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マイクプリアンプのゲインは、どれだけあれば足りるのか。
必要なゲインは音源の大きさとマイク感度で変わり、仕様表だけでは判断できません。
McKinnie(2010)は実使用の音圧レベルとマイク感度の分布を組み合わせ、必要なゲインを確率として求めました。
結果、必要なゲインは統計的に示せる範囲に収まります。
マイクプリアンプのゲイン幅は、なぜ決めにくいのか
マイクプリアンプとは、マイクの微弱な信号を次の段へ渡せる大きさまで増幅する回路のことです。
その増幅の量をゲインと呼びます。
必要なゲインは、音源の音圧レベル、音源からマイクまでの距離、マイクの感度で決まります。
音圧レベル(SPL)とは、音源がマイクの位置にもたらす音の強さのことです。
マイク感度とは、同じ音の強さに対し、マイクがどれだけ大きな電気信号を出すかを示す仕様のことです。
感度が高いマイクほど、必要なゲインは小さくなります。
臨界距離とは、音源からマイクまでの距離を指す言葉で、この研究ではマイクが臨界距離の内側に置かれるものとして扱われます。
設計者にとっての難しさは、適切なゲイン幅を判断する手がかりが乏しかった点にあります。
設計者は幅広い状況に備えて可変ゲインや複数の設定を用意しなければなりません。
一方で、ゲイン幅は雑音指数(回路が加える雑音の度合い)や安定性、帯域幅、消費電力、回路の複雑さといった特性に影響します。
ゲイン幅を小さく、回路を単純にすれば、多くの利用者には同等の性能で足りる可能性があります。
一方、感度の分布の端に当たるマイクを使う利用者は、より多くを負担してもよいと考えるかもしれません。
必要なゲインを左右するマイク感度は、方式やモデルによって幅広く異なります。
この点は、コンデンサーマイクとダイナミックマイクの違いで扱うマイクの方式の違いにも通じます。
だからこそ、必要なゲインは特定の値ではなく分布として捉える必要があったのです。
必要なゲインは、どうやって統計的に求めたのか
McKinnie(2010)は、実使用の記録を集めることから始めました。
ライブ音響のミックス技術者、ライブ音響のシステム設計者、クラシックのロケーション録音を担う技術者、スタジオのセッション技術者から、セッションの記録と、デジタルミキサーがマイクプリアンプのゲインを収めていた、あるいは遠隔で制御していた設定のスナップショットを集めました。
そして、ゲイン設定をマイクの機種、音源、音楽スタイルや制作内容と結びつけました。
ここで、ある仮定が置かれています。
経験のある操作者は、クリッピングを避け、信号対雑音比(雑音に対する信号の大きさの割合)を最大化するようにゲインを設定している、という仮定です。
この仮定のもとで、ゲイン設定とマイク機種が分かるデータそれぞれについて、マイク位置で想定される最大の音圧レベルを逆算しました。
マイク感度の分布は、別に推定しました。
現在生産されているマイクのうち、オンライン小売店の人気ランキングに載る上位100本を対象に感度の分布を推定し、市場区分で絞り込んだ図も作りました。
古典的な機種、つまり往年のビンテージモデルは、音響系の業界記事での検索件数によって選び、順位を付けました。
音圧レベルの分布とマイク感度の分布を組み合わせて、必要なゲインの範囲を統計的に導きました。
音源の音圧レベルと音源からマイクまでの距離をまとめて扱うのは、大量のデータを利用できるようにする現実的な妥協でした。
上位100本という対象は、競合する機種同士が似通っていることと、複数の海外小売店のデータを含むことから、統計的に代表的なものと見なされています。
必要ゲインの分布は、どう示されたのか
この研究が生み出したのは、分布を示す図の集まりです。
よく使われるマイクについて、感度の確率分布を示した図と、市場区分で絞り込んだ図が得られました。
マイク位置での音圧レベルの分布は、利用者がその大きさに出会う確率を示します。
この分布と、あるマイクの既知の感度を組み合わせると、必要なゲインの範囲が分かるというわけです。
音圧レベルの分布と感度の分布を重ねることで、マイクプリアンプにどれだけのゲインが必要かという問いに、統計の手がかりを与えられます。
経験則に頼ったり、既存の製品を真似たりする代わりに、分布として答えられるようになった点が成果です。
この結果は、どこまで信用できるのか
著者自身が限界を明らかにしています。
ゲインのデータは、無作為抽出ではなく、手に入ったものを使う便宜的な標本です。
現在生産されるマイクの人気ランキングは、特定の小売店のもので、売上を正確に反映するとは限らず、調査時点の特売や販売促進策の影響を受けている可能性があります。
古典的な機種は、使用時の人気よりも入手のしやすさで販売が左右されるため、業界記事の検索件数で選ぶのは、理にかなった選び方であって、完全な標本ではありません。
言い換えれば、この研究が示す分布は、集められた範囲の実使用に基づく目安です。
扱われたのは、ライブ音響やスタジオ、クラシックのロケーション録音といった現場で、特定の小売店のランキングと特定の業界記事から推定された分布です。
それ以外の状況へそのまま延長できるとは限りません。
この研究は、ゲイン設計の中でどう位置づくのか
マイクプリアンプのゲイン幅は、これまで設計者の経験則や、既存製品の踏襲によって決められることの多い領域です。
この研究は、実使用のデータから分布を組み立て、必要なゲインを統計の形で示すという、別の筋道を提示しています。
とくに、音圧レベルとマイク感度の分布を重ねて考える枠組みは、設計の出発点を個々の勘から分布へ移す土台になります。
同時に、この研究は必要なゲインを特定の値に定めるものではありません。
示されたのは分布であり、どのマイクをどの現場で使うかによって、必要なゲインは分布のどこかに落ち着くという見方です。
設計者にとっては、ゲイン幅を決めるときの根拠として参照できる手がかりとして位置づけるのが穏当でしょう。
参考資料
原典の主張は、How much gain should a professional microphone preamplifier have? をご参照ください。

