 dB
等価音圧24 dB
歪み1%未満の最大入力レベル-5 dB
歪み閾値に相当する音圧レベル126 dB
温度利得変動0.1 % per degree centigrade

A特性重み付けによる等価入力雑音レベルは-107 dBです。

感度-57 dBのマイクロホンヘッドと組み合わせたときのSN比は50 dBで、これは等価音圧24 dBに相当します。

歪みが1%未満に収まる最大入力レベルは-5 dBであり、音圧に換算すると126 dBです。

温度に対する利得の安定性も確認され、変動は摂氏1度あたり0.1%にとどまりました。

この結果はどこまで適用できるのか

著者たちが明記している限界があります。

この研究における動作確認は、BL-015(JIS規格)またはNo. 412(NEDA規格)の炭素亜鉛乾電池を用いた場合に限定されています。

他の種類の電源、たとえばアルカリ乾電池や外部安定化電源を用いた場合の動作については、この研究から直接の結論を導けません。

また、この研究が対象としたのは特定のFET(2SJ-12)と特定の回路構成(ソースフォロワにバイポーラトランジスタを組み合わせた前置増幅器)です。

同じ設計指針が他のFETや他の回路形式にもそのままあてはまるかどうかは、この研究の範囲外です。

さらに、雑音の測定は試作回路段階で行われており、製品として筐体に収めたときのシールド効果や部品配置の影響までは考慮されていません。

この研究をどう受け止めるか

この研究の意義は、FET増幅器の雑音を等価回路によって系統的に解析し、回路定数と雑音の関係を理論と実測の両面から明らかにした点にあります。

とくに、ソース・ゲート間抵抗R3という一つの抵抗の値を適切に選ぶだけで低周波雑音を抑圧できるという発見は、設計上の明確な指針です。

理論式を導くだけでなく、試作によって最適値を導いたことで、机上の解析にとどまらない実用性を示しました。

コンデンサーマイクロホンの増幅器が真空管からFETへ移行する過程は、単なる部品の置き換えではありませんでした。

高い入力インピーダンスを保ちながら、雑音をどこまで下げられるか。

この問いに等価回路解析で答えたことが、この研究の本質です。

回路の設計において、理論と実測の両面から最適値を導くという姿勢は、時代を超えて音響機器の開発に通じるものです。

参考資料

Jinichiro Nakamura, Rinske Wakabayashi, "A Transistorized Amplifier for a Condenser Microphone," Journal of the Audio Engineering Society.

原典の主張は、A Transistorized Amplifier for a Condenser Microphone をご参照ください。

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