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映画や没入型コンテンツのための背景環境音を、あとから Dolby Atmos で再生したときに立体的に包み込まれるように収録したい。
でも、マイクは何本、どう並べればいいのか。
Hanelt と Ehret(2017)は、4種のマイクロホンアレイを実制作で比較し、その答えを探りました。
今日は2017年の研究資料を解説していきます。
3Dアンビエンス録音の標準的手法は、なぜまだ確立されていなかったのか
3Dオーディオが没入型消費者体験の制作フォーマットとして台頭してきた一方で、3Dアンビエンス(背景環境音)を収録する標準的手法は確立されていませんでした。
映画ポストプロダクションでは、対話を妨げずに空間的包み込み感を提供する背景音が要求されます。
そのため、使用するマイクロホンアレイには、定位精度、空間的広がり、音色といった知覚特性が問われます。
加えて、実制作の現場では、機材のセットアップ速度やポストプロダクションでの扱いやすさも無視できない制約です。
Dolby Atmos は、オブジェクトベースオーディオを導入したイマーシブオーディオ制作用のシステムです。
オブジェクトベースオーディオとは、個々の音源を座標で配置し、再生側のスピーカーレイアウトに依存せずにレンダリングする方式です。
このシステムでは、7.1.2チャンネルのベッド(チャンネルベースの固定ミックス基盤)と、最大118個のオブジェクトが使われます。
7.1.2とは、7.1サラウンドに2つの高さチャンネルを加えたスピーカー構成を指します。
実制作のなかで、4種のマイクロホンアレイの性能をどう比較したのか
評価対象は、いずれも8チャンネル以下の4種のマイクロホンアレイです。
すべてのアレイに共通して使われるのがスーパーカーディオイドです。
スーパーカーディオイドとは、正面感度が高く、側面と背面の感度が抑えられた単一指向性マイク特性の一種です。
指向性の選び方が録音結果にどう影響するかは、無指向性と単一指向性の使い分け 録音で何が変わるのかでも詳しく扱っています。
ORTF-3Dは、8本のスーパーカーディオイドマイクで構成される3Dアンビエンス録音用のアレイです。
マイク間隔と角度は部位によって細かく定められています。
6+2アレイは、Williamsの提案に基づき、等間隔に並べた8本のスーパーカーディオイドに、上部へ2本を追加した構成です。
Triple M/Sは、Double M/Sに上方向の単一指向性マイクを追加した4チャンネルのアレイです。
ポストプロダクションで指向性を可変できる点が特徴で、セットアップが最も容易です。
OCT-3Dは、OCT Surround配置に上部2本を加えたアレイで、前方の音源に焦点を当てる設計です。
各アレイのステレオ録音角(SRA)が理論解析ツールで分析されました。
SRAとは、マイクペアによって音源がステレオ定位する録音角のことです。
ワンポイント録音とは?
1組のマイクだけで全体を収める方法と原理で扱っている基本的な考え方が、ここでは3Dアレイの空間カバレッジ解析に拡張されています。
Triple M/Sの側面方向では、Front-Top間とTop-Rear間のSRAがいずれも154度と算出されています。
この理論分析に加えて、実在の映画プロジェクトのためのアンビエンス収録が4回のセッションで実施されました。
フィールドレコーディングの知見が活きる場面です。
収録音源はDolby Atmos環境で再生され、知覚評価が行われました。
2つのシーンについて、各アレイ単独のミックスと、ORTF-3Dに追加のアンビエンスを加えたミックスが制作され、25秒の抜粋30試行による二者択一の聴取テストで比較されました。
この方法が選ばれた理由は、実世界の映画制作ワークフローにおける有用性と、ポストプロダクション環境での取り扱いを検証するためです。
聴取テストで最も高い評価を得たアレイはどれか
聴取テストでは6+2アレイが総合的な好みで最も高いスコアを得ました。
空間的広がり、均一な分布、全体的な品質、リアリズムのすべての評価軸で、他のアレイを上回っています。
ORTF-3Dは拡散性が高く、非常にアクティブなアンビエンスを背景に押し込む傾向がありました。
ただし、一部のシーンでは6+2よりも好まれています。
Triple M/Sは最も好まれなかったものの、4つのアレイのなかでセットアップが最も容易であるという実用面の利点があります。
ORTF-3Dに追加のアンビエンスを足した構成は、6+2と同等の総合的好みを得ました。
さらに空間的広がりと均一分布では、いずれのアレイ単独録音をも大きく上回る結果となっています。
OCT-3Dについては、本論文の結果部に個別の聴取評価は示されていません。
この研究の結果はどこまで一般化できるのか
著者自身が述べた限界は一点です。
音楽制作のユースケースに適したアレイの決定は、本論文の評価だけでは不十分であり、実際の制作を通じた分析が必要である、としています。
この研究の条件から自然に読み取れる適用範囲もあります。
本論文が扱ったのは映画ポストプロダクションのためのアンビエンス収録であり、Dolby Atmosの7.1.2ベッド環境での再生を前提としています。
また、評価対象は8チャンネル以下のスーパーカーディオイドを中心としたアレイに限られます。
したがって、ここで得られた知見は、同様の制作環境と機材構成を取る映画音響の場面に最も直接的に適用できるものです。
この研究をどう受け止めるか
この研究は、3Dアンビエンス録音という、当時まだ手法が確立されていなかった領域に、実制作に根ざした比較データを持ち込んだ点で意義があります。
理論解析(SRA)と聴取テストの両面からアレイを評価したことで、空間的特性の数値的な裏付けと、実際の制作者が感じる好みとを結びつけています。
6+2アレイが総合的に高い評価を得た一方で、シーンによってORTF-3Dが好まれる場合があること、そして追加アンビエンスの有無で結果が変わることも示されました。
このことは、単一の「最適解」を求めるよりも、制作の目的やシーンの特性に応じてアレイを選び、場合によっては複数の録音を重ねるという判断の枠組みを、この研究が提供していると受け止められます。
参考資料
Ambience recording for 3D audio
Marco Hanelt, Andreas Ehret
2017年
AES Convention 142, e-Brief 312
原典の主張は、Ambience recording for 3D audio をご参照ください。

