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弦楽四重奏を録るとき、いちばんの問題は4人の音を一体として捉えることです。
個々の楽器を分けて録るのではなく、アンサンブルとしての響きをそのまま残す。
編成は2挺のバイオリン、1挺のヴィオラ、1挺のチェロ。
この4人の距離が近いことが、録音の考え方を決める土台です。
指向性であとからミックス・・・この方法もKuonは否定していません。
素晴らしい録音方法であり、意図して制作する際は素晴らしい結果になります。
ただ、やはり弦楽器だからこそ、無指向性の美学を最大限活かしたいとKuonは考えています。
今日は弦楽四重奏、弦楽アンサンブルの録音方法をガイドしていきます。
弦楽四重奏の録音は何が難しいのか
弦楽四重奏の音は、4人の奏者のあいだで混ざり合ってから客席へ届きます。
各楽器の放射特性は一様ではありません。
バイオリンは楽器を斜め上に向けて構えるため、高域の成分が天井方向へ放射されやすい性質があります。
チェロは前方へ音を放射し、ヴィオラはその中間といった性格です。
このため、マイクをどの位置に置くかで、4つの楽器のバランスは大きく変わります。
また弦楽器は倍音が豊かで、弓の擦過音や左手の指の動きといった細かい情報も含まれています。
近づけすぎるとそれらが強調され、離れすぎると残響に埋もれてしまいます。
音量の面では、弦楽四重奏はオーケストラに比べて小さな範囲でまとめやすいです。
ただやはり、会場の暗騒音や空調の音が気になることもあります。
しかし小さな世界のなかに豊かな表現があり、それを壊さずに伝える必要があります。
広がりの面では、奏者4人が横一列ではなく弧を描いて座ります。
第1バイオリンが左、第2バイオリンがその隣、ヴィオラが中央右寄り、チェロが右という配置が一般的です。
この立体的な配置を、ステレオの空間にどう収めるかが課題です。
マイクをどこに置くか
弦楽四重奏の録音に向くのは、無指向性のマイク2本をAB方式で配置する方法です。
ワンポイント録音の考え方で、位置だけで音を決めます。
どちらを選ぶかは指向性の使い分けの記事も参考にしてください。
高さは、奏者の耳より上を基準にします。
弦楽器の放射特性を考えると、楽器の真上より、少し距離を取って斜め上から捉える位置が、4つの楽器のバランスを取りやすいからです。
どのくらいの高さが適切かは、会場の天井高や残響によって変わります。
天井が高い会場では高めに、低い会場では低めに設定するのが一つの目安です。
距離は、奏者からどのくらい離れるかが最も重要な判断です。
近づけば直接音が強くなり、楽器の細かい表情まで収まります。
離せば会場の響きが増え、アンサンブルとしての一体感が出ます。
この距離の判断基準になるのが臨界距離です。
臨界距離とは、直接音と残響音のレベルが等しくなる距離です。
これを基準に、直接音を重視したいのか、響きを含めたいのかで前後に動かします。
会場の残響が長ければ臨界距離は近くなり、残響が短ければ遠くなります。
残響時間RT60は、音が停止してから60 dB減衰するまでの時間を秒で表した値で、この値が大きい会場ほど臨界距離は手前に寄ります。
2本のマイクの間隔も、録る対象の幅によって決めます。
弦楽四重奏の場合、奏者4人が横に広がる幅を、ステレオの定位のなかでどう表現するかが基準です。
間隔が広すぎると中央が薄くなり、狭すぎると広がりが感じられなくなります。
AB方式では間隔を広げるほど空間の広がりは大きくなりますが、中央の定位が不安定になる傾向があります。
3対1の法則を目安に、マイク間の距離を音源までの距離の十分な比率に保つことで、干渉による周波数特性の乱れを抑えられます。
ただし3対1の法則は目安であり、音源の指向性や部屋の響きによって必要な比率は変わります。
向きは、2本のマイクを平行に構え、正面を奏者に向けます。
無指向性は全方向から等しく拾うため、向きによる変化は指向性マイクほど大きくありません。
ただし完全に無指向性であっても、周波数が上がるとわずかな指向性が生じることがあるため、両方のマイクの向きを揃えることで、ステレオの定位の一貫性を保てます。
なぜその位置なのか
無指向性マイクをAB方式で使う理由は、物理的な特性にあります。
無指向性には近接効果がありません。
指向性マイクを音源に近づけると低域が持ち上がりますが、無指向性ではその心配がなく、チェロの低域からバイオリンの高域まで、周波数特性が素直に保たれます。
弦楽四重奏は音域が広く、チェロの最低弦からバイオリンの高音域まで、可聴周波数範囲の大部分をカバーします。
この広い帯域を周波数特性の偏りなく収められることが利点です。
また無指向性は全方向から等しく音を拾うため、会場の響きを自然に含みます。
弦楽四重奏の音楽は、奏者同士が響きのなかで音を重ね、会場の空間も演奏の一部として機能します。
その空間を含めて録ることが、弦楽四重奏の録音ではとくに重要です。
直接音と残響の比率も、距離で調整できる要素です。
近づければ直接音が優勢になり、離せば残響が増します。
ただし室内では反射があるため、逆二乗の法則がそのまま成り立つとは限りません。
残響が支配する距離を超えると、離してもレベルがほとんど下がらなくなる領域があります。
この境界を見極めることが、位置決めの実践的な要点です。
起きやすい失敗と避け方
最も多い失敗は、マイクを近づけすぎることです。
弦楽器の細かい音を拾いたい気持ちは理解できますが、近づけすぎると特定の楽器が強調され、4人のバランスが崩れます。
また奏者の息づかいや楽譜をめくる音まで拾ってしまい、鑑賞の妨げになります。
反対に遠すぎると、残響のなかに音が埋もれて明瞭さを失います。
4人の音の輪郭がぼやけ、何を演奏しているのか分からなくなることがあります。
床面反射によるコムフィルタも注意すべき問題です。
マイクが床から離れていると、直接音と床で反射した音が時間差をもって到達し、特定の周波数が打ち消されます。
これを避けるには、マイクの高さを調整して、直接音と床面反射の経路差による干渉が目立つ帯域を、録音したい音域から外すことが有効です。
もう一つの失敗は、マイクの間隔を広げすぎて中央が薄くなることです。
弦楽四重奏では第2バイオリンとヴィオラが中央付近に位置し、和声の内声を担います。
この中央が薄くなると、音楽の構造がはっきりしなくなります。
弦楽四重奏に向くマイクの性質
無指向性のマイク2本を組にしたAB方式が向きます。
理由は次のとおりです。
第一に近接効果が生じません。
弦楽四重奏を録るときは奏者からある程度の距離を取るため、近接効果が問題になることは多くありません。
しかしどの距離でも低域の特性が変わらないことは、一貫した音を得るうえで有利です。
第二に低域まで素直に収まります。
チェロの低音はもちろん、4つの楽器が重なったときの豊かな倍音構造を、周波数特性の偏りなく記録できます。
第三に空間の響きを含めて捉えられます。
弦楽四重奏の録音では、会場の響きのなかで4人の音が混ざり合う様子をそのまま残すことが理想です。
無指向性は全方向の音を拾うため、その理想に近づきやすい特性を持っています。
本数は2本、ペアで使います。
3本目のマイクを加えるマルチマイクの手法もありますが、まずは2本で全体を決めるワンポイント録音の考え方から始めることで、位相の破綻やマイク間の干渉といった問題を避けられます。
弦楽四重奏を録るあなたの会場では、どこに臨界距離があるでしょうか。
まずはそれを手がかりに、マイク位置を探ってみてください。

