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ASMR のマイクを調べると、百円均一の商品と、一千万円の機材が、同じ画面に並びます。
その間に何段あって、どこで音が変わるのかを、上から順に並べます。
読み終わったとき、自分が買うべき段が決まっているように書きました。
耳のそばで鳴っている感じは、どこから来るのか
ASMR の音を「耳のすぐそばで鳴っている」と感じさせている正体は、左右の音量差ではありません。
頭と耳たぶが音をさえぎったり回り込ませたりして生まれる、左右の到達時間のずれと、音色のずれです。
人はこの二つで音の位置を判断しています。
マイクの段が上がるほど、このずれを忠実に記録できます。
値段の差は、ほぼこの一点に集まっています。
一段目 頭の形ごと記録する
人の頭を模した模型の、左右の耳の位置にマイクを埋めた方式です。
ダミーヘッドと呼ばれます。
頭のかたち、耳たぶのかたち、外耳道の深さまで作り込み、そこに入ってくる音をそのまま記録します。
この方式が本当に音の位置を再現できるのかは、1969 年の時点で調べられています。
詳しくはダミーヘッド録音は正しい音の定位を再現できるかにまとめました。
高くつく理由は三つあります。
頭部模型そのものの製作精度、左右のマイクの特性をそろえる選別、そして生産数の少なさです。
放送局や研究機関が買う数しか作られていません。
二段目 耳の形だけを取り出す
頭部の模型を省き、耳たぶの形をした部品にマイクを仕込んだものです。
耳型と呼ばれます。
頭部による回り込みは再現できませんが、耳たぶによる音色の変化は残ります。
据え置いて使い、演者はその前で声を出します。
一段目との差は、頭の影がなくなることです。
真横から来る音の左右差が小さくなり、後ろから前へ回る感じが弱くなります。
三段目 自分の耳に着ける
イヤホンの形をしたマイクを、自分の耳に入れて録る方式です。
模型の代わりに自分の頭を使うので、頭の形は完全に再現されます。
手持ちの機材でいちばん近道になる段です。
弱点は二つあります。
自分が動くと音像も動くこと、そして自分の身体が出す音(衣ずれ、飲み込み、呼吸)を拾いやすいことです。
イヤホン型の実機はバイノーラル録音用イヤホン型マイク radius RM-ATZ19 のレビューで扱っています。
四段目 二本のマイクを離して置く
頭部の模型を使わず、左右に距離をとって置いた二本のマイクで、到達時間の差を記録する方式です。
AB 方式と呼びます。
ここで使うのは無指向性、つまり前後左右のどこから来た音も同じように拾うマイクです。
この段だけ、性質が他と違います。
ダミーヘッドと耳型はヘッドホンで聴くことを前提にした録音ですが、AB 方式はヘッドホンでもスピーカーでも成立します。
作品を配信したあと、聴き手がどちらで聴くかを選べない場面では、この差が効いてきます。
考え方はバイノーラルを超えて。
無指向性AB方式マイクの立体的な魔力と未来に書きました。
空音開発が作っている P-86S と X-86S も、この方式のマイクです。
ささやきや吐息の距離で使うことを想定して、二本を一体にしてあります。
五段目 レコーダーの内蔵マイクだけで録る
手持ちのレコーダーの本体マイクだけで録る段です。
左右のマイクの距離が数センチしかないため、音が中央に寄ります。
また、本体の中に入っているぶん、機械が出す電気の雑音を拾いやすくなります。
内蔵マイクにマイクを足すとどこまで変わるかはASMRの始め方。
Zoom H1nにちょい足しでプロ級の音質にする方法で試しています。
いちばん下の段で起きること
百円均一や千円台のマイクで ASMR を録ると、ほぼ必ず同じ問題が出ます。
マイク自体が出している雑音(自己雑音)が、ささやきの声と同じくらいの大きさになることです。
ASMR は、そもそも音が小さい表現です。
声が小さいぶん、録音のときにゲインを上げます。
すると雑音も一緒に持ち上がります。
ここで雑音除去をかけると、今度は「さ」「し」「す」といった子音と、息の成分が一緒に削れて、平べったい音になります。
安いマイクで起きているのは音質の好みの問題ではなく、この順番の問題です。
スマートフォンだけで始めるとき
スマートフォンに直接つなげ場合、マイク側に電源を送る仕組みが必要になります。
プラグインパワーという方式です。
対応するマイクなら、レコーダーもオーディオインターフェースも要りません。
使える機種はプラグインパワーで使える高性能バイノーラルマイク4選にまとめました。
P-86S もプラグインパワーで動きます。
スマートフォンに挿してそのまま録れる構成です。
用途から選ぶとき
声を耳元でささやく作品を、ヘッドホンで聴く人にだけ届けるのなら、上の段が有利です。
頭の形の再現がそのまま効きます。
配信や動画で、聴き手がイヤホンかスピーカーかを選べない場合は、四段目が扱いやすくなります。
どちらで再生されても破綻しません。
咀嚼音やタッピングのように、音源がマイクのすぐそばで動くものは、マイクの近接特性の影響が大きくなります。
無指向性のマイクは、近づいても低音が持ち上がりません。
この点は四段目と、無指向性を使った他の段に共通する利点です。


