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部屋の残響や音の明瞭さを測るとき、測定に使う音源の形は結果に影響するのでしょうか。
同じ部屋を測っても、音源が違えば出てくる数値は変わってしまうのでしょうか。
この記事では、球形の音源と、従来から使われてきた十二面体の音源で、同じホールを測り比べた研究を読みます。
音響測定の音源は、なぜ十二面体ばかりだったのか
部屋の音響特性を調べるときは、音を出し、その響きをマイクで記録します。
このときの音源として、全方向へほぼ均等に音を放射する無指向性音源が、ほぼ専ら使われてきました。
代表が十二面体です。
多面体の各面にスピーカーを配し、全方向への放射を近似的に実現します。
測定の中心は、インパルス応答の記録です。
インパルス応答とは、部屋に短い音を与えたとき、その部屋が返す音の応答を時間の流れに沿って記録したものです。
ここから残響時間(RT30)や広がり感といった指標が計算されます。
残響時間は、部屋の響きが減衰する速さを表す指標です。
この測定に、圧縮ドライバー方式の球形音源という音源が加わりました。
球形の音源を測定に使う話題は、32個の小型スピーカーで作る球形音源は部屋の音響測定に使えるのか、その研究を読むで別に扱っています。
本研究(ValtchevとGerganova、2013年)は、球形音源(Spherovox)と、著者らが自作した十二面体音源(Omnivox)を、同じ部屋・同じ条件で測り比べました。
ねらいは部屋の評価ではなく、音源の種類が測られる指標を変えるかどうかを確かめることです。
同じ部屋を、二つの音源でどう測り比べたのか
まず場所です。
対象は、ソフィア・フィルハーモニー管弦楽団ホール、ソフィア国立音楽院ホール、BNRスタジオ・ワン、イヴァン・ヴァーゾフ国民劇場、ソフィア歌劇場と、音楽と演劇に使われるホールを選びました。
音源の位置は、音響中心の高さを1.5 mに揃えました。
最初の位置は部屋の対称軸上、舞台の前方から3 mほど後方に置きました。
その他の位置はそこから数メートル離し、あえて非対称にずらしています。
歌劇場ではオーケストラピットにも位置を設けました。
マイク位置は、メインの客席フロアの片側半分にランダムに配置し、バルコニーがあるホールではそこにも追加しました。
ホールの造りに応じて、マイク位置の数は増減します。
録音には、ミッドサイド方式を使いました。
ミッドサイド方式とは、無指向性マイクと8の字指向性マイクを組み合わせ、全体の音と横方向の音を同時に捉える手法です。
無指向性マイクにはブリュエル・ケアー Type 4134、8の字マイクにはシェップス CMC6U-MK8を使いました。
加えて、左右の耳の位置にマイクを備えた人工頭(ノイマン KU81i)でも記録しました。
測定条件は二つの音源で揃えました。
外部マイクプリアンプのゲインは全ホール・全位置で20 dBに固定し、無指向性マイクと8の字マイクの感度差はソフトウェアで補正しました。
励振には約10秒のサインスイープを用い、レベルと増幅も同じにしました。
球形音源のほうが出力が大きいため、比較しやすいよう十二面体に合わせてレベルを下げています。
音源の向きが結果に与える影響を見るため、各マイク位置で音源を回転させました。
中心の位置に加えて、15度刻みで正負の方向へ回した位置を設け、合わせて5段階を測定しました。
反射のない環境(自由音場)では指向性も測定しました。
球形音源は鉛直面の測定だけで球面図(指向性を立体的に表した図)が作れたのに対し、十二面体は複数の面で測っても、球面図や音響パワー応答を正確に作るには足りませんでした。
インパルス応答から抽出した指標を下表にまとめます。
明瞭度はC80、C50、C35、C7の各指標を求めました。
音の強さ(Strength G)は対象から外しました。
ミッドサイド方式を選んだのは、全体のインパルス応答と横方向のインパルス応答を同時に得られ、標準的な室内音響指標を計算できるからです。
強さを外したのは、十二面体の指向性データからは球面図や音響パワー応答を正確に作れないためでした。
部屋の音響をその場で測る話題は、部屋の残響時間をポータブル装置でその場で測ることは可能か、その研究を読むでも扱っています。
さらに、国民劇場の特定の送受信ペア(S2_R4)を詳しく調べました。
音源からマイクまでの距離は13 mで、直接音は到着から4.3 msの窓で、反射音は58.3 msを起点に5.6 msの窓で切り出しました。
このホールの初期時間差(直接音から最初の反射音までの時間)は21 msでした。
音源を替えると、測れる値はどこまで変わるのか
まず、音のエネルギーにかかわる指標です。
二つの音源とも、標準化された精度の範囲に収まりました。
ただし、十二面体が測ったC7は全ホールで最大2 dB低く、その差はC80に近づくほど縮まります。
明瞭度とは、インパルス応答の冒頭の短い時間に届く音のエネルギーと、全体の音のエネルギーの比をデシベルで表した指標です。
C7とC80の違いは、対象とする冒頭の時間の長さです。
C7はより短い時間を見るため、直接音に近い部分を反映します。
音圧能力にも差がありました。
球形音源は中域で10 dB以上、低域・高域で6 dB、十二面体より高い音圧を出せます。
音響パワー応答は50 Hzまで平坦(-3 dB)で、63 Hzの帯域から有効でした。
十二面体は100 Hzから有効(-3 dB)です。
音源を回転させたときの再現性は、はっきり分かれました。
球形音源は回転に対して完全に再現するのに対し、十二面体は回転の段階によって一部の指標がずれました。
国民劇場の特定の送受信ペア(S2_R4)で見ると、球形音源の直接音・反射音の周波数応答は5回の回転で約1 dB以内に収まったのに対し、十二面体は10 dB超のばらつきを示しました。
バイノーラル記録でも同様です。
十二面体は5段階の回転で左右の周波数応答が大きく食い違い、ほぼ不規則に見えました。
球形音源は左右とも約1 dB以内に収まりました。
広がり感の指標でも、十二面体は回転位置によって値が大きく分かれました。
回転を重ねて平均すると球形音源の結果に近づきましたが、平均を取ること自体が妥当かどうか、著者らは疑義を示しています。
両耳品質指数(BQI)は、左右の耳に届く音の差を手がかりに広がり感の大きさを表す指標で、1から初期両耳間相互相関係数(IACC_E)を引いて求めます。
この結果は、どこまで当てはまるのか
著者らは、この研究の結論が及ぶ範囲を、いくつもの留保つきで示しています。
第一に、この結果は著者らが自作した十二面体についてのものであり、市販のすべての十二面体に当てはまるわけではありません。
第二に、音の強さ(Strength G)にかかわる指標は対象外です。
十二面体は複数の面で指向性を測ったものの、球面図や音響パワー応答を正確に作るには足りず、そのために強さを外したとしています。
第三に、63 Hz帯の指標は抽出していません。
十二面体が有効なのが100 Hz(-3 dB)からであるためです。
第四に、5段階の回転では十二面体の正しい結果を得るのに不十分で、必要な回転の数、測定する面、回転軸については、さらなる検討が必要だとしています。
第五に、広がり感の指標を平均することの妥当性は議論の余地があり、平均そのものが誤りである可能性にも言及しています。
第六に、部屋の良し悪しの評価は行っていません。
部屋の格付けや分類は、この研究の範囲の外です。
この研究は、音響測定のどこに位置づくのか
室内音響の測定では、十二面体型の無指向性音源がほぼ専ら使われてきました。
この研究は、新しい球形音源をその相手として、同じ部屋・同じ条件で測り比べたものです。
エネルギーにかかわる指標が標準の精度の範囲で一致した一方、回転に対する安定性に差が出たという結果は、測定の再現性を考えるうえで、音源の選択が論点になることを示しています。
もう一つ、この研究の特徴は、結論の範囲を細かく区切っている点です。
自作した十二面体に限る、強さと63 Hz帯を外す、回転数が足りない、平均の妥当性に疑義を残す、といった留保が積み重なっています。
部屋の評価に踏み込まない姿勢も一貫しています。
測定という行為が条件に依存することを、そのまま書き残した研究として位置づけられます。
参考資料
Plamen Valtchev, Denise Gerganova, "Comparative Acoustic Measurements: Spherical Sound Source vs. Dodecahedron," AES 134th Convention, Rome, Italy, Convention Paper 8860, 2013.
原典の主張は、(Comparative Acoustic Measurements: Spherical Sound Source vs. Dodecahedron)をご参照ください。

