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VRや全方位映像の広がりで、立体音響の需要が高まっています。
多数のマイクとスピーカーを研究設備として組むには、球面上の配置をどう決めればよいのか。
金子ら(2018)は64チャンネル球面マイクと122チャンネルスピーカーアレイを作り、フィボナッチ螺旋の配置が直交性誤差を抑えることを示しました。
立体音響の研究に足りなかったものは何か
VRや全方位映像の撮影・再生が注目されるにつれ、映像に合わせる立体音響への需要が生まれています。
音響技術の側には、高い精度で立体音場を録り、再生する技術が求められています。
波面合成やアンビソニックスといった手法はすでに製品化されていますが、その普及はまだ限られています。
金子ら(2018)は、こうした研究を支える設備そのものを開発し、その性質を調べました。
この研究の中心にあるのは高次アンビソニックス(HOA)です。
高次アンビソニックスとは、音場を球面調和関数で表し、その係数を記録・再生する手法です。
次数を上げるほど空間の表現が細かくなります。
録る側の設備が ViReal Mic です。
ViReal Mic とは、剛体の球の表面にカプセルを並べた64チャンネルの球面マイクロホンアレイです。
カプセルの位置は球面フィボナッチ螺旋によって決められています。
球面フィボナッチ螺旋とは、球面上に点を黄金角の間隔で螺旋状に並べていく配置の仕方です。
ほぼ等密度の点配置が得られ、点の数を自由に選べることが経験的に知られています。
別の候補が正多面体派生配置です。
正多面体派生配置とは、正多面体や準正多面体、測地線ドームをもとにしたマイク配置です。
点の数が飛び飛びにしか選べないという制約があります。
この研究で比較に使うのは、60個のカプセルを並べた切頂二十面体(頂点を切り落とした正二十面体の形)です。
再生する側が ViReal Dome です。
専用に設計したアクティブスピーカーを多数並べた122チャンネルのスピーカーアレイで、立体音場の再現に使います。
マイクの音響設計を研究として読むという点では、ムービングコイルマイクの帯域は筐体でどこまで伸ばせるか、その研究を読む(1953年) も、単一のカプセルの帯域設計を扱っています。
球面上の配置の良し悪しをどう測ったのか
金子ら(2018)はまず、録る側の ViReal Mic を開発しました。
カプセルの位置に球面フィボナッチ螺旋を選んだのは、ほぼ等密度の点配置が得られること、カプセルの数を自由に選べること、最適化の手続きが要らないこと、これらが理由です。
正多面体をもとにした配置や最適化に基づく配置では、こうした柔軟さが得られません。
次に、この配置が幾何学的にどれほど良いかを、切頂二十面体の配置と比べました。
比較には60個のカプセルを使い、10次までの直交性誤差行列を調べ、その成分の最大値(最大直交性誤差)を比べています。
直交性誤差行列とは、マイクの位置で標本化した球面調和関数が正規直交性からどれだけずれているかを数値化した行列です。
このずれが小さいほど、配置は球面調和関数による表現に適しています。
音響的な性質は数値シミュレーションで確かめました。
122チャンネルの測地線ドーム型スピーカーアレイで高次アンビソニックスの音場再現を模擬し、試験音源は半径3 mの球面上の256の位置に置きました。
マイクロホンアレイの半径は0.05 m、アンビソニックスの次数は4です。
実際の再生設備として ViReal Dome を建設しました。
多数のアクティブスピーカーを測地線ドーム状に配置したもので、部屋は八角柱の形で、垂直な壁が作る円の直径は6.3 m、天井の高さは3.8 mです。
残響時間は中心周波数500 Hzの帯域で0.2秒でした。
スピーカーは辺の長さ20.5 cmの立方体に収まり、ウーファーは口径16.5 cm、ツイーターは口径2.5 cm、クロスオーバー周波数は2 kHzです。
16台の制御ユニット(URMA)で駆動し、各URMAは最大8個のスピーカーユニットを動かします。
ViReal Mic の音声出力と ViReal Dome の制御・音声信号は、ネットワーク音声の規格である Dante を通じ、単一のLANケーブルで接続されています。
64チャンネルの出力は、フィールド録音にはノートパソコンだけで扱える構成です。
実際に、金管楽団、伝統音楽、機関車、飛んでいるドローン、会話する人々をフィールドで収録し、高次アンビソニックスの信号処理で再生する試みも行われました。
フィボナッチ螺旋は直交性誤差をどう変えたのか
60個のカプセルでの比較では、フィボナッチ螺旋の配列は切頂二十面体の配列よりも最大直交性誤差が小さく、誤差は複数の係数に分散していました。
多くの配置と次数においても、フィボナッチ螺旋の配列は、同じ数のマイクを持つ正多面体派生の配列よりも最大直交性誤差が小さくなりました。
高次アンビソニックスのシミュレーションでは、切頂二十面体の配列には、再現信号のスペクトルが音源方向に大きく依存する周波数が現れ、その最大分散はフィボナッチ螺旋の配列よりも大きくなりました。
ViReal Dome は測地線ドームとして建設され、122チャンネルのスピーカーを備えます。
そのうち91個は半径2.5 mの球形の鉄骨フレームに取り付けられ、残る31個は床面の交点上に配置されています。
122チャンネルは出力レベルと遅延が校正され、およそ半径2.25 mの球面上に取り付けたかのように使えるようになっています。
金管楽団、伝統音楽、機関車、飛んでいるドローン、人々の会話を立体音場として収録・再生する試みは好評でした。
ただし、厳密で詳細な評価は今後の課題として残されています。
この設備の限界はどこにあるのか
著者自身が限界として挙げている点は次の通りです。
まず、残る31個のスピーカーは本来、床面より下に置くべきでしたが、床下のスペースが足りず、その配置は実現できませんでした。
次に、再生の試みは好評ではあるものの、厳密で詳細な評価はまだ行われていません。
さらに、客観的かつ定量的な評価は進行中で、その結果はこの論文には含まれていません。
この研究をどう受け止めるか
この研究が示したのは、立体音場を録り、再生する研究施設を、実際に組み立てられる形で提示したことです。
とりわけ、球面上のマイク配置としてフィボナッチ螺旋を選び、その幾何学的な良さを直交性誤差という指標で数値化した点は、配置を選ぶための根拠をこの分野に与えます。
一方で、著者自身が述べるように、再生の質の定量的な評価や、人による聴取の検証はこれからの課題です。
この論文は設備の性質を記述した段階にあり、評価の枠組みが整って初めて、この施設が立体音響研究の共通の土台として機能する位置づけが確かになります。
参考資料
原典の主張は、Development of a 64-channel spherical microphone array and a 122-channel loudspeaker array system for 3D sound field capturing and reproduction technology research をご参照ください。

