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AB方式は、2本のマイクを一定の間隔で離して平行に置き、空間ごと録るステレオ録音の方式です。
シンプルな構成でありながら、間隔の選び方で結果が大きく変わる手法であり、当サイトが推奨する録音方式です。
この記事では、AB方式の仕組み、間隔が結果に与える影響、そして実際に使うときの判断の枠組みを解説します。
AB方式で使える無指向性マイクはKuonが独自に制作していますので、ぜひ試聴してみてください。
AB方式とは
AB方式は、2本のマイクを平行に、一定の間隔だけ離して設置するステレオ録音の方式です。
スペースドペアとも呼ばれます。
同軸にマイクを重ねるXY方式やMS方式とは異なり、マイク間に距離があるため、左右のチャンネルに到達時間の差が生まれます。
この時間差が、聴いたときの広がりや空間感の主要な要素です。
ワンポイント録音が1組のマイクだけで全体を収めるのに対し、AB方式も2本という最小限の構成で空間を捉えます。
両者の考え方の違いについては、ワンポイント録音とは?
1組のマイクだけで全体を収める方法と原理も参考にしてください。
AB方式は、間隔が広いほど空間の広がりが大きくなります。
ただし間隔を広げすぎると、音源が中央に定位しにくくなることがあります。
目的に応じた間隔の調整が必要です。
なぜAB方式で広がりが生まれるのか
AB方式の広がりは、左右のマイクに音が到達する時間の差(到達時間差)によって生まれます。
片方のマイクにもう一方より遅れて音が届く。
この微小な時間差を、人間の耳は音の方向や空間の広がりとして知覚します。
人間の耳は左右に約17 cm離れています。
ORTF方式(間隔17 cm)はこの値を意識して設計されましたが、AB方式の間隔はこれを大きく超えます。
30 cm、場合によっては数メートルまで広げる。
なぜそれで自然に聴こえるのでしょうか。
鍵は波長です。
100 Hzの音の波長は約3.4 mあります。
この長さの波に対して、17 cmの間隔では到達時間差がごくわずかです。
間隔が30 cm、100 cmと広がるにつれて、低い周波数でも十分な時間差が生まれ、より豊かな空間情報が記録できるようになります。
これが、AB方式が低域まで自然な広がりを持つ理由です。
もう一つの理由は、無指向性マイクの特性です。
無指向性マイクは全方向から等しく音を拾い、近接効果が生じません。
指向性マイクのように特定の方向を強調しないため、会場の響きを素直に収められます。
指向性の違いが録音結果に与える影響については、無指向性と単一指向性の使い分け 録音で何が変わるのかで詳しく解説しています。
一方で、注意すべき現象もあります。
音源が2本のマイクの中央にあるとき、両方のマイクにほぼ同じ音が入りますが、距離が異なれば到達時間も異なります。
この2つの信号をモノラルに合成すると、コムフィルタと呼ばれる干渉が生じ、特定の周波数が打ち消されることがあります。
間隔が広いほどこの影響は出やすくなります。
実際にどう選び、どう使うか
AB方式を使うときの主な判断は、間隔をどう決めるかです。
唯一の正解はありません。
以下の条件が判断材料です。
音源の幅。
オーケストラのように横に広い音源には広めの間隔が向きます。
ソロ楽器や小編成では、狭めの間隔で十分な定位が得られます。
また、自然界の収録などでは、そのはばを数メートル取る監督もいるくらいです。
残響が豊かな会場では、間隔を広げると響きの広がりも強調されます。
過剰に感じるなら間隔を詰めます。
ただし、詰めれば詰めるで豊かさを失う恐れもあるわけです。
逆に、響きの少ない空間では広めの間隔が空間感を補います。
音源までの距離
音源から遠いほど、間隔による到達時間差は相対的に小さくなります。
距離がある場合は間隔を広げて、時間差を確保する必要が出てきます。
3対1の法則も目安になります。
2本のマイクを使うとき、マイク間の距離を、マイクから音源までの距離の3倍以上にするという考え方です。
この比率を保てば、漏れて入る音による干渉が抑えられます。
ただし目安であり、絶対の規則ではありません。
音源の指向性や部屋の響きで、必要な比率は変わります。
マイクの高さも重要な要素です。
やや上から見下ろすように設置すると、音源間の距離差が小さくなり、演奏者ごとのバランスが均一になりやすくなります。
直接音と会場の反射音の比率にも影響します。
中央が薄くなる現象への対処として、3本目のマイクを中央に置くデッカツリー方式があります。
マイクを増やすと位相の管理が複雑になるため、まずは2本の位置を調整してみます。
誤解しやすい点
AB方式は無指向性マイクでなければならない、というのは誤解です。
無指向性が代表的ですが、単一指向性を使うこともあります。
たとえば、会場の後方からのノイズを抑えたい場合や、近接効果を活かして低域を補いたい場合です。
指向性を選んだ場合は、近接効果による低域の変化や、角度による音色の違いも考慮する必要があります。
間隔が広いほど良い録音になる、というのも誤解です。
間隔が広がると左右の分離は強調されますが、中央の定位が曖昧になることがあります。
また、モノラル互換性も低下します。
どこかの時点でモノラル再生される可能性があるなら、間隔は控えめに選ぶのが賢明です。
コムフィルタは常に問題になる、という考え方も訂正が必要です。
コムフィルタは同じ音が時間差をもって2つの経路から到達するときに生じます。
AB方式では確かにモノラル合成時に現れますが、ステレオで聴いている限りは知覚されにくい現象です。
部屋の反射による自然な到達時間差と区別がつかないことも多く、録音の空間感の一部として機能している面もあります。
逆二乗の法則をそのまま当てはめられる、というのも注意が必要です。
自由音場では距離が2倍で約6 dB下がりますが、室内では反射音があるため、この通りには下がりません。
とくに臨界距離(直接音と残響音のレベルが等しくなる距離)を超えると、距離を変えてもレベルがほとんど変化しなくなります。
AB方式は音源からある程度の距離をとることが多いため、この特性を知っておくことは実用上重要です。
AB方式の空間表現力をさらに深く知りたい方は、[バイノーラルを超えて。
無指向性AB方式マイクの「立体的」な魔力と未来](https://kuon-rnd.com/journal/recording-technique-one-point)もご覧ください。
録音の方式に唯一の正解はありません。
AB方式の特徴を理解したうえで、会場と音源と目的に合わせて位置を調整することが大切です。
AB方式で録った音を、あなたはどんな空間として聴かせたいですか。
その空間を想像して、間隔を決めてみてください。

