目次
管楽器のマウスピースがどの音を強く響かせるのか。
吸音材がどの帯域をどれだけ吸うのか。
こうした問いに答えるには、音響インピーダンスを測る必要があります。
この量の測り方は一つではなく、毛細管を使うセンサと、マイクロホンを2本使うセンサがあります。
では、この2つは何ができて、どこが難しいのか。
Dalmontら(1987)は両者を同じ装置で測り比べ、振幅で約1%、位相で約0.5%の精度に達することを示しました。
音響インピーダンスの測り方はなぜ分かれていたのか
音響インピーダンスとは、ある点の音圧と、その点での粒子速度との比です。
粒子速度とは、音波によって媒質の粒子が振動する速さのことです。
試料の入口に圧力をかけたとき、どれだけの流れが生じるかを表す量で、管楽器のマウスピースや吸音材の特性を知る手がかりになります。
この量を測るには、音を励振しながら音圧と粒子速度の比を同時に求める必要があります。
粒子速度を直接測る方法もありますが、多くの研究者は、体積速度が一定、あるいは理論的に既知である音源を使う道を選んできました。
体積速度とは、単位時間に断面を通過する体積流量のことです。
そうした音源方式の実用的な候補が、毛細管センサと2マイクロホンセンサです。
毛細管センサとは、細い管の出力側の体積速度と入力側の音圧の関係から、試料の入力インピーダンス(試料の入口端から見た音響インピーダンス)を測る方式です。
2マイクロホンセンサとは、1/2インチの静電マイクロホンを音の放射源(エミッタ)に、1/4インチのマイクロホンを受信器に使い、入力電圧と出力電圧の伝達関数からインピーダンスを求める方式です。
この2つを同じ条件で比べる必要がありました。
2つの測り方はどう検証されたのか
毛細管センサでは、長さ70 mmの毛細管を励振源にします。
この毛細管は六角鋼棒を銅管に圧入して作られ、断面の寸法Rは1.44 mm、寸法eは0.10 mmです。
入力側のマイクロホンM1で音圧を測り、毛細管の出力側の体積速度との関係から、試料の入力インピーダンスを求めます。
2マイクロホンセンサでは、1/2インチの静電マイクロホンをエミッタに、1/4インチのマイクロホンを受信器に使います。
入力電圧e1と出力電圧e2の伝達関数、つまりe2/e1からインピーダンスを求めます。
両方のセンサに共通する装置として、正弦波発生器、ヘテロダインスレーブフィルタ(出力電圧を選択的に測るためのフィルタ)付きの測定アンプ、レベルレコーダ、位相計、デジタルマルチメータ、デジタル周波数計、そしてHP 9826という計算機を使いました。
同じ装置で測ることで、センサの違いだけを比べられるようにしたのです。
測定の正しさを確かめるには、校正が欠かせません。
半径と長さの異なる円筒管のインピーダンスを測り、解析的に計算できる理論値と比べます。
校正の方法として、閉管の入力インピーダンスの共振と反共振の極値を比べる方法と、閉管の入力と出力の間の伝達インピーダンス(圧力と体積速度の比)を使う方法が検討されました。
前者は管の吸収係数(管内平面波の減衰を表す係数)の理論値と実験値のずれが精度を制限するため、この研究では吸収係数に依存しない伝達インピーダンス法を採用しています。
測定に使うマイクロホンそのものの応答を正しく押さえる点は、マイクの周波数応答を測る音源は、風船破裂とスピーカのどちらが適しているのか、その研究を読む にも共通する問いです。
毛細管側には、もうひとつ設計上の判断があります。
半径を小さくすると体積速度が小さくなって測定が難しくなるため、あえて応答が完全には平坦でない大きめの毛細管を用いて体積速度を増やしたのです。
比べて何が分かったのか
両センサの音響インピーダンス測定精度は、振幅が約1%、位相が約0.5%に達しました。
動作する周波数範囲は次の通りです。
毛細管センサの実測応答は理論応答とよく一致しました。
2マイクロホンセンサは、校正曲線からマイクロホンの応答とR1R2因子を決定できました。
ただし、500 Hz未満では2マイクロホンセンサによる低インピーダンスの測定が難しくなります。
一方で毛細管センサは、2マイクロホンセンサより入力直径の小さい系の入力インピーダンスを測れます。
応用として、アルトサックスのマウスピースの入力インピーダンスと、厚さ12 mmの麻試料の吸音率が示されました。
この結論にはどんな留保が付くのか
著者自身が述べた限界は、主に低周波数域と測定対象の条件にあります。
毛細管センサは、半径を非常に小さくすると特性インピーダンスが高くなり、体積速度が非常に小さくなって測定が難しくなります。
体積速度を増やすために大きめの毛細管を選ぶと、今度は体積速度と入力音圧の応答が完全には平坦でなくなります。
この2つはトレードオフの関係にあります。
2マイクロホンセンサは、低周波数域で出力信号が非常に小さくなり、とくに低インピーダンスの測定が難しくなります。
500 Hz未満ではこの傾向がより強くなります。
校正についても限界が述べられています。
円筒管の共振と反共振の極値を比べる校正法は、管の吸収係数の理論値と実験値のずれがあるため、高い精度が求められる場合には使えません。
そこで、吸収係数に依存しない伝達インピーダンス法が採られたのです。
この研究は音響測定のどこに位置するのか
音響インピーダンスの測定は、管楽器の音響特性や吸音材の性質を調べるための基礎的な手法です。
そこでは、励振を与えながら音圧と体積速度の比を測る必要があり、体積速度が一定または理論的に既知である音源を使うのが一般的な道筋でした。
この研究は、その実用的な候補である毛細管センサと2マイクロホンセンサを、共通の装置と手順で測り比べています。
どちらか一方が優れていると決めるのではなく、動作周波数範囲や測定対象の入力直径によって向き不向きがあることを、同じ土俵での比較として示した点に特徴があります。
とくに校正の扱いに注意が払われています。
測定値を理論値と照合する際、管の吸収係数の理論値に依存する方法を避け、それに依存しない伝達インピーダンス法を選ぶことで、測定の精度がどの前提に支えられているかを明らかにしています。
測定された数値そのものより、その数値がどの条件でどの程度まで信用できるのかを整理することに力が置かれた研究です。
参考資料
原典の主張は、Comparison Between Two Methods for Measuring Acoustical Impedance をご参照ください。

