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音響工学 · 2026.08.22

電気自動車で音楽を聴く。発電機がない車の電源の話

電気で走る車には発電機がありません。回転数に連動する雑音は出ない代わりに、動力の制御装置と電圧変換器という新しい発生源があります。12 ボルトに供給できる電力の上限と、バッテリーに手を出してはいけない理由まで。

目次

電気で走る車は、音楽を聴く場所としてどうなのか。
結論から書くと、良くなった点と、新しく気をつける点の両方があります。

そして電源の作られ方が根本から違うので、これまでの常識がそのまま通じない部分があります。

発電機がありません

エンジンで走る車には、回転で電気を作る発電機が付いています。
作られるのは交流で、それを整えて直流にして使います。
整えたあとも波が残るため、この波がオーディオに混じることがあります。
回転数を上げると音の高さが変わる、あの雑音です。

電気で走る車には、この発電機がありません。

代わりに何があるか。
駆動用の高い電圧のバッテリーがあり、そこから電圧を下げる変換器を通して 12 ボルトの系統に電気を送っています。
車のオーディオも、ライトも、制御装置も、この 12 ボルトの側につながっています。
12 ボルトのバッテリーも従来どおり積まれていて、変換器がそれを充電しながら、電装品にも供給しています。

だから、回転数に連動する雑音は原理的に出ません。
切り分けの表から、いちばん強い判断材料が一つ消えるということです。
雑音の切り分け方は 回転数に連動しますか に書きましたが、電気で走る車では、その最初の質問が使えません。

代わりに、別の音が来ます

発電機が消えた代わりに、新しい発生源が二つ増えました。

一つは、駆動用の変換装置です。
高い電圧の直流を交流に変えて動力へ送る装置が、高い周波数を出します。
加速したときに聞こえる高い音は、ここから来ています。

もう一つは、12 ボルトを作っている変換器そのものです。
電圧を下げるために非常に速い周期で入切を繰り返しており、その周期に由来する成分が電気の側に残ります。

どちらも、エンジンの回転とは連動しません。
速度や、そのときに使っている電力と関係することがあります。
だから雑音を切り分けるときは、回転数ではなく、加速しているか、充電しているか、空調を強く使っているか、といった条件で試すことになります。

エンジンの音が消えると、下の音が見えます

走行中の音が減ることは、音楽を聴くうえで明らかに有利です。
同じ音量でも、細かいところまで聴き取れます。
音量を上げずに済むぶん、耳も疲れません。

ただし、良いことばかりではありません。
これまでエンジンの音に覆い隠されていた、小さな音が前に出てきます。
タイヤと路面の音、風の音、内装のきしみ。
車を作る側では、この変化に合わせた対策が新しい課題として扱われるようになっています。

音楽を聴く側にとっても、同じことが起きます。
エンジンの音がなくなると、床から上がってくる音が相対的に大きく感じられます。
だから電気で走る車では、床への対策が効きます。
制振材で面の振動を止め、その上に重い材料を重ねる。
材料の使い分けは デッドニングは、三つの別の仕事です に書きました。

増幅の機器を足すときの、電力の上限

ここが、電気で走る車に特有の、いちばん実務的な注意点です。

12 ボルトの系統に供給できる電力には上限があります。
電圧を下げる変換器の容量で決まります。
発電機のように「回っているあいだ作り続ける」のではなく、あらかじめ決まった容量の中で分け合う形です。

大きな増幅の機器を足すと、この上限に近づきます。
音の山で瞬間的に大きな電流を使うので、そのぶんが 12 ボルトのバッテリーから出て、変換器が追いつかない時間ができます。
実際に、変換器の容量を超える出力の機器を付けたときにどうなるかを心配する声が出ています。

考え方は単純です。
足そうとしている機器が、実際にどれくらいの電力を使うのかを見る。
そして、その車の変換器がどれくらい供給できるのかを調べる。
この二つを並べてから決めます。
分からない場合は、控えめな出力の機器を選ぶほうが安全です。

音の面から見ても、車室が低音を持ち上げてくれるので、家庭用のような大出力は要りません。
この事情は サブウーファーは必要か に書きました。

電池で駆動するということ

少し離れた話をします。

録音の世界には、商用の交流電源を一切使わず、すべての機材を電池で駆動する手法があります。
壁のコンセントから来る電気は、あらゆる場所から雑音を持ち込みます。
その経路を断ってしまえば、電源事情に左右されなくなる。
私自身の録音は、この考え方で行っています。

この目で見ると、電気で走る車は面白い位置にいます。
動力も電装も、すべてが電池から出ています。
回転する発電機もなければ、壁のコンセントもありません。
電源の前提としては、かなり良い側にあります。

ただし、そのままきれいなわけではありません。
高い電圧を低い電圧に変えるために、非常に速い入切が行われています。
電池の純粋さと、変換の濁りが、同じ車の中に同居している。
ここが、いまの電気自動車の電源の姿です。

つまり、やるべきことは変わりません。
どこから何が入っているかを整理して、アースを整え、電源の線と信号の線を離す。
前提が変わっても、手順は同じです。

よくある質問

電気で走る車のほうが、音は良いのですか。

走行中の音が小さいという一点では有利です。同じ音量でも細かいところが聴き取れます。ただし車室の形も、聴く位置が中央にないことも、ドアが箱として不完全なことも変わりません。有利なのは一つの条件だけです。

加速すると高い音が混じります。故障ですか。

動力を制御する装置が出している音であることが多く、その場合は故障ではありません。ただしスピーカーから出ているのか、車の構造から伝わってきているのかは別の話です。音楽を止めても聞こえるなら車の音、音楽を鳴らしたときだけスピーカーから出るなら電気的に混じっています。

停車中に音楽を聴いていて、バッテリーは大丈夫ですか。

多くの車では、電源を入れている状態であれば変換器が働いて 12 ボルト側を保ちます。ただし挙動は車種によります。長時間止めたまま聴く使い方をするなら、取扱説明書で確認してください。

走行距離への影響はありますか。

オーディオが使う電力は、走るために使う電力に比べればわずかです。ただし大きな増幅の機器を大音量で使い続ければ、まったくゼロではありません。気にするほどの差にはならない、という程度に考えてよいと思います。

純正のシステムを外さずに音を良くできますか。

できます。むしろ電気で走る車は、画面を外せない構成が多いので、そちらが現実的です。方法は [純正のナビを外さずに、音を変える](/journal/car-audio-dsp-keep-factory-head-unit) に書きました。

まとめ

電気で走る車には発電機がありません。
回転数に連動する雑音は出ない代わりに、動力の制御装置と電圧を下げる変換器という新しい発生源があります。
切り分けるときは、回転数ではなく、加速や充電や空調の状態で試します。

走行中の音が小さいぶん、音楽を聴く条件は良くなります。
ただし、それまで覆われていた床とタイヤの音が前に出るので、対策の優先順位が変わります。

そして 12 ボルトに供給できる電力には上限があります。
大きな増幅の機器を足す前に、その上限を調べてください。
12 ボルトのバッテリーそのものには、オーディオの都合で手を出さないでください。

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