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ミクソリディアン・スケール。
ジャズでは「ドミナントセブンスコードに使うスケール」、クラシックでは「教会旋法の第7旋法」として説明されます。
同じ音の並びなのに、なぜこれほど違う文脈で語られるのでしょうか。
鍵は、二つの分野が「理論と音」を結ぶ順序にあります。
こんにちは。
音楽家の朝比奈幸太郎です。
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ミクソリディアン・スケールとは何か
ミクソリディアン・スケールは、長音階の第7音を半音下げた音階です。
Cを主音に取ると、構成音は次のとおりです。
長音階と比べて違うのは第7音だけです。
CメジャーならBですが、CミクソリディアンではBbです。
この半音の差が、長調なのに翳りのある独特の響きを生みます。
もう一つ重要な性質があります。
第1音の上に7度まで積んだ和音はドミナントセブンス(属七の和音)です。
CミクソリディアンならC、E、G、Bb、つまりC7。
構成音そのものが属七を内包している点が、あとの話の核心になります。
クラシックはどう見るか。
教会旋法の第7旋法
クラシックの理論は、まず調(key)や旋法(mode)という上位の枠組みから出発します。
その枠組みのなかで、各音の位置や機能が決まる。
この順序が特徴です。
ミクソリディアンは、中世からルネサンスにかけて使われた8つの教会旋法のうちの第7旋法です。
名称は古代ギリシアに由来するとされますが、中世の旋法と同一かどうかは議論が続いています。
機能和声の枠組みでは、ミクソリディアンは「属音上の旋法」です。
ハ長調を例にとると、属音ソから白鍵だけで1オクターブ上がればソ、ラ、シ、ド、レ、ミ、ファ、ソ。
これがGミクソリディアンです。
ハ長調という調があって初めて導かれる。
枠組みが先で、音はそこから出てきます。
ここで混乱が生まれます。
教材によって「長音階の第7音を半音下げたもの」と書く場合と、「属音から始まる教会旋法」と書く場合があります。
同じ音階を、一方は音程操作として、他方は調のなかの位置として説明しているのです。
ジャズはどう見るか。
ドミナントセブンスのスケール
ジャズの理論では出発点が逆です。
まずコードがあり、そこに合うスケールを選ぶ。
この順序が特徴です。
ミクソリディアンは、ジャズで最も頻繁に使われるスケールの一つです。
ドミナントセブンスコード(C7、G7など)に対して第一に選ばれるからです。
G7を見てください。
構成音はG、B、D、F。
この4音はすべてGミクソリディアン(G、A、B、C、D、E、F、G)に含まれています。
コードトーンとスケールに矛盾がありません。
しかも第7音Fは、コードの短7度そのもの。
スケールの特徴音とコードの性格音が一致しているから、属七とこれほど相性が良いのです。
ジャズの即興では、属七のコードが出たらまずミクソリディアンを当てる。
これが基本動作です。
II-V-I進行のVでの使用が代表的で、キーCメジャーならG7にGミクソリディアンを当てます。
ブルースとの関係も重要です。
ブルースでは長調でもI、IV、Vすべてに属七を使うことがあります。
つまりI7、IV7、V7のすべてに、それぞれの主音基準のミクソリディアンを当てられる。
ジャズの演奏家がこれを手放せない理由です。
なぜ違う名前になったのか。
降りてくる理論と上がっていく理論
ここまで読まれて、二つの説明の順序がまったく逆であることに気づかれたと思います。
クラシックは上位の枠組みから降りてきます。
まず調があり、属音があり、そこからミクソリディアンが導かれる。
ハ長調という枠組みがあるからGミクソリディアンが出てくる。
理論が先で、音はその中に位置づけられます。
ジャズは目の前の音から上がっていきます。
まずG7があり、「このコードに合うスケールは何か」から出発してミクソリディアンに着く。
音が先で、理論は後からついてくるのです。
この順序の逆転こそが、同じ音階に異なる説明を与える根本的な理由です。
クラシックにとってミクソリディアンは「位置」の話、ジャズにとっては「道具」の話です。
同じ音でも、「位置」と「道具」では話の始まり方と終わり方が違います。
派生的な混乱もあります。
クラシックの「ミクソリディアン」は、特定の調の属音上の旋法を指します。
ジャズの「ミクソリディアン」は属七コードに合うスケール一般を指す。
同じ言葉が、文脈によって意味の範囲を変えるのです。
言い換えれば、クラシックにとって理論は地図であり、ジャズにとって理論は日記です。
地図は「ここに何があるか」を先に示し、日記は「ここに行った」を後から記録します。
ミクソリディアンは地図上の一地点であり、日記に頻出する記録でもある。
どちらも間違いではなく、順序が違うだけです。
どちらの側から来ても、もう片方の見方が使える
クラシック側から来た方へ。
あなたが知っているミクソリディアンは、ジャズでは即興の道具としてそのまま使えます。
属七のコードが出てきたら、根音を主音とするミクソリディアンを弾いてみてください。
コードトーンとスケールが一致するため外す心配がなく、クラシックの旋法感覚がそのまま語彙になります。
コードネームに馴染みがなければ、[コードネーム 読み方。
Cm7b5を左から順に読めば解ける手順](https://kuon-rnd.com/journal/chord-symbol-how-to-read)が手がかりです。
属七の和音がV7とG7の二つの名前を持つ理由は[ドミナントセブンス 解決。
V7とG7、同じ和音がなぜ二つの名前を持つのか](https://kuon-rnd.com/journal/dominant-seventh-resolution-v7-g7)で詳しく解説しています。
ジャズ側から来た方へ。
ミクソリディアンが教会旋法であり属音上の旋法であるという知識は、クラシック作品を読むときに役立ちます。
属七のスケールとしての使い方に加え、調のなかでの位置づけまで理解すると、楽曲の構造が立体的に見えてきます。
ミクソリディアン以外の旋法も知りたい方は、旋法7つ一覧、白鍵だけで覚えるモードの種類と仕組みをあわせてご覧ください。
あなたが次にG7を弾くとき、あるいはバッハの作品で属音上の旋律に出会ったとき、その音はあなたにとって「位置」ですか、それとも「道具」ですか。
