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小編成のジャズを録るとき、いちばんの問題は後から直せないことです。
奏者は互いの音量を聴きながら、その場でバランスをとって鳴らしています。
録音はその瞬間のバランスを残す作業であり、マイクの置き方ひとつで仕上がりが決まります。
ジャズの小編成を録ると、なにが難しいのか
小編成のジャズは、楽器ごとに音の出方がまるで違います。
ドラムスはシンバルの上寄りの成分からバスドラムの低い成分まで、一つのセットから広い帯域を放射し、音量も大きくなります。
ベースは低域が中心で、100 Hzの波長は約3.4 mにもなります。
管楽器は音が楽器の先から強く出るため、向きによって聴こえ方が変わります。
ピアノは蓋の開き方で響きが変わります。
こうした指向性と音量の差を、奏者はステージ上で互いに聴き合って整えています。
誰が強く、誰が引くか。
その配分はその場で決まります。
録る側には、この出来上がったバランスを崩さずに拾うことが求められます。
複数のマイクを立てて個別にレベルを調整する方法もありますが、マイクを増やすほどマイク間の干渉や位相の破綻が起きる可能性が増えます。
大編成では吹奏楽コンクールの録音のように客席から全体を収める方法もとられます。
小編成では、1組のマイクで全体を収めるワンポイント録音が素直な選択になります。
マイクはどこに置けばいいのか
ワンポイント録音とは、1組のステレオマイクだけで全体を収める考え方です。
マイクを増やさず、位置で音を決めます。
この方式は位相の破綻が起きず、マイク間の干渉もありません。
置き方の判断基準は三つです。
一つ目は距離です。
臨界距離という目安があります。
直接音と残響音のレベルが等しくなる距離のことです。
この内側なら直接音が支配的になり、楽器の輪郭がはっきりします。
外側なら残響が支配的になり、空間の響きが前面に出ます。
小編成のジャズでは、奏者同士が聴き合っている位置を基準に、耳で確かめながら距離を決めます。
二つ目は高さです。
奏者の耳の高さを基準にします。
聴き手が聴いている位置を再現するためです。
低すぎると床面の反射の影響を受けやすくなります。
三つ目は向きです。
ステレオペアを編成の正面に向け、編成の左右の広がりがステレオの左右に対応するように置きます。
ドラムスが右、ベースが左という実際の配置が、そのままスピーカーの左右に再現されるのが自然です。
逆二乗の法則を念頭に置くと、自由音場では音源からの距離が2倍になるとレベルが約6 dB下がります。
ただし室内では反射があるため、この通りには下がりません。
残響が支配する距離を超えると、ほとんど下がらなくなります。
どの数値を選ぶかは会場と編成で変わります。
特定の位置を断定することはできません。
自分の耳で、直接音と響きの釣り合いを聴いて決めるのが基本です。
なぜその位置が合うのか
小編成のジャズは、ステージ上で奏者自身がバランスをとっています。
このバランスは、奏者同士が聴き合っている位置でこそ正しく聴こえます。
編成の中心にマイクを置くのは、その聴き手の位置に耳を置くことと同じです。
奏者の配置そのものがミックスになる、というのがワンポイントの考え方です。
直接音と残響の比率は、距離で決まります。
近づけば直接音が勝ち、離れれば残響が勝ちます。
臨界距離を目安に、輪郭を残すか響きを活かすかを選びます。
小編成のジャズは、部屋の響きも音楽の一部です。
無指向性のマイクは部屋の響きも拾うため、空間ごと捉えられます。
干渉の面でも、ワンポイントは有利です。
マイクが1組なら、複数マイクを混合したときに起きるコムフィルタを避けられます。
コムフィルタとは、同じ音が時間差をもって二つの経路から到達し、特定の周波数が打ち消される現象です。
床面反射による干渉は残りますが、マイク同士の干渉はそもそも起きません。
よくある失敗と、どう避けるか
一つはマイクを近づけすぎることです。
直接音が勝ちすぎると、楽器ごとの距離差が拡大されてバランスが崩れます。
単一指向性のマイクなら近接効果で低域が持ち上がります。
無指向性なら近接効果は生じませんが、距離そのものは適度に保ちます。
もう一つは遠すぎることです。
残響が支配すると輪郭がぼやけ、アタックが失われます。
臨界距離を大きく超える距離では、音源を近づけてもレベルがほとんど変わらなくなるため、逆にバランスを整えにくくなります。
中央が薄くなる失敗もあります。
間隔を広げて置くステレオ方式では、間隔が広いと中央が薄くなることがあります。
編成の中央に音源がしっかりある配置なら気になりにくいですが、違和感があれば間隔を詰めます。
最後に、後から直そうとする失敗です。
ワンポイント録音は後からバランスを直せません。
録る前に奏者に位置と音量を確認してもらい、聴いたその場で良し悪しを判断します。
どんなマイクが向くのか
この編成には、無指向性のマイク2本を組にした録り方が向きます。
理由は三つあります。
一つ目は近接効果が生じないことです。
指向性マイクを音源に近づけると低域が持ち上がりますが、無指向性ではそれが起きません。
近づけたときの低域の膨らみを気にせず、距離を選べます。
二つ目は低域まで素直に収まることです。
ベースやバスドラムの低い成分を、距離に応じて自然に収められます。
低域は波長が長いため、距離による位相の影響を受けにくい帯域です。
三つ目は空間の響きを含めて捉えられることです。
小編成のジャズでは部屋の響きが音楽の一部になります。
無指向性は全方向から等しく拾うため、直接音と響きの両方をバランスよく収められます。
指向性の違いを整理します。
無指向性2本を離して置く方式は、マイク同士の間隔を30 cmから300 cm以上まで、目的と音源の幅に応じて変えられます。
空間の広がりが大きく、低域まで自然に収まります。
マイク同士を近づけて交差させるXY方式とは対照的です。
無指向性を3本に増やして三角形に置くデッカツリーという配置もあります。
必要な特性は、ノイズが少ないこと、そしてドラムスの大音量を受け止められる最大音圧レベルを持つことです。
最後に
ワンポイント録音の要は、後から直せないという前提に立つことです。
あなたの現場では、編成の中心で聴いた直接音と響きの釣り合いは、どこで最も良く聴こえるでしょうか。
その位置を探すことが、そのまま仕上がりにつながります。

