空音開発Kuon R&D
部屋と音響 · 2026.08.22

カーオーディオの音質を、測って確かめる。車という部屋と、その電源

車は、作業の最後に音を確かめる場所として長く使われてきました。容積が小さく反射が短い部屋であること、電気がはじめから最後まで直流であること。この二つの条件を測って確かめるところから、カーオーディオの音は変わります。運転席で追試できる手順まで書きました。

目次

音の仕事をしている人の多くが、作業の最後に車で聴きます。
スタジオで整えた音を、いったん車に持ち込んで確かめる。
この習慣はずいぶん長く続いてきました。

なぜ車なのか。
答えは、車が「毎日、同じ位置に座って、同じ音を聴いている部屋」だからです。
そしてもうひとつ、車の電気は、はじめから最後まで直流です。
この二つの条件は、オーディオにとって思っているより大きな意味を持ちます。

この記事では、車という部屋の音を測るところから始めます。
買う話は最後です。
順番を逆にすると、お金をかけたのに期待した音にならない、という結果になりやすいからです。

車は、音を確かめる場所です

リファレンスという言葉には二つの意味があります。
ひとつは「こんな音にしたい」という参考。
もうひとつは「いつもとの差を見るための基準」です。
作業の最後に車で聴くのは、後者の意味です。

自分の車の鳴り方を体が覚えていると、車は測定器に近い働きをします。
低音が多いか少ないか。
声が前に出ているか引っ込んでいるか。
基準を知っているぶん、差だけが浮かび上がります。
スタジオの大きなスピーカーで聴いているときには気づかなかったことが、車に乗って数秒で分かる、ということが実際に起こります。

そして車には、家のリビングにはない条件が三つ揃っています。

ひとつ、完全に独立した個室であること。
壁の向こうに誰もいません。
時間も選びません。

ふたつ、音量を自分で決められること。
オーディオの評価は音量で変わります。
同じ機材でも、遠慮して小さく鳴らしているあいだは分からないことがあります。

みっつ、座る位置がほぼ固定されていること。
家のソファは日によって座り方が変わりますが、運転席は毎回ほぼ同じ位置です。
聴取位置が動かないというのは、音を比べるうえで大きな利点です。

つまり車は、音楽を聴く部屋としても、音を確かめる部屋としても、条件の揃った場所です。
ここを「音響的に劣悪な環境」と切り捨ててしまうと、実際に起きていることを見落とします。

車という部屋は、ホールとは別の測り方をします

とはいえ、車が普通の部屋と同じかというと、そうではありません。
決定的に違うのは容積です。

コンサートホールの評価には、音が消えるまでの時間や、直接届く音と反射して届く音のエネルギー比といった指標が使われてきました。
ところが車室は容積が小さいため、反射音がごく短い時間で立ち上がり、そのまま減衰します。
ホール向けの指標では、車と車の違いをうまく捉えられません。

この点を実車で調べた研究があります。
五台の車を対象に、車室の音場を空間指標で評価しようとしたものです。
そこでは、左右の耳に届く音がどれくらい似ているかを表す指標や、横から届く反射音の割合を表す指標が、車種の違いを捉えたと報告されています。
そして音色の正確さについては、周波数ごとの音圧を測った曲線の凸凹が小さいこと、つまり山と谷が少ないことと結びついていました。

詳しくは 車内の音場はどう評価すればよいのか、その研究を読む(2002年) にまとめてあります。

ここから引き出せる実務的な結論は、はっきりしています。
車内の音を良くしたいなら、まず周波数ごとの凸凹を見ればよい、ということです。
しかもそれは、専用の測定器がなくても見られます。

もうひとつ、車には構造上の非対称があります。
運転席は左右の中央にありません。
左右のスピーカーまでの距離が違えば、音が耳に届く時間も違います。
ガラスは音を反射し、シートは吸います。
ダッシュボードとドアの内張りでは、跳ね返し方がまったく違います。
この非対称は、機材を買い替えても消えません。
位置と時間の調整で扱う問題です。

車の電気は、はじめから直流です

ここからが、あまり語られない話です。

オーディオの歴史のかなりの部分は、商用の交流電源との戦いでした。
壁のコンセントから来る電気は、そのままでは音楽の信号にノイズを持ち込みます。
ハム、他の家電の混入、アース経由の回り込み。
機材の内部には、これを取り除くための回路が幾重にも入っています。

私自身の録音は、金田式DC録音で行っています。
これは金田明彦氏が科学雑誌で提唱したDCアンプの思想を、録音システムそのものにまで遡って形にした手法です。
信号経路から直流を遮るためのコンデンサを取り除き、機材はすべて電池で駆動します。
商用の交流電源をそもそも使わないので、電源事情に左右されません。
どこで録っても同じ音になります。

この考え方から車を眺めると、見え方が変わります。
車は、はじめから最後まで直流で動いています。
壁のコンセントは一本もつながっていません。
録音の世界が意識的に選び取った条件を、車は構造として最初から持っている、ということになります。

だから私は、車内を「音響的に劣悪」とは考えていません。
条件のひとつは、むしろ良い側にあります。

ただし、その直流は純粋ではありません

正確に書きます。
車の電気が直流であることと、その直流がきれいであることは別の話です。

エンジンで走る車には、発電機が付いています。
発電機が作るのは交流で、それを整流して直流にしています。
整流したあとの電気は、完全に平らな直流ではなく、波の残った直流です。
この波をならす役目は、車体側の小さな部品だけでなく、バッテリー本体が大きく担っています。
バッテリーが弱ってくると、ならす力が落ち、音に混じるノイズが出てきます。
回転数を上げると高くなる音が聞こえる場合、これが原因のことがあります。

もうひとつ、アースの取り方があります。
機器ごとに車体へ落とす場所が違うと、そこに電位の差が生まれ、輪ができます。
この輪に信号が乗ると、低い唸りとして聞こえます。
対策は、アースを取る場所と、そこまでの線の太さと長さを見直すことです。
機材を買い足す前に効く場面が多くあります。

電気で走る車の場合は、事情がまた変わります。
エンジンがないので、動力そのものの騒音は小さくなります。
音楽を聴く条件としては明らかに有利です。
一方で、直流を交流に変えて動力に送る装置が高い周波数を出すため、これまで隠れていた低いレベルの音が前に出てきます。
車の設計側では、騒音と振動をまとめて扱う分野として、この変化に合わせた対策が進んでいます。

まとめると、こうです。
車は電源の前提としては良い側にありますが、そのままではきれいではありません。
だからこそ、電源とアースに手を入れることが、車では意味を持ちます。
家庭のオーディオで電源にこだわるのと同じことが、車では別の形で効いてきます。

測ります。
運転席に座って、耳の高さで

ここが、この記事でいちばん実用的な部分です。

車内の周波数特性は、測れます。
必要なのは、測定用の音と、それを見る道具だけです。
専門店に持ち込まなくても、傾向は自分で掴めます。

車内の周波数特性を測る手順
  1. 測定用の音を用意する1/6

    全帯域にわたって均等にエネルギーを持つ雑音を使います。ピンクノイズと呼ばれる音で、測定用の音源として配布されているものがあります。持っていない場合は、まず自分がよく知っている録音でも構いません。傾向は掴めます。

  2. いつもの位置に座る2/6

    運転席に座り、シートの位置も背もたれの角度も普段のままにします。測る位置が変われば結果も変わります。普段と同じ状態で測ることが、いちばん大事な条件です。

  3. 音量を普段どおりにする3/6

    極端に大きくも小さくもせず、いつも音楽を聴いている音量に合わせます。音量が変われば、感じ方も測定値も変わります。

  4. 耳の高さで測る4/6

    測定に使う機器のマイクを、自分の耳のあたりに持ってきます。膝の上やダッシュボードの上では、まったく別の場所を測ることになります。

  5. 1/3 オクターブで見る5/6

    周波数を三分割した幅ごとに音圧を見る表示です。細かすぎる表示は部屋の細かな凸凹を拾いすぎて読めません。この粗さがちょうど実用に合います。

  6. 山と谷を書き留める6/6

    どの帯域が持ち上がり、どこが落ちているかを記録します。一度で判断せず、日を変えて二度三度測ると、再現する凸凹と、その日だけの凸凹が分かれます。

見る道具は、ブラウザで動くものがあります。
KUON ANALYZER は、マイクからの入力をそのまま解析して、1/3 オクターブの表示、周波数の分布、ラウドネスなどを同時に出します。
処理はすべてブラウザの中で完結し、音声がどこかに送られることはありません。

読み方について、二つだけ補足します。

ひとつ。
ピンクノイズを測ると、表示は右下がりの線になります。
これは正常です。
人が均等と感じる音の分布と、機械が数える分布が違うためで、その傾きに合わせて読みます。
大事なのは傾き全体ではなく、その線からどれだけ外れた山と谷があるかです。

ふたつ。
スマートフォンやパソコンの内蔵マイクは、周波数特性が平らではありません。
傾向を見るには十分ですが、絶対値としては信用しないでください。
数字そのものを扱いたい場合は、特性の分かっている測定用マイクを、オーディオインターフェイス経由でつなぎます。

測ったあとに、順番が変わります

多くの人は、いちばんお金のかかるところから手を付けます。
スピーカーを替える、アンプを足す。
ところが車では、その前にできることが残っていることがほとんどです。

順番として意味があるのは、次の並びです。

まず、測ります。
今どうなっているかを知らずに何かを変えると、良くなったのか悪くなったのかも分かりません。

次に、取り付けと位置です。
スピーカーの裏側で音が回り込んでいないか。
ドアの内張りが振動していないか。
向きが耳のほうを向いているか。
ここは費用に対して変化が大きい領域です。

次に、調整です。
左右で距離が違うぶんを時間で合わせ、測って見つかった山と谷を、周波数ごとの調整で埋めます。
ただし落ち込みを電気的に持ち上げるのは限度があります。
谷は埋めにくく、山は下げやすい、と覚えておくと判断を誤りません。

次に、電源とアースです。
前の章で書いたとおりです。

最後に、ユニットです。
ここまでやったうえで足りないと感じた部分が、はじめて機材で解決すべき部分になります。

この順番は、車に限った話ではありません。
部屋のオーディオでも、録音の現場でも同じです。
測って、置き方を直して、調整して、それでも足りないところに機材を使う。
順番を守るほうが、結果として使う金額は少なくなります。

制作する人へ。
最終確認としての車

自分で音楽を作る人にとって、車はもう少し積極的に使えます。

車で聴くときに確かめるのは、細部ではありません。
小さな部屋ですから、細かい残響や奥行きを判断する場所ではありません。
見るべきなのは、次のようなことです。

低音の量が破綻していないか。
小さな空間は低い音が溜まりやすいので、家で丁度よかった低音が、車では過剰に感じられることがあります。

声が埋もれていないか。
走行中は路面の音が乗ります。
その状態でも声が聴き取れるかどうかは、実用上の大きな判断材料です。

左右のどちらかに寄りすぎていないか。
運転席は中央にないので、もともと片寄って聴こえます。
それを差し引いても寄って感じるなら、作った音のほうに原因があります。

そして、音量を絞ったときに何が残るか。
小さくしたときに真っ先に消える要素は、その曲の弱いところです。

こうした確認をしたあとで手を入れるなら、書き出しの前に数値でも見ておくと確実です。
音量の基準や、瞬間的な最大値がどうなっているかは、耳と数字の両方で見たほうが判断を誤りません。

よくある質問

純正のオーディオのままでも、測る意味はありますか。

あります。むしろ純正のままのほうが、手を入れる前の状態が分かるので有益です。最近は純正のシステムを外さずに、あとから信号処理の機器を足す形も増えています。何を足すかを決める前に、今の凸凹を知っておくと選び方が変わります。

走行中と停車中では、測定結果は変わりますか。

変わります。走行中は路面とタイヤの音が加わり、低い帯域が持ち上がって見えます。まず停車中に測って部屋としての特性を掴み、そのうえで走行中の聴こえ方を耳で確かめる、という二段構えが実用的です。停車中の測定は、必ず安全な場所で行ってください。

電気で走る車のほうが、音は良くなりますか。

動力の騒音が小さくなるという点では有利です。ただし直流を交流に変える装置が出す高い周波数が新たに聞こえるようになるため、良くなる部分と、新しく気になる部分の両方があります。どちらにしても、実際にどうなっているかは測ってみるのが早いです。

バッテリーを替えると音は変わりますか。

弱ったバッテリーを新しいものに替えたときは、変わる場合があります。発電機が作る波の残った直流をならす役目を、バッテリーが大きく担っているからです。ただし新しいもの同士を比べたときの差は、取り付けや調整で得られる差より小さいのが普通です。順番としては後ろに置いてください。

スマートフォンの測定アプリでも足りますか。

傾向を掴むには足ります。どの帯域が持ち上がっているか、どこが落ちているかは十分に見えます。数字そのものを根拠にしたい場合は、特性の分かっている測定用マイクを使ってください。

まとめ

車は、独立した個室で、座る位置が固定されていて、音量を自分で決められる場所です。
そのうえ電気は、はじめから最後まで直流です。
音を確かめる場所として、条件は揃っています。

一方で、容積が小さいために反射が短く、聴く位置が左右の中心にありません。
そして直流であることと、その直流がきれいであることは別の話です。

だから、測ります。
測ってから、置き方を直し、時間と周波数を合わせ、電源とアースを見て、それでも足りないところに機材を使います。
この順番を守るほうが、結果として良い音に早く着きます。

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