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マイクを選ぶとき、コンデンサーにするかダイナミックにするか、指向性は無指向にするか単一指向にするか。
カタログの仕様を眺めても、どの型が自分の用途に合うのかはなかなか見えてきません。
この記事は、マイクの設計に含まれるトレードオフという観点から、型と指向性の選び分け方を答えます。
マイクに万能な一本はなぜないのか
マイクの設計では、ひとつの性能を上げると別の性能を犠牲にする、というトレードオフが常に働きます。
用途によって求める特性が異なるからです。
クラシック録音、ポップスの制作、スピーチの放送では、それぞれ適した周波数応答と指向性が違います。
あらゆる用途を満たす万能のマイクは、したがって存在しません。
選ぶ側は、このトレードオフを理解して初めて賢く選べます。
まず型を整理します。
コンデンサーマイクとは、導電性の振動板と、そのすぐ後ろに置かれた金属製のバックプレートがコンデンサを構成し、音波で静電容量が変わって電気信号を生む方式です。
ムービングコイルマイクとは、振動板に取り付けたコイルが磁界の中で動く動電型の方式で、音波で振動板が振れると電気信号を生みます。
ムービングコイルの帯域設計については「ムービングコイルマイクの帯域は筐体でどこまで伸ばせるか、その研究を読む(1953年)」で扱っています。
リボンマイクとは、薄い金属箔のリボンを磁界の中に張り、音波でリボンが振れて電気信号を生む方式です。
指向性とは、音の入射角度によってマイクの感度がどう変わるかを表す特性で、全方向を拾う無指向性、前方に感度を寄せる単一指向性、前後を拾う双指向性などがあります。
近接効果とは、単一指向性や双指向性のマイクを音源に近づけて使ったときに低音が持ち上がる現象です。
電源については、コンデンサーマイクにファンタム電源(直流電圧)が必要です。
マイク自身が生むヒスノイズは自己雑音と呼ばれます。
型と指向性の違いはどう確かめたのか
この研究は、実測を中心にするのではなく、設計の理屈から各方式の特性を比較する形を取ります。
まず動電型コイル、リボン、コンデンサーの各方式について動作原理を整理します。
そのうえで、コンデンサー、ムービングコイル、リボンを、過渡応答(音の急な変化への追従の速さ)、周波数応答、感度、大きさ、最大音圧レベル、自己雑音、電源の要否、頑丈さ、といった観点から比較します。
この比較は、どれか一つの性能を取れば別の性能が下がる、という設計上のトレードオフを浮かび上がらせるために行います。
比較の根拠には設計式を使います。
コンデンサーの出力、ダイナミック型の出力、ダイナミック型の自己雑音、指向性の応答を式で表し、そこから性能のトレードオフを説明します。
指向性については、無指向、カーディオイド、スーパーカーディオイド、ハイパーカーディオイド、双指向、ショットガンの各パターンについて、その作られ方と選び方の基準を検討します。
振動板の大きさについては、大口径と小口径のカプセルを、軸外での音色変化、周波数応答、感度、指向性の均一性の観点で比較します。
電源の要否も比較の一項目です。
コンデンサーマイクには、等しい抵抗を通してコネクタへ供給される直流電圧、ファンタム電源が必要です。
その電圧は 12〜48 V です。
この仕組みは「[ファンタム電源とは。
48Vを怖がらなくていい理由と、本当の注意点](https://kuon-rnd.com/journal/phantom-power-guide)」で詳しく扱っています。
型と指向性から何が読み取れるのか
型ごとの推奨は次のように整理できます。
コンデンサーマイクは、優れた過渡応答、伸びた高域、高い感度、広く滑らかな応答、小さな大きさが必要なときに選ばれます。
ムービングコイルは、多少遅い過渡応答でよい、コストが低い、高い頑丈さ、高い最大音圧レベル、低い自己雑音、熱や湿気への耐性、電源不要の信頼性が必要なときに選ばれます。
リボンは、暖かく滑らかな音が欲しいとき、たとえば近接マイキングした金管楽器の角を取るときに選ばれます。
感度の典型値も型ごとに異なります。
自己雑音は、動電型は能動回路を持たないため低く、コンデンサーでは仕様の良し悪しが数値で示されます。
極めて低い自己雑音のコンデンサーでは、A 特性で 14 dBA という値が示されます。
また、無重み付けの自己雑音として 16 dB SPL と計算される例も示されています。
指向性の選び分けは、無指向と指向性という対比で整理できます。
無指向性マイクは、全方向を拾い、近接効果がなく、コンデンサーでは低域が伸び、ポップノイズやハンドリングノイズへの感度が低く、一般にコストが低いです。
一方、指向性マイクは、残響や漏れ、背景雑音を抑え、トラックの分離と、フィードバックが起こる前のより高いゲインを提供し、近接効果によって近接時の低音の厚みが加わります。
振動板の大きさも音に影響します。
小口径カプセルは一般に、軸外での音色変化が少なく、大口径より均一な指向性を示します。
大口径カプセルは、11〜18 kHz の帯域で回折による可聴な高域ブーストを受けます。
低域については、無指向ダイナミックの振動板共振はおよそ 500〜1000 Hz、単一指向ではおよそ 150 Hz、無指向コンデンサーの振動板共振はおよそ 8〜10 kHz です。
小型の無指向コンデンサーの低域限界はおよそ 20 Hz です。
この研究の結論はどこまで当てはまるのか
この論文が並べた特性と選び方の基準は、あくまで一般的な傾向です。
コンデンサー、ムービングコイル、リボンの各型にも例外は存在します。
したがって、ここで示された推奨は確率的な見通しに基づくものです。
万能のマイクはない、という前提そのものも設計上の制約から来ます。
求める特性は互いに衝突するためです。
たとえば、ポップノイズを抑えるためにグリルを大きくすれば、マイク自体が大きくなりすぎます。
大口径の振動板は回折によって軸外の音色変化を招き、一方で振動板とバックプレートの間隔を小さくするのは製造が難しくコストがかかるため、設計者は妥協点を探ることになります。
この研究をどう受け止めるか
マイクの型と指向性の選び分けは、録音に携わる人が最初に直面する判断のひとつです。
この研究は、その判断を設計上のトレードオフという一貫した観点から整理している点で、分野の基礎的な理解を支える位置にあります。
型ごとの感度や自己雑音、指向性ごとの感度差といった物性を、用途の要求と照らし合わせる枠組みとして受け止めることができます。
同時に、この研究が示すのは、ひとつの性能を上げれば別の性能が下がるという、設計に内在する妥協の構造です。
万能の一本が存在しない理由を、振動板の大きさやポップノイズ対策のグリルといった具体に即して示している点が、選び方の土台として理解を支えます。
参考資料
Bruce Bartlett, "Choosing the Right Microphone by Understanding Design Tradeoffs", Journal of the Audio Engineering Society, Vol. 35, No. 11, 1987年。
原典の主張は、Choosing the Right Microphone by Understanding Design Tradeoffs をご参照ください。



