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マイクを円周上に並べた円形マイクロホンアレイは、部屋の音響解析やサラウンド録音、テレビ会議で使われます。
しかし、素子を何個、どの半径で並べれば、雑音と素子ごとの個体差を許容しつつ狙った指向性が得られるのか。
その指針ははっきりしませんでした。
Poletti(2005)は、円形アレイの雑音性能と素子のばらつきの影響を周波数で定量し、素子数を増やすほど誤差に強くなり、大きなアレイほど個体差を許容できることを示しました。
なぜ円形アレイは実用化が難しかったのか
円形マイクロホンアレイとは、複数のマイクロホンを円周上に等間隔で並べ、各素子の出力を組み合わせて狙った指向性を作る装置です。
部屋の音響解析、ライブのサラウンド録音、テレビ会議に向きます。
音源も再生系も主に水平面にある場合、3次元の球面マイクより少ない素子で水平面の指向性を記録できます。
円周上の音圧は、各マイク出力に重みを掛けて足し合わせる離散フーリエ変換で分解できます。
位相モードとは、この分解で得られる、次数で区別される空間周波数の成分です。
円形アレイはこの位相モードを組み合わせて、水平面の球面調和成分を作り出します。
素子には1次マイクロホンが使われます。
1次マイクロホンとは、無指向性と双指向性の応答を係数で配分して指向性を作るマイクロホンです。
実用化の障壁は、雑音と素子の個体差を抑えつつ、少なくとも2次と3次の指向性を十分なSN比で実現することでした。
有限個の素子しか置けないことから生じるエイリアシングも問題です。
エイリアシングとは、連続的な円周を有限個の素子で標本化するために、高域で別の次数のモードが重なって現れ、指向性に不要なローブを作る現象です。
これらの誤差と雑音が性能にどう効くかは、定量的には十分に示されていませんでした。
雑音と素子のばらつきはどう評価したのか
解析は3次元の扱いから始まります。
まず複数の1次マイクロホンを円周上に並べたアレイを3次元で解析し、円形アレイの限界と、2次元の扱いで十分になる条件を示しました。
具体的には16素子、半径125mmのアレイを3kHzで見ると、水平面のピーク応答より4dB高い垂直方向のローブが現れます。
そのローブの仰角は下側26度、上側154度でした。
一方、低域では音の波長がアレイ寸法より十分大きく、半径0.1mでは20Hzの音響位相の変化は最大でも4.2度に留まります。
垂直方向の指向性を制御できれば、性能は2次元の解析で定義できるというのが、この手順の出発点です。
続いて、各素子の指向性を表す極応答をフーリエ分解し、同一素子と非同一素子のそれぞれについて、標本化された位相モード応答を導きました。
理想的な1次アレイについては、最初のエイリアスが作る誤差を表す式も示しています。
雑音の性能は白色雑音利得で評価しました。
白色雑音利得とは、空間的に一様な白色雑音を仮定したときのアレイ利得で、アレイ応答の2乗を全重みの電力で割った値です。
一般的な1次円形アレイについて白色雑音利得を導出し、カーディオイドアレイで理想値と実際の値を比較しました。
素子の個体差は摂動モデルで表しました。
これは各変換器の極応答に相対誤差を掛けるモデルで、誤差は独立な複素正規分布に従います。
位相と振幅のばらつきをまとめて表現し、円形アレイの位相モードの誤差を表す式が得られます。
最後に、出力チャンネル数を減らすダウンサンプリングを検討しました。
これは空間の低域通過フィルタを通した後、出力を間引いてチャンネル数を減らす操作です。
理想的な32タップのフィルタと、窓を掛けた8タップのフィルタで、アレイ利得と誤差を比較しています。
例として使われたのは、32素子・半径125mm と 256素子・半径1m のカーディオイドアレイです。
位相偏差は2度と10度、ダウンサンプリング係数は4としました。
この手順を選んだ理由ははっきりしています。
3次元解析を先に行うのは、円形アレイの限界を示すためです。
フーリエ分解は、非同一素子の一般的な影響と高域のエイリアシング限界を示します。
白色雑音利得を使うのは、後段の素子ばらつきの解析と直接つながる指標だからです。
摂動モデルは、位相誤差の平均値を指定すれば簡単な結果が得られるため選ばれました。
雑音とばらつきは性能をどこまで変えるのか
結果は、エイリアシング、雑音、素子のばらつきという側面に分けて見られます。
有限個の素子で標本化すると、方位角方向のエイリアシングは高域に限定されます。
その代わり、低域では不要な仰角方向のローブが現れます。
垂直方向の指向性を制御すれば2次元の解析で十分という、先の結論が裏付けられました。
素子が同一の場合、最初のエイリアス周波数より下では、アレイはほぼ単一のモード応答を作り、極パターンの形は一定に保たれます。
応答は等化できます。
素子が同一でない場合、応答は平均の係数から作られる理想的な標本化応答に誤差項が加わった形になり、偏差は低域と高次のモードほど支配的になります。
雑音(SN比)の結果を表にまとめます。
SN比の改善幅を見ると、32素子・半径125mmのカーディオイドアレイでは、0次の応答は2kHzまで、高次の応答は4kHzまで改善します。
素子数と半径を同じ倍率で増やすと、高域の性能を変えずに低域の雑音が改善します。
256素子・半径1mでは、SN比が劣化するのは3次だけとなりました。
エイリアシングと摂動を合わせた合計誤差は、低域と高域の両端で大きくなります。
32素子・半径125mm・位相偏差2度の例では、誤差が許容できなくなる低域の限界は2次で約60Hz、3次で約300Hzとなり、0次と1次はエイリアシングによって約10kHzまでに制限されます。
256素子・半径1m・位相偏差10度では、高域の限界は13kHz、低域は3次の55Hzを除いてほぼ問題になりません。
大きなアレイほど位相・振幅の誤差を許容できるということです。
素子数を増やすと、位相と振幅の誤差への感度は下がります。
1次モードの速度応答を圧力マイクロホンの組み合わせで作る場合の誤差は、同じ半径と分散で16個のカーディオイド素子を使う場合の21倍になります。
ダウンサンプリングは、設計の良い空間低域通過フィルタを使えば、アレイ利得と摂動誤差を大きくは変えません。
8タップのフィルタは、低域で3次の利得を約1dB減らし、高次の誤差性能をやや劣化させます。
この解析はどこまで当てはまるのか
著者自身が述べた限界は、大きく分けて次の通りです。
第一に、円形アレイは3次元の再生に必要な応答を作れません。
第二に、摂動モデルは位相と振幅の誤差を独立に変えられません。
第三に、例は回折効果を含まない理想的な1次アレイに限られます。
低域では妥当な近似ですが、高域では素子の指向性の増大やアレイ周囲の回折によって実際の応答が変わります。
第四に、素子の配置位置の誤差は個別には検討されていません。
位置誤差は位相・振幅の誤差として含めうると著者は述べていますが、それ自体を対象にした検討はありません。
加えて、各出力の雑音レベルそのものを論じる際、環境の暗騒音は無視されています。
この研究が示す数値は、理想的な1次アレイという条件の下でのものです。
実際のアレイを組む場合は、素子の指向性や回折、暗騒音の状況によって応答が変わりうることを踏まえて読む必要があります。
この研究をどう位置づけるのか
円形マイクロホンアレイは、水平面の球面調和成分を3次元アレイより少ない素子で記録できる点で、部屋の音響解析やサラウンド録音、テレビ会議に向く技術です。
この研究は、その性能をエイリアシング、雑音、素子のばらつきという観点から統一的に定量し、実用化に必要な2次・3次の指向性をどの周波数帯で達成できるかを示しました。
とりわけ、素子数を増やすほど誤差に強くなり、大きなアレイほど個体差を許容できるという関係を明らかにした点は、アレイを設計する際の目安として参照しやすい知見です。
雑音と素子のばらつきが性能を決める主要因であり、その両方の影響を同じ枠組みで扱えることを示したのが、この論文の位置づけと言えます。
参考資料
原典の主張は、Effect of Noise and Transducer Variability on the Performance of Circular Microphone Arrays をご参照ください。

