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コンデンサーマイクの音は好きでも、その後ろに電源ユニットや専用ケーブルが付いて回る重さが気になったことはないでしょうか。
この方式は長らく、動作に嵩張る電子回路を必要としてきました。
では、真空管の代わりにFETという半導体を使い、電源を電池に置き換えた小さな自己完結型にはできないのか。
そのとき、どんな筐体と回路を選べば実用的になり、FETは何を基準に選び、雑音はどう評価されるのか。
James J. Noble(1967)はこの設計を実際に進め、FET式は真空管式と同等の雑音に収まる一方、個体のばらつきが大きく選別が必要だと示しました。
コンデンサーマイクはなぜ大きな回路を必要としたのか
コンデンサーマイクロホンとは、音波によって容量が変化する仕組みで音を拾うマイクロホンです。
この論文では、小型のカプセルを中心に据えたシステムを指します。
この方式はプロ用途で好まれてきましたが、動作させるには嵩張る電子回路が欠かせませんでした。
まず小型の真空管式システムが登場し、その後も小型化とケーブルの削減が進められました。
たとえばM11は幅0.6 in.、高さ0.4 in.で、ケーブルは13導体でした。
その後のLIPSTIKはベース径0.625 in.で、ケーブルは6導体まで減りました。
カプセルの小型化も進み、直径1.6 in.の小型カプセルが使われています。
とはいえ真空管を使う限り、カプセルに分極電圧(カプセルに印加する直流電圧)を供給し、出力を扱う回路と、それらを繋ぐ多芯ケーブルが残り続けました。
Model 29の単一指向性カプセルには60 Vの分極電圧が必要でした。
そこで期待されたのが、エレクトレットとFETの組み合わせです。
エレクトレットとは、永久に分極した薄膜のことです。
直流のバイアス源を不要にする狙いで検討されました。
FET(電界効果トランジスタ)とは、マイクロホンのインピーダンス変換に用いる半導体素子です。
この二つを使えば、電池だけで動く自己完結型に近づきます。
計画された筐体は直径0.750 in.、長さ3.5 in.でした。
しかしエレクトレットは製造の再現性が不十分で、この案は断念されました。
現実的なFETシステムをどう設計するかが、残された課題になったのです。
なお、マイクロホン自体の設計研究については、ムービングコイルマイクの帯域は筐体でどこまで伸ばせるか、その研究を読む(1953年)という解説もあります。
小型化とFETの選び方はどう確かめられたのか
研究は設計の変遷を記述するところから始まります。
初期の真空管式小型システムから、エレクトレット案、DC-DCコンバータ(電池の電圧から分極電圧を作る回路)の試作を経て、最終設計である195Aベースと540A/539A電源に至る道筋が示されました。
最終設計の回路は、28A(無指向性)と29B(単一指向性)のカプセルを使い、FETのソースフォロワを中心に、100メグオームの分極抵抗と出力トランスを組み合わせたものです。
ソースフォロワとは、FETの回路形式のひとつです。
入力容量が最小になり、電圧増幅を伴わないインピーダンス変換だけを行います。
電圧増幅ではなくインピーダンス変換だけが必要だったために、この形式が採用されました。
FETの選択では、実際の回路に組み込んで試すのではなく、雑音電圧と雑音電流のデータから雑音指数を算出する方法が採られました。
雑音指数とは、特定の信号源抵抗に対する増幅器の雑音劣化の指標です。
この方法なら、任意の信号源抵抗について雑音指数を求められ、最適信号源抵抗Rg(opt)(雑音指数が最良となる信号源抵抗)をマイクロホン側のインピーダンスと比べられます。
入力容量も選定の要因でした。
入力容量が加わると感度が下がるためです。
たとえばAltec 21Dは5.5 pFのカプセルで、5.5 pFの入力容量が加わると6 dBの感度低下になりました。
一方、多くのマイクロホンは60から70 pF、29Bは29 pFでした。
最終設計は、電池で動く自己完結型としてまとめられました。
FETのドレイン電流は0.5 mAに設定され、8.4 Vの水銀電池がこれを供給します。
分極には63 Vの電池を使い、こちらは電流を流しません。
ソースフォロワの出力インピーダンスは1,000オームでした。
出力はライン整合トランスで受け、1次側11,000オーム、2次側150オームで外部に繋がれます。
マイクロホンとしての感度は-53 dBm re 10 dynes/cm²でした。
電池寿命は、毎日7時間の使用を前提に2,500時間と見積もられています。
評価は無響室で行われました。
カプセルの自由音場周波数応答を測定し、真空管ベースとFETベースの等価入力雑音(音響応答を補正した入力換算雑音)を周波数ごとに比較しました。
さらに、無響室内でマイクロホンを並べ、校正済みの減衰器と切替器を用いた聴感比較で、相対的な雑音レベルを求めています。
FET式と真空管式の雑音はどう違うのか
無響室での測定から、カーディオイド(M30/29B)と無指向性(M52/28A)のカプセルそれぞれの自由音場周波数応答が示されました。
応答はカプセルに依存するため、29Bを真空管ベース(165A)に装着しても同じ周波数応答が得られます。
29Bを用いて真空管式とFET式の等価入力雑音を周波数ごとに比較したところ、聴感評価を裏付ける結果になりました。
聴感評価では、両方式の音色は異なりませんでした。
FETは低周波の雑音が少ない一方、より煩わしい高周波数成分でバランスされる傾向がありました。
プロットされた個体では、FETのほうが約2 dB雑音が多いと評価されることが最も多くなっています。
一方、真空管式は管ごとに非常に一貫しているのに対し、半導体はばらつきが大きいことが分かりました。
多くのFETは過剰な1/f雑音(低周波で過剰になる雑音)や、高周波数で現れるチャネル雑音のために不合格になり、満足できる個体の選別が必要でした。
DC-DCコンバータの試作では、電池の持ちが問題になりました。
どちらも電池交換や充電の頻度が高く、実用には向かないと判断されました。
この設計はどこまで言えるのか
著者自身が限界を明確に述べています。
FETはコンデンサーマイクロホン方式の万能薬ではありません。
実用上は真空管と同等の雑音ですが、雑音で真空管を凌駕しているわけではない、とされています。
多くのFETは過剰な1/f雑音のために不合格となり、一部は高周波数で現れるチャネル雑音のため不合格になりました。
半導体は真空管より特性のばらつきが大きく、満足できる個体の選別が必要です。
FETの究極的な性能はまだ達成されておらず、1/f雑音など現行デバイスの限界は今後の研究に委ねられています。
DC-DCコンバータの試作も、スイッチングスパイクが雑音を増やし、回路基板の組立に拡大が必要で、設計はまだ理想的ではありませんでした。
この研究をどう受け止めるか
この論文が位置づけられるのは、コンデンサーマイクロホンの設計が真空管から半導体へ移ろうとしていた時期です。
小型の真空管式システムが登場したあと、エレクトレット案は製造の再現性で断念され、FETによる現実的な設計が課題として残されていました。
この研究は、その課題に具体的な回路と選定の手順で答えたものとして読めます。
特徴的なのは、結論が抑制されていることです。
FET式は実用上は真空管式と同等の雑音であり、雑音で上回るわけではない。
この留保は、半導体への置き換えが音質の向上を意味するわけではないことを、正直に記録したものです。
小型化と自己完結化という実用上の利点と、個体の選別という手間を、同じ設計の両面として示しています。
参考資料
原典の主張は、Design Evolution of a FET Condenser Microphone System をご参照ください。

