空音開発Kuon R&D
音響工学 · 2026.08.15

マイクのノイズを消す手順 音の種類で原因が決まります

マイクから聞こえる「サー」というホワイトノイズ。原因を切り分ける順番を、現場で使っている通りに書きました。入力ゲインの位置、ケーブルの種類、USBの規格、部屋の音、ソフトの中の処理。上から試せば、多くは道具を買い足さずに下がります。

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目次
夜の自宅の録音の机。マイクスタンドに立てたマイク、ノートパソコン、ヘッドホン、厚いカーテン
雑音の多くは、機材ではなく部屋から入ってきます。まず、聞こえている音を分けるところから始めます。

聞こえている音で、原因は決まります

ノイズという一つの音はありません。
鳴っている音を言葉にできれば、原因はほぼ決まります。

音から原因を引く
聞こえる音正体いちばん多い原因どこを直すか
サー、シーホワイトノイズ入力ゲインの上げすぎ、機材の自己雑音ゲインの位置とマイクの選び方
ブーン(低く唸る)ハムノイズ電源、アースの回り込み電源の取り方と接続の型
ジー、ピー(高く細い)電磁ノイズ携帯電話、無線、画面、USB 機器距離を離す、バランス接続にする
ガサッ、ブツッ(不規則)接触不良端子の汚れ、断線しかけたケーブルケーブルと端子を替える
ゴー、ウーン(一定)環境音空調、パソコンの送風、冷蔵庫止める、離れる、指向性で避ける
プツプツ、途切れる取りこぼし処理が間に合っていないバッファ、USB の口、常駐ソフト

仕組みと条件は 音声のノイズ除去と音割れ修復について にまとめています。

音の名前が分からないときの、切り分け方

三つ試すだけで、原因がどちら側にあるかが決まります。
機材を買う前に、必ずこれをやってください。

  1. マイクのケーブルを抜きます。
    それでも鳴っていれば、原因はマイクではありません。
    録音機やパソコンの側です。
  2. 入力ゲインを下げます。
    音が一緒に小さくなれば、増幅の段で起きています。
    変わらなければ、後ろの段か外から入っています。
  3. ケーブルを手で軽く動かします。
    音が変わったり途切れたりすれば、接触か断線です。

この三つで、原因は「マイク」「増幅」「接続」「外」の四つに絞れます。
ここから先は、絞れた側だけを見ます。

ヘッドホンから「サー」と聞こえて、録音どころではない

マイクを立てて、ヘッドホンを着けて、いざ録ろうとした瞬間に聞こえてくる細い「サー」。
録音した音を聴き返すと、声の後ろでずっと鳴っています。
配信でも、ポッドキャストでも、この音は最後まで消えません。
原因の特定は難しそうに見えますが、実際にはごく単純な理由で解決することがほとんどです。

「インピーダンスが合っていない」と書かれた記事を読んで、そこで手が止まった方も多いと思います。

その言葉は、いったん忘れてかまいません。

ホワイトノイズは、確かめる順番さえ間違えなければ、道具を買い足さずに消せることが多い音です。

この記事では、原因を切り分ける順番を、私が現場で使っている通りに書きます。

確かめる順番を、先に決めておく

やみくもに設定を触ると、何が効いたのか分からなくなります。

順番はこうです。

  1. 入力ゲインのつまみが、どこまで回っているかを見る
  2. マイクケーブルの種類を見る
  3. USB の規格を合わせる
  4. 部屋の中で鳴っているものを止める
  5. ソフトの中で音に触っている処理を切る

上から順に試してください。

1 と 2 でほとんどが解決します。

ゲインのつまみが「3時」より右にありませんか

機材を触る前に、確かめてほしいことがあります。

オーディオインターフェイスやミキサーの入力ゲイン。

そのつまみは、いまどこを指していますか。

3時より右、あるいは最大の位置まで回っているなら、ノイズの原因はほぼそこです。

なぜ回すとノイズが出るのか

マイクが送り出す電気信号は、とても小さいものです。

その小さな信号を、機材の中のマイクプリアンプが増幅して使える大きさにします。

増幅するとき、信号と一緒に、回路そのものが持っている微かな電気の揺らぎも大きくなります。

これが「サー」の正体です。

つまみを大きく回すほど、この揺らぎも同じだけ大きくなります。

ダイナミックマイクを使っていませんか

ここが、最も多い行き止まりです。

ダイナミックマイクは、ドラムの打音や、至近距離の歌声のような大きな音を録るために作られています。

そのぶん感度が低く、普通の部屋での話し声を拾おうとすると、ゲインを目一杯まで回すことになります。

安価なマイクプリアンプを全開で使えば、回路の揺らぎが持ち上がります。

これは設定の失敗ではなく、組み合わせの問題です。

解決は「ゲインを上げなくてよいマイク」に替えること

感度の高いマイクに替えると、同じ音量を得るのにゲインを半分以下しか回さなくて済みます。

回さなければ、揺らぎも持ち上がりません。

ノイズは、うそのように減ります。

コンデンサーマイクが向いているのはこの点です。

私は市販のマイクをひと通り試したうえで、自分が使いたいマイクを自分で作りました。

必要な空気感は残し、電気の揺らぎを持ち込まない回路にしています。

プラグインパワーのレコーダーに挿すだけで使える P-86S と、ファンタム電源で使う X-86S の二種類があります。

ケーブルの先が「棒」になっていませんか

マイクをオーディオインターフェイスに繋いでいるケーブル。

その先端を見てください。

金属の棒が一本、途中に黒い輪が一本だけ入っているなら、それはアンバランスのケーブルです。

アンバランスのケーブルは、周囲の電波や電源のノイズをそのまま拾います。

マイクを繋ぐなら、XLR のバランスケーブルに替えてください。

バランスのケーブルは、途中で拾ったノイズを打ち消す仕組みを持っています。

これだけで消えることがあります。

ケーブルで音は変わります

安価なケーブルは、余計な加工がされていないぶん素直に鳴ります。

予備として何本か持っておくと、現場で困りません。

そのうえで、音質にこだわるなら MOGAMI 2549 を選んでください。

コネクタは NEUTRIK のものが使われている個体を選びます。

MOGAMI 2549 XLRマイクケーブル (3m)

コネクタは NEUTRIK のものを選びます。

価格と在庫は各店でご確認ください

ケーブルによる音の違いは、聴き比べた音源つきで別の記事にまとめています。

マイクケーブルのおすすめと選び方

USB の規格を合わせる

USB で直接つなぐマイクを使っている場合です。

マイク側が USB 2.0 のものを 3.0 のポートに挿していると、ノイズが出ることがあります。

パソコン側のポートがどの規格なのかも確かめてください。

規格を合わせるだけで消えることが、意外にあります。

部屋の中で鳴っているものを止める

マイクを替えてもまだ気になるなら、音源は機材の中ではなく部屋の中です。

デスクトップのパソコンは、水冷でない限りファンが回り続けています。

冷蔵庫は、古い個体ほど鳴ります。
近くにあると、はっきり乗ってきます。

エアコンも同じです。

一度、止められるものを全部止めて録ってみてください。

ホールやスタジオでは、遠慮せずに頼んでよい

現場では、録音の間だけ空調を止めてもらうことがあります。

何度も入り切りをお願いすることも、珍しくありません。

音を整えることと、演奏者が快適に過ごすことを両立させるための、当たり前の相談です。

ここで嫌な顔をされる場所は、別のところでも問題が起きることがあります。

パソコンから離れて録る

パソコンのファンから逃げる方法もあります。

ファンのないレコーダーを使えば、そもそも回っているものがありません。

用途別のレコーダーの選び方は、別の記事にまとめています。

プラグインパワー対応レコーダーの選び方

ソフトの中で、音に触っている処理を切る

配信ソフトの「ノイズ抑制」を入れているのに、かえって「サー」が目立つことがあります。

順番の問題です。

ノイズ抑制より前にコンプレッサーが入っていると、コンプレッサーが小さな音を持ち上げます。

そのとき、ノイズも一緒に持ち上がります。

DAW でも同じことが起きます。

テンプレートから開いたプロジェクトには、最初からイコライザーやコンプレッサーが挿さっていることがあります。

低域や中域が大きく持ち上がる設定になっていれば、そこにノイズも乗ります。

いったん全部切って、素の音を聴いてください。

適切に録れていれば、処理は要りません

マイクの選び方と立て方が合っていれば、声の収録でコンプレッサーやイコライザーが必要になることはほとんどありません。

ソフト側を切って直ったなら、配信ソフトの中の処理も同じように切ってください。

ブーンと低く唸るとき(ハムノイズ)

サーではなく、低く唸る音が乗っているときは、電源が原因です。
日本の電源は東側で毎秒 50 回、西側で毎秒 60 回振れています。
その振れが音の信号に混ざると、低い唸りとして聞こえます。

確かめ方と直し方は次のとおりです。

  • 録音機とパソコンを、同じ電源の口から取ります。
    別々の壁から取ると、二つの機器の間に電位の差が生まれ、その差がケーブルを通って音に乗ります
  • ノートパソコンなら、電源を抜いて電池だけで動かしてみます。
    これで消えれば原因は電源側です
  • マイクのケーブルを、電源のケーブルと並べて這わせないようにします。
    交差させるなら直角にします
  • それでも残るなら、接続をバランス型(XLR)に替えます。
    バランス接続は、途中で乗った雑音を打ち消す仕組みを持っています

ジーと高く鳴るとき(電磁ノイズ)

細く高い音が乗るときは、近くの機器から出ている電波や電磁波を拾っています。

携帯電話をマイクやケーブルから離してください。
通信が始まる瞬間に音が変わるなら、これが原因です。
無線の親機、パソコンの画面、USB で動く外付けの機器も同じことを起こします。

アンバランス接続(3.5mm のプラグなど)は、この種類の雑音を拾いやすい構造です。
バランス接続に替えられるなら、それがいちばん確実です。

プツプツと途切れるとき(取りこぼし)

これは雑音ではなく、音が抜け落ちている状態です。
パソコンが処理に追いつかず、音のかけらを落としています。

  • 録音ソフトのバッファ(緩衝の大きさ)を大きくします。
    遅れは増えますが、落ちなくなります
  • USB の口を替えます。
    他の機器と同じ口を分け合っていると足りなくなります
  • 裏で動いているものを止めます。
    同期、更新、ブラウザの多数のタブ

番外 マイクを挿す場所は合っていますか

相談を受けた中に、モノラルで録るのに右の入力へ挿していた方がいました。

チャンネルの多い機材が安く手に入るようになったぶん、起こりやすくなっています。

複数の入力がある機材では、左から順に埋めていってください。

これを習慣にしておくと、後から見返したときに迷いません。

ホワイトノイズは完全にゼロにできますか

電気を使う以上、微かな揺らぎは必ず残ります。目指すのはゼロではなく、聴いていて気にならない位置まで下げることです。ゲインを半分以下で使えるマイクに替えると、多くの場合その位置に入ります。

安いオーディオインターフェイスが原因ですか

機材の価格だけが原因になることは多くありません。同じ機材でも、ゲインを回さずに済むマイクに替えればノイズは下がります。まずつまみの位置を見てください。

ノイズ除去のソフトで消せばよいのでは

消せますが、声の細部も一緒に削れます。録るときに乗っていない音は、後から取り除く必要がありません。順番として、まず録音の側で下げてください。

XLR ケーブルに替えれば必ず直りますか

必ずではありません。ケーブルが原因の場合に直ります。ゲインが原因なら、ケーブルを替えても変わりません。だから確かめる順番が大切です。

どうしても残った雑音を、録ったあとに下げる

ここまでの手順で原因の大半は消えます。
それでも残る量は、機材が構造として出している分です。
これは録音の時点では下げられません。
録ったあとに処理します。

空音開発の KUON RESTORE は、ブラウザだけで動きます。
何も入れずに、録音ファイルを渡すと雑音の成分を見つけて下げます。
無音の部分を手本にする方式なので、声の成分を削りすぎません。
電源由来の唸りを取る処理と、振り切れた波形を戻す処理も同じ場所にあります。

ただし順番を間違えないでください。
録音の時点で減らせるものを、あとの処理で片づけようとすると音が痩せます。
上の手順を先に通してから使ってください。

よくある質問
マイクのノイズは、どうすれば消えますか

鳴っている音の種類で対処が変わります。サーという音なら入力ゲインを下げます。ブーンと低く唸るなら電源の取り方を見直します。ジーと高く鳴るなら携帯電話や無線機器を離します。ガサガサと不規則に鳴るならケーブルを替えます。まず音を言葉にしてください。

ゲインを下げると声が小さくなります。どうすればいいですか

声が小さいまま録って、あとから上げます。雑音の少ない状態で録った音を後で持ち上げるほうが、雑音ごと増幅するより結果が良くなります。32bit フロートで録れる機材なら、この方法で品質が落ちません。

ダイナミックマイクとコンデンサーマイク、どちらが雑音に強いですか

性質が違います。コンデンサーマイクはマイク自身が出す雑音の量が規定値として公表されています。ダイナミックマイクは自身の雑音がほとんどありませんが、出力が小さいため増幅を大きくする必要があり、結果として増幅する機材の雑音が目立ちます。部屋が整っていないならダイナミック、整っているならコンデンサーが扱いやすくなります。

ノイズ除去のソフトを使えば済みませんか

済みません。処理は雑音と一緒に声の成分も削ります。削られた分は戻りません。録音の時点で減らせるものを先に減らし、それでも残った分だけを処理するのが順番です。

マイクを替えれば解決しますか

原因がマイクの自己雑音にある場合だけ解決します。電源由来の唸り、接触不良、環境音は、マイクを替えても残ります。先に切り分けてください。この記事の冒頭にある三つの手順で、原因の側が決まります。

高いマイクほど雑音が少ないのですか

傾向としてはそうですが、価格そのものではなく、等価雑音レベルという数値で比べます。この数値が小さいほど、マイク自身が出す音が小さくなります。ただし測定の規格が揃っていない数値が並んでいることがあるため、同じ規格の値どうしで比べてください。


この記事は、空音開発がステレオマイク P-86S と X-86S を設計して製造している立場から書いています。
研究者識別子 ORCID は 0009-0002-2530-4142、測定した公開データの永続識別子は DOI 10.5281/zenodo.22064426 と 10.5281/zenodo.22076507 です。
記載は 2026 年 9 月 16 日に確認しました。

この記事で紹介した機材(サウンドハウス)

CLASSIC PRO MIP030
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