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音響工学 · 2026.09.03

2007年|ハイレゾ音源はどこまで聴き分けられるのか

ハイレゾ音源の違いは本当に耳で分かるのか。Rumsey(2007)の総説に沿って、デジタルマイクから空間再生、符号化、聴感評価までをたどり、聴こえる差が聞き分けにくいことを示します。

目次

ハイレゾ音源は、CDの規格を超えた高解像度のデジタル音声です。

その違いは本当に耳で聴き分けられるのでしょうか。

録音のマイクから再生のスピーカー、符号化、聴感評価まで、どこで差が生まれ、どこからは分からなくなるのか。

この記事は、Rumsey(2007)の総説に沿ってこの問いに答えます。

結論から示すと、ハイレゾと低解像度のシステムの聴こえる差は、聞き分けにくい場合が多い、という結果でした。

ハイレゾをめぐって何が分かっていなかったのか

ハイレゾ(high resolution audio)とは、CDの基準である44.1 kHzを超えるサンプリングレート、あるいはCDを超える量子化ビット数を持つデジタル音声システムを指します。

Rumsey(2007)はさらに、この語を、優れたトランスデューサーや高空間解像度の再生システムまで含む、より広い意味で用いています。

当時、ハイレゾは、聴こえるかどうか、アナログらしい音質か、保存の価値があるか、といった点で議論されてきました。

ハイレゾの動きは、携帯プレーヤーに代表される「まあこれで聴ける」という流れに対抗して、高忠実度を取り戻そうとするものでもありました。

Rumsey(2007)は、この分野の技術的な進展と聴感上の結果を追うため、直近のAESの発表を横断的に整理しています。

ハイレゾの優位はどんな方法で確かめられたのか

Rumsey(2007)は、AES第31回国際会議とAES第123回コンベンションの論文から、ハイレゾに関わるものを選んで総説にまとめました。

扱った範囲は、マイクとスピーカーというトランスデューサー、高空間解像度の再生、ロスレスおよびパラメトリック・オブジェクト符号化、主観的な音質評価です。

トランスデューサーでは、AES42規格のデジタルマイクと、バランスドモードラジエーター(BMR、軸上出力を持たないモーダル型のスピーカー放射器)が検討されました。

AES42デジタルマイクは、信号を最大300 mまで伝送できます。

デジタルマイクは、アナログのマイクとプリアンプの組み合わせに比べ、ノイズがプリアンプのゲインに依存しなくなり、主にマイク自体の特性で決まるため、ダイナミックレンジを良くできる可能性があります。

ダイナミックレンジとは、雑音フロアと使える最大信号レベルの間の範囲です。

空間再生では、波面合成と22.2チャンネルサラウンドが扱われました。

波面合成とは、非常に多数のスピーカーを使って音響の波面そのものを合成する空間オーディオの手法で、通常は水平面で行われます。

紹介されたシステムは108本のスピーカーを使うものでした。

22.2チャンネルサラウンドとは、高さ方向の表現を備え、前方に多くのスピーカーを集中させたNHKの多チャンネル方式です。

この種の空間オーディオの作り方は、空間オーディオの作り方で紹介しています。

符号化では、高解像度オーディオの保存と配信に向けた、ロスレス符号化とパラメトリック・オブジェクト符号化の提案が検討されました。

聴感評価では、デジタルシステムをアナログ参照と比較する主観テストが、6本のサラウンドスピーカーを使い、80.5 dBAのホワイトノイズで各機器のレベルを揃えて行われました。

元の信号は44.1 kHzの128倍というレートの5 bit信号で、358.2 kHzのオーバーサンプリング版(DXD形式)も用意されました。

これらを低サンプリングレートの版やアナログ参照と聴き比べます。

帯域は、20 kHzに制限した条件と、特別なマイクとスーパーツイーター(20 kHzを超える周波数を再生するデバイス)を使って100 kHzまで拡張した条件が用意されました。

ハイレゾと低解像度の差は何だったのか

まずトランスデューサーです。

デジタルマイクは、アナログのマイクとプリアンプの組み合わせより良いダイナミックレンジを達成できます。

デルタシグマ変換とは、デジタルマイクなどで使われるアナログ・デジタル変換の方式で、非常に低い雑音フロアを実現できます。

実カプセルと組み合わせた現代的なデルタシグマ変換器では、平均雑音フロアが小型カプセルで-122 dBFS、大型カプセルで-130 dBFSでした。

さらに、複数のゲインレンジを持つ変換器(ゲインレンジング方式)に非線形のクロスオーバーを組み合わせると、デジタルマイクのダイナミックレンジを130 dBAまで得られます。

デジタルマイク変換器の雑音フロアとダイナミックレンジ
項目単位
小型カプセルの平均雑音フロア-122dBFS
大型カプセルの平均雑音フロア-130dBFS
ゲインレンジング方式のダイナミックレンジ130dBA

スピーカーでは、BMRのシミュレーションで、30 kHzの高域パワーレスポンスが同程度のピストン型より約10 dB高いという結果が示されました。

BMRはピストン型の指向性パターンに生じる谷を埋め、パワー帯域を広げる役割があります。

空間再生では、22.2チャンネルに似たスピーカー配置で、聴取者は音源を隣のスピーカーの近くに知覚することが多く、とくにスイートスポットから外れた場合や、音源を大きな角度にわたってパンした場合に顕著でした。

また、どちらの空間システムでも高さ方向の位置は過大評価されました。

符号化では、開発中のMPEG-A Professional Archival MAFがMPEG-4 ALS(前方適応線形予測に基づくロスレス符号化)を使い、4 Gbyteを超える大きなファイルに対応します。

テストされたロスレス符号化器はZIPを上回る結果を示し、FLACやMonkey's Audio、OptimFROGと比較されました。

一方、パラメトリック符号化は16 kbit/s程度の低ビットレートが典型です。

解像度に依存しないパラメータによるオブジェクト符号化は、標準レートの音声からより高解像度の版を再構成できる可能性があり、残差信号を保存すれば元の信号を正確に復元できます。

書き出しのサンプリング周波数やビットレートの選び方は、演奏動画の音を書き出しで壊さないでまとめています。

聴感評価がこの総説の核です。

20 kHzに帯域を制限した条件では、聴取者はハイレゾ音声をアナログ参照に近いものとして選ぶことが多かったのに対し、100 kHzまで拡張した条件では、低サンプリングレートの版を選ぶことが多くなりました。

聴取者パネルの平均認識率は、非オーディオ系の学生を除くと約50パーセント、非オーディオ系の学生では60パーセントでした。

粗末なMP3プレーヤーはより確実に検出されましたが(非オーディオ系の学生では検出率100パーセント)、高品質な機器は参照との違いを安定的に区別されませんでした。

Rumsey(2007)は、ハイレゾと低解像度のシステムの聴こえる差は聞き取りにくいことがある、と結論づけています。

ただし、20 kHzに帯域を制限した条件では、ハイレゾの信号経路がアナログ参照により近く聴こえた、という証拠も一部にありました。

この結論はどこまで当てはまるのか

この総説が依拠する聴感評価(Woszczykらのテスト)には、いくつか限界が記されています。

聴取者はどの版がアナログ参照かを知っていました。

一部の聴取者は、どちらのデジタル版もアナログ参照に劣るという感想を述べています。

また、この課題は当事者にとってかなり難しかったと報告されており、機械的に生成した非音楽的な音源の代わりに音楽信号を使った場合に結果が変わるかは分かっていません。

加えて、22.2チャンネルのパンのアルゴリズムがどう働くかは、参照した論文では説明されておらず、この総説も扱っていません。

ハイレゾをどう捉え直せばよいのか

ハイレゾをめぐっては、聴こえるかどうか、アナログらしさ、保存価値といった問いが長く続いてきました。

この総説は、マイクやスピーカー、空間再生、符号化、聴感評価という連鎖をひと続きに並べ、技術の進展と聴感の結果を同じ地図に載せた点に位置づけがあります。

雑音フロアや帯域、ファイル容量の具体的な値が示される一方で、聴こえる差は聞き分けにくい場合が多い、という結果が並んでいます。

聴感の結果は、高解像度と低解像度の差が一意に決まるものではなく、帯域や音源の条件に左右されることを示唆しています。

20 kHzに制限した条件でハイレゾがアナログ参照に近いと選ばれた一方、100 kHzに広げると低サンプリングレートの版が選ばれました。

技術がどこまで達しているかと、人がどこまで聴き分けるかは、分けて捉えるのが穏当です。

この総説は、その二つを見比べる材料を並べています。

参考資料

原典の主張は、High Resolution Audio をご参照ください。

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