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クラシックをやってきた人がジャズのコード譜を見ると「G7ってV7のこと?」と戸惑い、ジャズをやってきた人がクラシックの和声分析を見ると「V7って要するにG7でしょ?」と思ってしまう。
どちらも正しい。
同じ四和音なのに名前が違うのは、音への近づき方が逆だからです。
この和音は、音として何なのか
音の事実から始めましょう。
ここで扱う和音は、根音から順に長3度、完全5度、短7度を積んだ四和音です。
根音をGにすると、構成音は G、B、D、F になります。
この和音の駆動力は、BとFの間に生じる三全音(減5度、半音6つ分の隔たり)にあります。
不協和なこの音程が、より協和な音程へ動こうとする。
Bは半音上へCへ、Fは半音下へEへ。
この二つの動きが、和音全体をハ長調の主和音(C-E-G)へ導きます。
これが「解決」の正体です。
クラシックではなぜV7と呼ぶのか
クラシックの和声学では、この和音を「属七の和音」、記号で「V7」と呼びます。
名前の由来は、調の中での役割です。
ハ長調を例にとります。
音階は C、D、E、F、G、A、B の7音。
5番目の音Gを属音と言い、Gの上に音階の音を一つ飛ばしで積むと G-B-D-F になります。
これが属七の和音です。
クラシックでは、まず調があります。
その調の中で、V(属和音)の位置に積まれた7の和音だからV7。
調の枠組みが先で、個々の音は後から決まります。
この考え方では、G7と書かれた和音を見ても「これは何調のV7か」と問うことから始まります。
V7の本質は機能です。
主和音(I)へ進もうとする引力を持ち、このV7→Iの動きをドミナントモーションと呼びます。
第7音Fが半音下のEへ、導音Bが半音上のCへと進む声部の動きが、解決の実体です。
ジャズではなぜG7と呼ぶのか
ジャズでは、同じ和音を「G7」と呼びます。
コードネームの考え方は、根音をアルファベットで示し、その上に積まれた音の種類を数字と記号で表すというものです。
Gという根音に、7(短7度を含む四和音を意味する記号)を添えてG7。
目の前にある音を積み上げて名前を作ります。
調の情報はコードネームに含まれません。
G7はハ長調のV7でもありえますが、他の調でも同じ名前で使われます。
ジャズでは、G7という響きそのものが独立した存在です。
ドミナントモーションは、調の機能ではなく、コード同士の関係として理解されます。
BがCへ、FがEへという動きはクラシックと同じですが、それは「G7からCへ動くときの声部進行」であり、「V7からIへの機能解決」とは捉え方が異なります。
G7の上では、構成音をすべて含むGミクソリディアンが自然に響きます。
なぜ同じ和音に二つの名前が生まれたのか
ここまで見てきたように、クラシックとジャズでは音に名前を付ける順序が逆です。
これが、同じ和音に二つの名前が生まれた根本的な理由です。
クラシックの手順は、上位の枠組みから降りてきます。
まず調があり、音階の各音に主音・属音・下属音といった機能名が与えられ、その上に積まれた和音がI、IV、Vと番号付けされる。
Vの位置で、音階の音をさらに積んで7度まで達したものがV7です。
名前の出発点は常に調。
言い換えれば、V7という名前は「この和音が何をするか」を表しています。
ジャズの手順は、目の前の音から上がっていきます。
まず鳴っている音を聴き、一番下の音を根音と認識し、そこから各音までの音程を調べて、和音の種類を決める。
Gが根音で、長3度と完全5度と短7度だからG7。
名前の出発点は常に個々の音です。
G7という名前は「この和音が何でできているか」を表しています。
同じG-B-D-Fという音の集まりにたどり着くのに、一方は「ハ長調の5番目の音の上に積まれた7の和音」という経路でV7に至り、もう一方は「Gを根音とする短7度を含む四和音」という経路でG7に至る。
道順が正反対なのです。
これは派閥や流派の違いではなく、音楽をどう組み立てるかという前提の違いに由来します。
しかし、どちらの立場でも、和音が次の和音へ動く仕組みは同じです。
三全音B-Fの不協和が、より安定したC-Eへ解決する。
この音響的な事実は、調性音楽にもジャズにも変わりなく働きます。
相手の見方をどう身につけるか
クラシックからジャズへ。
コードネームを読むときは、まず根音のアルファベットを見ます。
G7ならG、Bb7ならB♭。
次に数字と記号を確認します。
7だけなら属七(長3度+短7度)、m7なら短七(短3度+短7度)、maj7なら長七(長3度+長7度)。
この読み方は、[コードネーム 読み方。
Cm7b5を左から順に読めば解ける手順](https://kuon-rnd.com/journal/chord-symbol-how-to-read)に詳しく書いています。
いったん根音と構成がわかれば、それがどの調のV7なのかも逆算できます。
ジャズからクラシックへ。
V7を見たら、まず調号から主音を確認します。
シャープ一つならト長調かホ短調。
調性が確定したら、主音から5度上の音を見つけてください。
それがV7の根音です。
この調と機能の関係は、[五度圏 覚え方。
調号の増え方と関係調がひと目でわかる円の仕組み](https://kuon-rnd.com/journal/circle-of-fifths-key-signatures)で体系的に整理されています。
V7がIへ解決するという機能和声の考え方は、コード進行の「なぜここでこの和音なのか」を説明してくれます。
この問いはジャズのコード譜だけでは見えにくいものです。
あなたが今演奏している曲のなかに、V7ともG7とも読める和音が必ずあります。
それを一つ取り出して、クラシックの目(この和音はどこへ行きたがっているか)とジャズの目(この和音の上でどんな音階が響くか)の両方で眺めてみてください。
どちらの見方が、あなたの演奏をより豊かにしますか。
