空音開発Kuon R&D
部屋と音響 · 2026.08.22

デッドニングは、三つの別の仕事です。止める、吸う、遮る

デッドニングという一語が、目的も素材も貼る場所も違う三つの仕事をまとめて指しています。止めるのは鉄板の振動、吸うのは内側の反射、遮るのは外から入る音。混ざったまま材料を買うと失敗します。水の処理まで書きました。

目次

デッドニングという言葉は、ひとつの作業を指しているように聞こえます。
実際には、目的も素材も貼る場所も違う三つの仕事が、この一語にまとめられています。

止めること。
吸うこと。
遮ること。

この三つが頭の中で混ざったまま材料を買うと、思ったのと違う結果になります。
実際、現場では取り付け直しになった例が報告されています。
この記事では三つを分けて、どれをどこに使うのかを整理します。

止める。
制振材の仕事

制振材は、貼った相手の振動を抑える材料です。
ゴム系の粘着層に金属の薄い層を重ねたものが多く、鉄板に密着させて使います。

車のドアの外側の鉄板は薄く、スピーカーが動くとその反作用で一緒に震えます。
震えた鉄板は音を出します。
それは音楽の一部ではなく、鉄板の音です。
低い音がぼやける、輪郭が出ない、という症状の多くはここから来ます。

だから制振材は、スピーカーの後ろにあたる外側の鉄板に、平らで広い面を中心に貼ります。
全面を埋める必要はありません。
振動しやすい面から始めるのが基本です。

貼るときの条件は二つあります。
ひとつは脱脂。
油分や汚れが残っていると粘着力が落ちます。
もうひとつは圧着。
ローラーで強く押さえ、端と角が浮かないようにします。
粘着層は温度で硬さが変わるので、気温の低い日は温めてから貼ると密着します。
端が浮いたままだと、あとで水が入ります。

吸う。
吸音材の仕事

吸音材は、材料の内部に音を導いて熱に変えてしまう材料です。
多くは空気を通します。
ウレタンの発泡体やフェルト状のものが使われます。

役目は、内側の空間で音が反射して重なるのを減らすことです。
ドアの内張りの裏には空洞があり、そこで音が跳ね返ります。
跳ね返った音が遅れて出てくると、輪郭が濁ります。

密度が肝心です。
すかすかだと音が素通りして効きません。
逆に詰まりすぎると、吸うのではなく反射する側に回ります。
そして車のドアは水が入る場所なので、濡れても機能が落ちない材料を選ぶ必要があります。

遮る。
遮音材の仕事

遮音材は、表面で音を跳ね返して通さない材料です。
空気を通しません。
効き目は主に重さで決まります。
ゴムや樹脂の重いシートが使われます。

車で効くのは、外から入ってくる音を減らしたい場所です。
床がその代表で、走行中にタイヤと路面から上がってくる音を減らせます。
制振材で振動を止めたうえに重い遮音材を重ねる、という重ね方が一般的です。

ただし重い。
面積を広げれば車が重くなり、燃費にも効きます。
どこに何平方メートル入れるかは、得られるものと引き換えに何を差し出すかの判断になります。

三つの材料
種類何をするか空気を通すか主に貼る場所
制振材貼った相手の振動を止める通さないドアの外側の鉄板
吸音材内部で音を熱に変える通す内張りの裏・空洞のある側
遮音材表面で跳ね返して通さない通さない床・外から音が入る面

重ねる順番

外から入る音を減らしたいときの重ね方には、定石があります。
外側から順に、制振材、吸音材、遮音材、吸音材、そして車内側です。

理屈はこうです。
まず制振材で面の振動そのものを止めます。
次の吸音材で、反射して残った音を減らします。
そこを抜けてきた音を遮音材で止めます。
遮音材は跳ね返すので、その内側にもう一枚吸音材を置いて、跳ね返った音を処理します。

すべての場所でこの五層をやる必要はありません。
順番の意味が分かっていれば、どこを省いても何を失うかが読めます。

現場で起きている失敗

三つの区別がつかないまま作業すると、次のようなことが起こります。

一つめは、吸いすぎです。
内張りの裏にスポンジを大量に貼り、高い音まで吸ってしまって、こもった音になる。
しかも肝心の制振材はほとんど貼られておらず、鉄板の振動は止まっていない。
実際にこの状態で持ち込まれ、やり直した例が報告されています。
吸音材は反射を減らす材料であって、鉄板の振動を止める材料ではありません。
役割が違います。

二つめは、穴をふさいだ材料そのものを鳴らして低音を出そうとする作り方です。
ふさいだ面が共振して量感が出たように聞こえますが、それは特定の周波数に山を作っているだけで、車のドアの寸法しだいで出たり出なかったりします。
締まった低音にはなりません。

三つめは、貼りすぎです。
制振材は重い材料です。
ドア全面に厚く貼れば、ドアの蝶番に負担がかかり、開け閉めが重くなります。
必要な場所に必要な量、という判断がそのまま結果に出ます。

水の話を外さないでください

ここは音の話ではありませんが、いちばん取り返しがつかない部分です。

車のドアは、雨水が中に入ることを前提に設計されています。
入った水は下の穴から抜けます。
もともと貼ってある防水のビニールは、水を内張り側へ行かせないための壁です。

制振材を貼るために、この防水のビニールを剥がすことになります。
作業が終わったら、必ず元の機能を回復させてください。
ビニールを戻すか、制振材でふさいだ面がその役目を兼ねるように端まできっちり圧着するか、どちらかです。
端が浮いていると、そこから水が内張り側へ回ります。
その先にあるのは、かびと錆です。

そして、下の水抜きの穴はふさがないでください。
ここだけは例外を作らないでください。
吸音材で大きな穴をふさぐ作業のときに、いちばん間違えやすい場所です。

どこまで貼るか。
目安は割れています

制振材をドアの何割に貼るべきか。
ここは、書いている人によって答えが違います。

平らで広い面から始めて三割から五割ほど、という目安を出している例があります。
一方で、七割ほど貼れば低音の量感とびびりが解消する、という目安を出している例もあります。

どちらが正しいという話ではありません。
ドアの構造も、鉄板の厚みも、入れるスピーカーも違うからです。
ここで効いてくるのが、測ることです。
貼る前と貼ったあとで同じ位置を測れば、自分の車で何割が効いたのかが分かります。
人の目安を借りるより、自分の車の数字のほうが確かです。

部屋の音響と、同じ話です

録音の現場でも、この三つは別々に扱われます。
壁を止めるのか、反射を吸うのか、隣の部屋から来る音を遮るのか。
目的が違えば、使う材料も置く場所も変わります。

そして録音の現場でいちばん多い失敗も、車と同じです。
吸いすぎることです。
吸音材を敷き詰めた部屋は、高い音だけが先に吸われ、低い音が残り、こもった響きになります。
全部を吸えば良くなる、という材料ではありません。

車の中は部屋より狭く、面が近く、材料を入れられる場所が限られています。
だからこそ、どの仕事をどこでやるのかを分けて考える価値があります。

よくある質問

制振材と吸音材、どちらか一つならどちらですか。

制振材です。鉄板の振動を止めることが、音の輪郭に直接効きます。吸音材はその次に、内張りの裏の反射を整える材料として足していくのが自然な順番です。

全部のドアをやる必要はありますか。

まずは前の二枚からで十分です。運転席と助手席のドアが、聴く位置にいちばん近く、スピーカーも入っています。後ろのドアや床は、そのあとで判断してください。

ロードノイズを減らしたいのですが、ドアをやれば効きますか。

ドアからも入ってきますが、走行中の音の多くは床とタイヤハウスから来ます。目的が音楽ではなく走行中の音を減らすことなら、床への施工のほうが効きます。ただし遮音材は重いので、入れる面積は考えて決めてください。

施工したのに、あまり変わりません。

三つの可能性があります。制振材の端が浮いていて密着していない。貼った場所が振動していない面だった。あるいは、そもそもの症状の原因が鉄板の振動ではなかった。三つめを見分けるには、施工の前に測っておく必要があります。

どのくらい重くなりますか。

貼る面積と材料の厚みで大きく変わります。ドアの開け閉めが明らかに重くなったと感じたら、貼りすぎの合図です。蝶番に負担がかかっている状態なので、面積を見直してください。

まとめ

デッドニングという一語は、三つの別の仕事をまとめて呼んでいます。
止める、吸う、遮る。
それぞれ材料が違い、貼る場所が違い、効く症状が違います。

止めるのは鉄板の振動。
吸うのは内側の反射。
遮るのは外から入る音。
この三つを分けて考えれば、何を買うべきかが決まります。

そして水の処理を外さないでください。
音は貼り直せますが、錆は戻せません。

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ドアを箱として整えるという話は、車種専用のカースピーカーは、何が違うのか に続きます。
測り方の手順は カーオーディオの音質を、測って確かめる にあります。

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