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音響工学 · 2026.08.27

1988年|小型エレクトレットコンデンサマイクはどう作るか

マイクを小型化するには、素子だけでなく筐体と組み立ての手順まで設計し直す必要があります。TO 18類似のステンレス筐体にスタック構造とバックエレクトレット方式を組み合わせ、大型マイクと同等以上の特性を持つ小型マイクの設計を示します。

目次

マイクを小さくしたい。

しかし音を拾う部分だけ縮めても、筐体の強度、音の入り口の構造、量産時の組み立てやすさまで、一から設計し直すことになります。

小さなマイクに従来の大きなマイクと同じ音を求めるなら、何をどの順番で積み、何をどう固定するかが決め手です。

本稿が取り上げる報告は、トランジスタ用に実績のある筐体を模した小型エレクトレットコンデンサマイクロホンに、部品を順に積み重ねる組み立て方を組み合わせることで、従来の大型マイクロホンと同等以上の特性を持つ小型マイクロホンを構成できることを示しています。

なぜマイクの小型化は難しかったのか

集積回路やチップ技術によって電子部品が小型化するなかで、エネルギー変換を担うセンサやアクチュエータにも、小型化と高信頼化、取り扱いの容易さが求められるようになりました。

マイクロホンはそのセンサのひとつです。

しかしマイクロホンを小型化するには、音を拾う素子を縮めるだけでは足りません。

新たな筐体を用意し、機械的な堅牢さを保ち、自動実装に対応させることが必要になります。

しかも小型マイクロホンには、従来品と同等以上の音響性能が期待されます。

このため、トランスデューサの機械設計そのものが重要になりました。

マイクの筐体という機械的な作りが音に与える影響は、ムービングコイルマイクの帯域は筐体でどこまで伸ばせるか、その研究を読む(1953年)でも扱われています。

Hilbich(1988)が本報告で取り組んだのは、この機械設計を具体的な構造として示すことです。

その構造を理解するために、いくつかの用語を整理しておきます。

まず組み立て方です。

スタック構造とは、基本部品から始めて、他の部品を順に重ねて組み立てていく構造方式です。

この報告のマイクロホンは、この方式で組み立てられます。

次に筐体です。

TO 18筐体とは、トランジスタ用として実績のある筐体のことです。

ただし標準品は機械的堅牢性の仕様を満たさないため、この報告ではステンレス鋼製の類似筐体を新たに用意して使います。

そしてエレクトレットの置き方です。

エレクトレット膜は分極電圧(エレクトレット電圧)を蓄えた膜で、コンデンサマイクロホンの電荷の供給源になります。

バックエレクトレット方式とは、このエレクトレット膜を背極(穴の開けられた固定電極)に取り付ける方式です。

膜エレクトレット方式とは、エレクトレット膜が振動膜を兼ねる方式です。

バックエレクトレット方式は膜エレクトレット方式より機械振動に鈍感で、膜材料を自由に選べます。

この報告は、そのバックエレクトレット方式を選びました。

最後に音響特性を左右する値です。

システム共振周波数とは、膜共振と膜-背極間空気の音響スティフネスから決まる共振周波数です。

距離リング(膜と背極の間隔を決めるリング)の厚さと背極の透過によって調整され、周波数応答の平坦さを左右します。

小さく丈夫なマイクはどう組み立てるのか

設計の中心は、筐体と、その中に部品を積み重ねる順番にあります。

筐体には、TO 18筐体に類似したステンレス鋼製のものを用いました。

直径は4.75 mm、長さは4.2 mmです。

TO 18は電子部品として実績のある筐体ですが、標準品では機械的堅牢性の仕様を満たしません。

そこで、形は似せながらも素材をステンレス鋼にした筐体を新たに開発しました。

音の入り口にあたる部分はかしめて固定します。

かしめによって、筐体としての強度と、膜リングを平面に支えることを同時に確保します。

組み立てにはスタック構造を使います。

膜、距離リング、背極、バックエレクトレット膜、絶縁体(背極を筐体から絶縁する部品)、トランジスタベース(FETを取り付ける台)、FET(電界効果トランジスタ)を、この順に積み重ねていきます。

FETの接続は溶接で行います。

基本部品から順に積み上げていく方式を選んだのは、そのまま組み立ての工程として成立するからです。

トランジスタベースを使うのは、取り扱いと自動実装が容易になるためです。

この報告でバックエレクトレット方式を選んだ理由も、機械的な性質にあります。

エレクトレット膜を背極に付ける方式は、膜エレクトレット方式より機械振動に鈍感です。

さらに膜材料を自由に選べるため、軽量な膜による低質量化と、機械振動への低感度化が可能になります。

こうして組み立てたマイクロホンについて、周波数応答、AF出力電圧、SN比、A特性等価雑音レベル、動作電圧範囲、消費電流を記述し、あわせて外部動作抵抗(マイク外部に接続する抵抗)の選定条件を整理しました。

機械的堅牢性の例としては、クリップオンマイクとして使うために、プラスチック射出成形による封入に耐えることを示しています。

できたマイクはどれほどの性能か

ステンレス鋼製のTO 18類似筐体に、かしめ加工とスタック構造を組み合わせることで、小型のエレクトレットコンデンサマイクロホンが構成できました。

バックエレクトレット方式の採用により、膜材料の選択の自由度が高く、軽量膜による低質量と、機械振動への低感度化が可能になっています。

周波数応答は、通常のオーディオ録音に必要な範囲より広く平坦で、直線性歪みは非常に小さいことが分かりました。

主な仕様を表にまとめます。

小型エレクトレットコンデンサマイクロホンの主な仕様
項目単位
筐体直径4.75mm
筐体長4.2mm
AF出力電圧10mV/Pa
SN比(DIN仕様)56dB
A特性等価雑音レベル25dB
動作電圧(最小)0.9V
動作電圧(最大)15V
消費電流(最小)40µA
消費電流(最大)300µA

AF出力電圧は10 mV/Paで、高品質ダイナミックスタジオマイクロホンより約20 dB高い値です。

SN比はDIN仕様に従って約56 dB、A特性等価雑音レベルは約25 dBでした。

動作電圧範囲は0.9 Vから15 Vまで、消費電流は使用するFETに依存して40 µAから300 µAの範囲です。

なお、外部には動作抵抗RとコンデンサCが必要です。

動作抵抗Rは1%高調波歪みとなる最大音圧レベルを決めるため、筐体には内蔵せず、使用電圧に応じて選択します。

プラスチック射出成形によるクリップオンマイクの封入に耐えることで、機械的堅牢性も示しました。

この報告の射程はどこまでか

著者自身が述べている限界があります。

この報告は主にマイクロホン部品の機械的組立と機械的要件について述べたものであり、電気音響設計の詳細な解析を扱っているわけではありません。

つまり、周波数応答やSN比、雑音レベルといった音響特性は、組み立てた実機について記述された結果であり、電気音響設計の解析から導かれたものではないという位置づけです。

ここから読み取れる適用範囲は、次のとおりです。

対象は、この報告が示した特定の構成、すなわちステンレス鋼製のTO 18類似筐体にスタック構造で組み立てた小型エレクトレットコンデンサマイクロホンです。

得られた特性は、この構成とこの報告の条件のもとで記述された値です。

また、扱われているのは機械的な組み立てと堅牢性が中心で、電気音響設計の詳細は含まれていません。

動作電圧や消費電流は使用するFETに依存すると述べられており、それらはこの報告の条件のもとでの範囲です。

この報告は分野のどこに位置するか

集積回路やチップ技術が電子部品を小型化する流れのなかで、エネルギー変換を担うセンサやアクチュエータにも小型化が及ぶ局面を、この報告は示しています。

マイクロホンを例にとれば、小型化の難しさは素子そのものより、それを支える筐体と、組み立ての手順にあることが分かります。

実績のあるTO 18筐体を手本にしつつ、素材を変えて堅牢性を満たし、部品を順に積み重ねるスタック構造を採ります。

そうした機械設計の積み重ねによって、小型化と音響性能の両立が目指されています。

この報告が示したのは、小型マイクロホンの成立にとって機械設計が重要な役割を担うという点です。

筐体の素材とかしめ、部品を積む順番、エレクトレット膜を背極に付ける方式の選択には、堅牢性や自動実装、機械振動への鈍感さといった明確な理由があります。

その結果として、従来の大型マイクロホンと同等以上の特性が報告されています。

小型マイクロホンを考えるうえで、素子の性能だけでなく、機械的な作りそのものが音響特性に結びつくことを示した報告として位置づけられます。

参考資料

原典の主張は、DESIGN OF ELECTRET-CONDENSER-MICROPHONES をご参照ください。

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