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音響工学 · 2026.09.02

1980年|無響室なしでスピーカーの直接音は測れるか

無響室なしでスピーカーの直接音を測る ground-plane 法。剛な地面に置いた音源と鏡像音源の応答として、無響応答をどこまで再現できるのか。無響室や屋外吊り下げ、半空間との比較から読み解きます。

目次

スピーカーが本来持つ周波数特性を知るには、反射の混ざらない直接音場を測りたい。

しかし反射を排除するには無響室が要る。

無響室は低い周波数で精度が限られ、大型の対象や長い距離では役に立ちにくい。

剛な地面にスピーカーを置き、マイクを地面と面一にするだけで、直接音場を測れないものか。

この研究(Gander, 1980)は、その測定が実音源と鏡像音源の応答として無響応答を再現できることを示した。

スピーカーの直接音はなぜ測りにくいのか

スピーカーの周波数特性を正確に知るには、直接音場を測る必要があります。

直接音場とは、音源から直接届く音場で、反射による残響音場と分離して測りたい成分です。

部屋の中で鳴らせば、壁や床の反射が混ざってきます。

従来、この直接音場を測る手段は複数ありました。

まず無響室です。

無響室とは、壁や床の反射を吸音材で抑えた人工の自由音場環境です。

中高域では正確ですが、有限の寸法しかないため低い周波数の精度が制限されます。

大型の測定対象や長い測定距離では、有用性が下がります。

次に、音源を空中に吊るして自由音場(反射の影響がなく直接音場だけを測れる環境)で測る方法です。

こちらは大型の対象や長距離の測定では特に不便です。

さらに、ゲーティングなどの遅延処理技術もあります。

これは反射が届く前の直接音だけを切り出す手法で、複雑な電子装置を必要とし、低い周波数では帯域制限が残ります。

関連する概念に半空間負荷があります。

半空間負荷とは、音源が半球状の空間へ放射する負荷条件で、低域の出力に影響するものです。

スピーカー前面を大きなバッフル面に同一面で取り付け、放射を半球状の空間に限定すると、安定した測定環境が得られます。

地面と面一のマイクでどう測ったのか

この研究が採用したのが ground-plane 測定法です。

ground-plane 測定法とは、剛で平坦・平滑な地面に測定対象を置き、マイクロホンを地面と面一に設置して、実音源とその鏡像音源の自由空間応答を模擬する測定法です。

要になる考え方が鏡像音源です。

鏡像音源とは、剛な境界面の反対側に想定される、実音源と同位相・等強度の仮想音源です。

地面を挟んで対称の位置にも音源があるとみなせるため、軸上の音圧は 6 dB 増えます。

この 6 dB の増加を利用して、自由空間で等しい強度の実音源と鏡像音源からの応答として評価します。

従来法が環境の影響を完全に取り除こうとするのに対し、この方法は単一の反射を許してもその影響が正確に予測できるため、環境を既知の安定したものにできるという理由で採用されました。

測定の方法によって得られる値が変わる例は、残響の測定にも見られます(大聖堂の残響は測り方でどう変わるか)。

測定には、フルレンジスピーカーを密閉箱に取り付けたシステムを使いました。

仕様は次の通りです。

測定対象の仕様
項目
フルレンジスピーカー口径200 mm
密閉箱の容積25 L
密閉箱の高さ0.505 m
密閉箱の幅0.355 m
密閉箱の奥行0.215 m
共振周波数(fc)60 Hz
Q値0.82
測定入力電圧2.8 V

半空間の地面プラットフォーム、下限周波数 500 Hz の無響室、屋外吊り下げ、ground-plane の各条件を、マイク距離 1 m と 2 m で測定しました。

屋外吊り下げの地上高は 4.5 m です。

音源の向きを変え、バッフル形状と回折(エンクロージャーの寸法や形状によって生じる回折現象)の影響も測定しました。

測定にあたっては、次の目安が示されています。

障害物は測定距離の 5 倍以上離します。

そうすると最悪ケースの反射レベルは直接音から 20 dB 低くなり、全圧への寄与は 1 dB に収まります。

マイクロホンは、音源と像を含む最大寸法の約 3 倍以上離した遠方界(音源の形状より距離減衰が支配的になる領域)に置きます。

各条件の測定結果はどう違ったのか

測定条件ごとの応答を比べると、次のことが分かりました。

半空間(地面プラットフォーム)の応答は、真の半空間負荷により中低域で非常に滑らかでした。

共振点では Q から予測される通り 2 dB 低下しました。

無響室では低域の限界が明らかでした。

低い帯域で、エンクロージャーの寸法や形状による回折のため、中域に特徴的な上昇が見られました。

高域はほぼ影響を受けませんでした。

屋外 4.5 m 吊り下げでは、中高域は無響室と一致し、低域は半空間負荷から最大約 4.5 dB 低下しました。

理論上の 6 dB よりは小さい低下です。

ground-plane 1 m 測定では、低域が吊り下げ自由音場曲線を 6 dB 持ち上げた形でほぼ一致しました。

ground-plane 2 m 測定では、距離倍増による 6 dB 減衰が鏡像による 6 dB 増加を相殺し、低域は吊り下げ自由音場曲線にほぼ一致しました。

ただしマイクが軸外のため、中高域は低下しました。

音源を傾けて 2 m でマイクをドライバの軸上に置くと、約 13 kHz まで 1 dB 以内で自由音場曲線と一致しました。

設置向きを変えたケースでは、中域で異なるバッフル形状・回折の影響が現れました。

この方法はどこまで通用するのか

著者が挙げる限界があります。

ground-plane 法は測定軸に沿って鏡像関係にある音源を模擬するため、バッフル寸法が単体とは異なり、形状も変わります。

このボックス効果は注意深く検討する必要があります。

もう一点、屋外吊り下げの参照測定では、より開けた場所があれば真の自由音場負荷をより低い周波数まで維持できたはずで、実際には 50 Hz 未満の長波長で自由音場負荷が不完全でした。

この研究をどう受け止めるのか

反射を取り除くのではなく、単一の反射を許してその影響を正確に見積もる。

この研究が示した考え方は、無響室をはじめとする従来の自由音場測定の補完として位置づけられます。

低い周波数、大型の対象、長い測定距離では、従来法の制約を避けやすいという特徴があります。

この方法がもたらすのは、自由音場応答の近似です。

どの条件で測れば実音源と鏡像音源の応答として成立するのかを、測定距離や障害物の扱いを含めて著者自身が整理しています。

その整理の仕方に、測定の条件を制御して結果を読むという、音響測定の基本的な姿勢が表れています。

参考資料

原典の主張は、GROUND PLANE ACOUSTIC MEASUREMENT OF LOUDSPEAKER SYSTEMS をご参照ください。

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