空音開発Kuon R&D
音響工学 · 2026.08.31

2005年|マイクの電波ノイズはケーブルと結線でどう変わるか

録音に入り込む電波ノイズは、マイクとケーブルのどこから入り、ケーブルのインピーダンスや結線でどう変わるのか。標準化された測定に基づく研究を解説します。

目次

録音中、近くの携帯電話から電波が入り、プツプツ、ジーというノイズになることがあります。

このノイズはマイクとケーブルのどこから入り、ケーブルのインピーダンスや結線、コネクタのシールド処理でどれだけ防げるのでしょうか。

この研究は、標準化された測定でマイクの電磁妨害への耐性を調べ、混入の入り口と、ケーブルやコネクタの条件が耐性を左右することを示しました。

携帯の電波は、なぜ録音に入り込むのか

妨害波は無線周波数帯のより高いほうへ移ってきており、いま最も問題になる妨害源は携帯電話だと、Schneider(2005年)は位置づけています。

携帯電話が近くにあると音が混入する現象は経験的に知られていますが、それを定量的に、再現可能な形で測ったデータはあまり公開されていません。

マイクを覆う導電性の金属筐体は、ファラデーシールドと呼ぶ遮蔽です。

外からの電磁妨害を遮るのが役目です。

信号のやり取りには、信号線とシールドを使う平衡接続が広く使われます。

平衡接続とは、外来ノイズの除去を信号の対称性ではなく、信号線のインピーダンスが等しいことに依存させる接続方式です。

それでも電波が音になるのは、復調という現象が起きるからです。

復調とは、無線周波数の妨害波が、非直線性を持つ部品(一般には半導体)を通るときに、可聴域のノイズへ変換されることです。

どこで復調が起きるか、ケーブルやコネクタの条件でそれがどう変わるかは、標準化された測定が無ければ再現性のある形で確かめられません。

マイクの耐性は、どう測れば分かるのか

まず、マイクからケーブル、アンプまでの経路を、抵抗と容量のモデルで表しました。

マイク側の出力インピーダンス(信号源の抵抗)と、アンプ側の入力インピーダンス(負荷の抵抗)を抵抗として扱い、これにケーブルの抵抗と容量を加えます。

高品質なケーブルの抵抗は100 Ω/kmです。

長いケーブルを模した容量として47 nFを想定しました。

コンデンサーマイクとダイナミックマイクについて、無負荷、抵抗負荷、長いケーブルを模した容量(47 nF)、実在する長尺ケーブルの各条件で周波数特性を測りました。

ここで効いてくるのが電圧整合です。

電圧整合とは、マイクの出力インピーダンスをできるだけ低く、アンプの入力インピーダンスをできるだけ高く選び、少なくとも1:5の比を保つ考え方です。

この比が崩れると信号がどれだけ落ちるかも、測定の対象でした。

電磁妨害そのものの測定には、GTEMセルという装置を使いました。

GTEMセルとは、広帯域の電磁両立性・電磁妨害耐性を測る試験セルで、ギガヘルツ帯まで対応する横電磁波セルです。

複数のマイクをこのセルに入れ、30 MHzから2.7 GHzまでを一気に走査しました。

変調はAM(搬送波を1 kHzで変調、深さ30%)とFM(1 kHz、22 kHz)です。

場の強さは10 V/mを基準としました。

マイクの出力は、CCIR重み付けと準ピーク検出によるノイズ値として読み取りました。

さらに、コネクタとシールドの結線方式を比較しました。

XLRのシールド端子Pin1をコネクタのシェルPin0に接続する方式(Pin0-Pin1接続)、Pin0-Pin1を接続しない方式、専用のXCCコネクタです。

あらかじめ電磁妨害に強い設計のマイクを使い、ケーブルとコネクタの組み合わせ11通りで測りました。

この方法を選んだのは、標準化された測定系が再現可能で広帯域だからです。

現場での経験的な確認や、これまでの実験室の方法では再現性に欠けていました。

GTEMセルなら30 MHzから2.7 GHzまでを一度に測れ、放送で使われる周波数帯の大半をカバーできます。

ケーブルと結線で、耐性はどう変わるのか

インピーダンスの比が信号に与える影響は、マイクの種類によって異なりました。

標準的な1:5の比では、信号の減衰は最大でも1.6 dBに収まります。

あるコンデンサーマイクでは、1 kΩの負荷での感度差が0.4 dBだけでした。

これに対し、出力インピーダンス200 Ωのダイナミックマイクでは、1 kΩの負荷で1.6 dBの損失に加え、およそ2 dBの低域の低下が見られました。

また、最大出力レベルは負荷インピーダンスに依存します。

マイク#1は300 Ωの負荷まで駆動でき、低下は小さく済みました。

一方マイク#2は、標準的な1 kΩの負荷でヘッドルームが6 dB失われ、2.5 kΩ以上の負荷が必要でした。

負荷による信号への影響
条件結果
標準のインピーダンス比 1:5最大減衰 1.6 dB
コンデンサーマイク・1 kΩ負荷感度差 0.4 dB
ダイナミックマイク(200 Ω)・1 kΩ負荷1.6 dBの損失と低域 2 dBの低下
マイク#1・300 Ω負荷対応可能で低下は小さい
マイク#2・1 kΩ負荷ヘッドルーム 6 dB低下、最低 2.5 kΩ

ケーブル側では、47 nFの容量を模した長尺ケーブルで、40 kHzを境に高域が落ちました。

実在する長尺ケーブルでは、超音波帯に2.5 dBの共振と、抵抗による0.2から0.3 dBの減衰が現れました。

電磁妨害の測定では、場の強度を上げると混入が増え、増え方は場の強度の増加を上回りました。

強度を上げたとき、混入は20 dB増加しています。

混入の大きさはマイクの向きにも依存し、最悪値を捉えるには少なくとも3方向の測定が必要でした。

コネクタとシールドの結線では、電磁妨害に強い設計のマイクで比べたところ、シールド端子をシェルにつながない開いたシェルの結線が最悪でした。

Pin0-Pin1接続と専用のXCCコネクタは改善しましたが、どちらが勝るかははっきりしませんでした。

結線方式の効果はマイク内部の回路と接地の構成によって変わり、すべてに効く一つの規則を述べるのは難しい、という結論です。

この測定の数値は、どこまで信用できるのか

この論文自身が、測定の限界を述べています。

まず、測定パラメータが時期によって変わっています。

場の強度が測定ごとに一定でなく、AM変調度も以前の80%から現在の30%へ変更されました。

このため、時期の異なる数値をそのまま並べて比較することはできません。

次に、コネクタの結線方式の効果は、マイク内部の回路と接地の構成によって変わります。

この研究で得られた知見がそのまま別のマイクに当てはまるとは限らず、すべての問題を解決する一つの規則を述べるのは難しい、と著者自身が記しています。

さらに、静電気放電(ESD)については詳しく扱われていません。

論文は、他の妨害に対する遮蔽と接地の構成が通常は静電気放電の影響を抑えるのに十分だと述べるにとどまります。

試験電圧のピークとして4 kVと8 kVが挙げられますが、詳細な検討はありません。

この研究は、音響のどこに位置づくのか

電磁妨害の問題は、これまで現場での経験として語られることが多く、数値として共有されにくい分野でした。

この研究は、標準化された測定法でマイクの耐性を測れることを示し、その値が再現可能である点に価値があります。

妨害源が無線周波数帯の高いほうへ移るなかで、携帯電話という具体的な妨害源を対象に据えた点も、当時の状況を反映しています。

もう一つの受け止め方は、耐性がマイク単体の性質ではなく、マイクとケーブルとコネクタを合わせた系の性質だという点です。

インピーダンスの比、結線方式、シールドの接続のいずれもが結果を左右し、しかもマイク内部の回路によって効き方が変わります。

一つの規則で片付かないという結論自体が、この分野の理解の現在地を示しています。

参考資料

原典の主張は、Electromagnetic Interference, Microphones and Cables をご参照ください。

この記事が属するシリーズ

関連記事

ジャーナルへ戻る