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ステレオ録音では、マイクの並べ方を変えるだけで演奏の聴こえ方が変わります。
残響や効果を加えず比べると、XY、MS、ORTF、NOSの各方式にどんな特徴が出るのでしょうか。
Ceoen(1972)は単一の演奏を6方式で同時収録し、全要素を満たす方式はなく、ORTFが妥協案として選ばれることを示しました。
ステレオ収音方式の差はなぜ曖昧だったのか
2本のマイクでステレオ録音をするときの、並べ方と向きの組み合わせを収音方式と呼びます。
マイクをほぼ同じ位置に置き、主に指向性の差で左右の情報を得るのが同一位置方式(coincident pair)です。
これに対して、マイク同士に間隔を空けて配置する方式もあります。
同じ位置、間隔、向きの組み合わせによって、音像の広がり方が変わってきます。
従来の比較試聴には、方式そのものの違いを覆い隠す要因が混ざっていました。
ホールの容積や残響、音色、オーケストラの配置、演奏の解釈、補助マイク、人工残響といった副次的な要素です。
放送・レコード・映画のスタジオがそれぞれ特定の方式を優先採用していたため、どの方式に固有の利点と欠点があるのかを切り分ける必要がありました。
Ceoen(1972)はこの問題に対して、単一の演奏を複数の方式で同時に収録し、残響や効果といった二次的な処理を排するという方法で応じました。
知覚された差を、一次の収音方式の特性だけに帰属させられる設計です。
6方式の差をどう切り分けたのか
対象にしたのは、RTB大交響楽団によるドヴォルザーク『スラヴ舞曲第10番 ホ短調 Op.72 No.2』の単一演奏です。
会場のホールは容積15,000立方メートル、中周波残響時間1.8秒、理論残響半径5.15メートルでした。
この演奏を、XY方式、Stereosonic、MS方式、ORTF方式、NOS、pan-potの6方式で、6台のテープ録音機に同時かつ別々に収録しました。
方式ごとの構成は次のとおりです。
速度マイクとは、音圧傾度(粒子速度)に応答するマイクロフォンのことです。
MS方式とは、前方カーディオイドと横向きの速度マイクの和・差出力から左右信号を得る方式のことです。
pan-pot方式とは、単一マイクを並べ、パノラマポテンショメータで左右のレベル配分を行う人工ステレオの方式のことです。
6つの方式は、指揮者の頭のやや後方・上方の単一位置付近にまとめて配置されました。
これによって、各方式がほぼ同じ位置から同じ演奏を捉える条件を揃えています。
補助収音系、フィルタ、人工残響、幅補正は排し、元のダイナミックレンジも圧縮しませんでした。
この設計の理由は、副次的な要因を排除し、知覚された差を一次の収音方式の特性だけに帰属させるためです。
単一の演奏を同時収録することで演奏解釈の違いを除き、ホール音響と楽曲のスタイルも一致させています。
試聴では、方式を伏せた抜粋(BからDの7小節目後まで)を聴き、質問票で解像度、遠近感、ライブ感、舞台の連続性などを評定しました。
ライブ感とは、拡散音場の再生印象のことです。
遠近感は、音像の奥行きの印象を指します。
あわせて、点音源を円周上で移動させる測定により、知覚到来角度、角度標準偏差(知覚到来角度の個人評価のばらつき)、知覚ラウドネス、左右信号相関を記録しました。
左右信号相関はリサージュ図として、左右信号の相関をオシロスコープに表示する形でモノラル互換性の見当に使われます。
ケルン中央欧州大会では64名の質問票を回収し、うち34名が良好なステレオ聴取位置、30名が不良な聴取位置と分類されました。
6方式の聴こえ方はどこが違ったのか
まず明らかになったのは、6方式のうち単一の方式がすべての品質パラメータを満たすことはできない、という点です。
聴取者の最終的な選択は妥協の結果でした。
舞台の連続性(ステージ・コンティニュイティ)については、pan-pot方式が最も正しい結果を生みました。
知覚到来角度(φ)と実入射角度(γ)の直線関係は、MS、ORTF、Stereosonicで良好で、pan-potは理想直線に完全に一致しました。
ただしStereosonicは、正面の歪みなく良好となる範囲が±45°の限られた開口角に限られました。
MSはXY、Stereosonicと同じ純強度ステレオ方式(同一位置方式)でありながら、角度標準偏差が大きく、M/Sチャンネルの偶発的な位相偏差による解像度の劣化が見られました。
Stereosonicは拡散音場、つまりライブ感に優れる一方、位相反転現象によって低音が部分的に打ち消され、暖かみに欠けました。
左右信号の相関を見ると、XYは左右信号の合同性が最も高く、良好な互換性を示しました。
MSパターンは位相誤差に脆弱で、pan-potとStereosonicはほぼランダムな位相関係、ORTFとNOSはモノラル合成信号に干渉が生じうることが示されました。
6方式すべては、中央の「ホール」または「ハンプ」を回避しました。
聴取位置の影響については、親密感、ダイナミックレンジ、ブリリアンスにはほとんど影響しない一方、空間的印象の正しさには臨界的な聴取位置が必要で、良好な聴取エリアは聴取角度40°から90°の範囲にありました。
最終的に聴衆はMSの親密感の欠如を識別し、総合的な妥協案としてORTFを選ぶ一致が驚くほど高くなりました。
この研究の結論はどこまで通用するのか
著者自身が限界として述べているのは、各方式につき単一のマイクロフォン設置位置だけを選ばざるを得なかった点です。
良い定位、正しい遠近感、十分なライブ感といった相反する要件を、常に両立できたわけではありませんでした。
この研究が扱っていない範囲もあります。
補助収音系、フィルタ、人工残響、幅補正、イコライジングなどを加えたハイブリッド収音方式は対象外です。
Stereosonicにシャフラー(クロストークを導入する回路)を挿入した構成も省略されました。
対象は単一の楽曲、単一のホール、単一のオーケストラ演奏のみです。
したがって、ここで示された各方式の特徴は、残響や効果を加えない素の状態、ひとつのホール、ひとつの楽曲、ひとつの演奏という条件の下で得られたものとして受け止める必要があります。
別のホールや別の楽曲、別の聴取条件では、方式ごとの印象が変わりうることに留意するのが適切です。
この研究をどう受け止めるか
この研究は、ステレオ収音方式の比較がそれまで抱えていた方法上の曖昧さを、同時収録と二次的処理の排除によって整理したものです。
6つの方式を同じ演奏、同じ位置、同じ処理条件で並べたことで、各方式の固有の特徴が、副次的な要因と切り離された形で浮かび上がりました。
得られた知見は、特定の方式が万能ではないという、穏当で実務に沿った結論に落ち着いています。
各方式には固有の長所と短所があり、どの要件を優先するかによって選ぶべき方式が変わる、という理解は、この分野で広く共有されている受け止め方のひとつです。
参考資料
原典の主張は、Comparative Stereophonic Listening Tests をご参照ください。

