目次
フリジアンとロクリアン。
白鍵で弾ける七つの旋法の残り二つです。
同じ音の並びが、クラシックではフリギア旋法・ロクリア旋法、ジャズではフリジアン・スケール、ロクリアン・スケールと呼ばれます。
ロクリアンは片方では実用にならず、もう片方では必須です。
同じものが二つの名前で呼ばれ、扱いまで変わります。
フリジアンとロクリアンの音の並びはどうなっているか
流派の言葉を離れて、音の並びだけを見ます。
フリジアンとロクリアンは、白鍵だけを使う七つの旋法のうちの二つです。
全体の並びは白鍵だけで覚えるモードの種類と仕組みで説明しています。
フリジアンはミから、ロクリアンはシから、白鍵を順に弾いたものです。
半音は隣り合う鍵盤どうしの間隔、全音は半音二つ分です。
フリジアンの音の並びは次のとおりです。
フリジアンの特徴は第2音です。
根音のミのすぐ上がファで、間隔は半音ひとつ(短2度)しかありません。
第3音がソ(短3度、半音三つ分)なので、響きは短調の系統です。
第2音の半音が、根音へ引き戻されるような力を持ちます。
次にロクリアン。
ロクリアンの特徴は二つあります。
第2音が半音(短2度)なのはフリジアンと同じです。
もう一つは第5音です。
根音のシからファまでの間隔は、完全五度(半音七つ分)より半音ひとつ狭い減五度になります。
主音と第5音の間に、支えとなる完全五度がありません。
そのため主和音(シ・レ・ファ)は減三和音になり、終止の感覚を持てません。
減五度は不安定で、解決先を求めて動きたがりますが、完全五度がないため音階全体として終止に至れません。
クラシックではフリジアンとロクリアンをどう見るか
クラシックでは、まず調や旋法体系という枠組みがあって、そこから音階を一つずつ見ます。
フリジアンはフリギア旋法と呼ばれます。
教会旋法の一つで、自然短音階(エオリア旋法)と比べると第2音が半音下がっています。
「短音階という基準があって、その第2音を半音下げたもの」という順序で説明されます。
この第2音が、和声の中で重要な役割を持ちます。
短調の第2音を半音下げた音(たとえばイ短調ならシ♭)を根音にした長三和音が、ナポリの六です。
ふつう第一転回(第3音を低音に置いた形)で使われ、低音から根音までが六度になるため「六」と呼ばれます。
フリギア旋法の第2音は、このナポリの六の根音と同じ音です。
また、短調の半終止(ドミナント、第5度の和音で終わる終止)にはフリギア終止があります。
低音が半音で下がってドミナントに至り、その半音の下降がフリギア旋法の特徴と重なるため、フリギアの名が付いています。
ロクリアンはロクリア旋法と呼ばれます。
ただし伝統的な教会旋法の八つ(正格四つと変格四つ)には含まれません。
理由は第5音です。
主音との間隔が減五度になるため、完全五度に支えられた終止を作れません。
旋法の要は終止なので、終止が成立しないロクリアンは、クラシックの実作曲ではほとんど使われません。
ジャズではフリジアンとロクリアンをどう使うか
ジャズでは、まず目の前のコード記号(和音を文字と数字で表したもの)があって、そこから使える音を積み上げます。
フリジアンはフリジアン・スケールと呼ばれます。
マイナー系の和音で、第9音を半音下げた(♭9)響きを出したいときに使います。
sus♭9(第4音を含み第9音を半音下げた和音)、たとえばミを根音にした E7sus♭9 の上には、フリジアンがそのまま乗ります。
第2音の半音(♭9)がこの音階の顔で、スパニッシュ風の響きを作ります。
ジャズでは「このコードにはこのスケール」と、一組にして覚えます。
ロクリアンはロクリアン・スケールと呼ばれます。
使う場は m7♭5(マイナーセブン・フラットファイブ、別名ハーフディミニッシュ)の上です。
たとえばシを根音にした Bm7♭5 の上には、シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラが乗ります。
m7♭5 は短調のツーファイブワン(第2度から第5度、第1度へ進む進行)の最初の和音として現れ、イ短調なら Bm7♭5 から E7 へ進みます。
減五度を、ジャズは「次へ進む音」として使います。
ロクリアンは m7♭5 が出るたびに必要な、基本のスケールです。
なぜフリジアンとロクリアンは二つの名前を持つのか
同じ音の並びなのに、なぜ片方では実用にならず、もう片方では必須になるのか。
説明の順序が逆だからです。
クラシックは、上位の枠組みから降りてきます。
まず調や旋法体系という全体があり、その中で「第2音は半音か」「主音と第5音の関係はどうか」を吟味して、音階の性質を定めます。
だからロクリアンは、減五度のせいで終止が成立しない、という結論が先に立ちます。
フリジアンの第2音も、まず短調という枠があって、その第2音を半音下げた操作として説明されます。
ジャズは、目の前の音から上がっていきます。
まずコード記号があって、その構成音と、加えられるテンション(第9音など)を積み上げます。
その結果として、フリジアンやロクリアンの音の並びが出来上がります。
だからロクリアンは「m7♭5 の上に乗る音」として、欠かせない存在になります。
順序が逆なだけです。
クラシックは「この音階は何者か」を枠組みから決め、ジャズは「この和音の上で何が鳴るか」を積み上げる。
同じ音が、一方では体系の一部として名付けられ、もう一方では和音の付属物として名付けられます。
この違いをはっきり示すのがロクリアンです。
減五度という同じ音程を、クラシックは「終止を壊すもの」として退け、ジャズは「次へ進む力」として使います。
音は同じでも、どこから見るかで、その音の意味が反転します。
クラシック側、ジャズ側、それぞれに何が使えるか
クラシック側から来た人へ。
ナポリの六をご存じなら、その根音がフリジアンの第2音と同じだと知れば、ナポリの六の知識がそのままフリジアン・スケールの理解になります。
自然短音階との違いで並べると、ドリアンは第6音、フリジアンは第2音、ロクリアンは第2音と第5音、という対応です。
ロクリアンの「減五度で終止できない」という理屈も、そのままジャズの m7♭5 が必ず次の和音へ解決する性格に読み替えられます。
ジャズ側から来た人へ。
m7♭5 の上でロクリアンを弾いているなら、それはクラシックでは正規の旋法として扱われないほど終止から遠い音階です。
その「終止しない」性質こそが、m7♭5 が次へ進む役割を持つ理由でもあります。
sus♭9 や ♭9 でフリジアンを使うなら、その半音下がった第2音がナポリの六と同じ音だと知っておくと、解決先の選び方に和声の歴史が加わります。
あなたが普段弾く曲で、第2音が半音下がる瞬間はどこにありますか。
それをフリジアンとして見るか、ナポリの六として見るかで、その音の役割はどう変わりますか。
