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楽典と音楽 · 2026.08.24

マカーム アラブ 音階|12音では表せない四分音の仕組み

アラブ音楽の音階マカームには、ピアノの12鍵では表せない音があります。半音の間にある四分音です。ラスト(Rast)を例に、四分の三音と中性三度という、長くも短くもない音程の仕組みを読み解きます。

目次

ピアノの鍵盤では、Eb と E の間に音はありません。

隣り合った鍵盤だからです。

では、そのちょうど中間の音は、どこにあるのでしょう。

アラブ音楽の音階、マカーム(maqam)には、その音が含まれています。

四分音です。

12の鍵盤では出せない音から、西洋とは違う音階の組み立て方を読み解いていきます。

こんにちは。

音楽家の朝比奈幸太郎です。

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マカームは、どんな音でできているのか

マカームは、アラブ音楽で旋律を支える旋法の体系です。

西洋の音階に似ていますが、音の間隔の種類が一つ多い点で、構造が違います。

マカームを形作る部品がジンズ(jins)です。

3音から5音ほどの小さな旋律の単位です。

マカームはこのジンズを上下に重ねて作られ、ジンズごとの音程パターンがマカームの性格を決めます。

代表的なマカーム、ラスト(Rast)を C から組み立ててみましょう。

下側のジンズは C、D、E の半フラット、F の4音です。

E の半フラット(half-flat)とは、E と Eb のちょうど中間の音です。

上側のジンズは、同じ形を G から重ねます。

並べるとこうなります。

ラスト(Rast)を C から並べた構成音
度数音名C からの距離
第1音C0 セント
第2音D200 セント
第3音E の半フラット350 セント
第4音F500 セント
第5音G700 セント
第6音A900 セント
第7音B の半フラット1050 セント
第8音C1200 セント

セント(cent)は、半音を100等分した音程の単位です。

オクターブは1200セントです。

隣り合う音の間隔を見てください。

C から D は全音(200セント)、D から E の半フラットは150セント、E の半フラットから F も150セントです。

この150セントの間隔を四分の三音(three-quarter tone)と呼びます。

12音では表せない音は、どこにあるのか

この四分の三音が、マカームの響きの正体です。

E の半フラットは、長三度でも短三度でもありません。

長三度は400セント、短三度は300セント、E の半フラットは350セント。

長くも短くもない三度、中性三度(neutral third)です。

ピアノの鍵盤でいえば、Eb と E のどちらでもない、間の音です。

音程の度数と性質の数え方は、音程 数え方で扱っています。

四分音(quarter tone)は半音の半分、約50セントの間隔です。

理論上、オクターブは24の四分音に分けられます。

ただし旋律の間隔として現れるのは、150セントの四分の三音です。

四分音は測りの単位、四分の三音は旋律の一歩、という関係です。

すべてのマカームが四分音を含むわけではありません。

ナハワンド(Nahawand)は自然短音階に、アジャム(Ajam)は長音階に近く、四分音を含みません。

マカームは単なる音の並びでもありません。

どの音から始めて、どの音を強調し、どこでいったん落ち着くか、という旋律の進み方まで含みます。

これをセイル(sayr)と呼びます。

西洋の音階が和音を作る材料であるのに対し、マカームは旋律そのものを形作ります。

西洋の音階と、構造的にどこが違うのか

まず、音の間隔の種類が違います。

現代の西洋音楽は12等分平均律(twelve-tone equal temperament)を前提にします。

最小の間隔は半音(100セント)で、どんな旋律もこの網目の上に並びます。

ところがマカームには、半音より一回り広い四分の三音があります。

E の半フラットは、この網目の上に置けない音です。

次に、音階の役割が違います。

西洋の音階は和音を作るための土台で、音を三度ずつ積んで和音を組み、その進行で曲が進みます。

マカームに和音の機能はありません。

旋律がどう動き、どの音に重みを置き、どこで落ち着くかを決める、旋律のための体系です。

組み立て方も違います。

西洋の長音階や短音階は、7つの音を一続きのはしごとして扱います。

ドリアンやミクソリディアンも、同じはしごのどこを主音にするかの違いです。

西洋の旋法のしくみは旋法 7つ一覧で扱っています。

一方マカームは、ジンズという小さな単位を重ねて作ります。

演奏の途中でジンズを組み替えて、別のマカームへ移ることもあります。

最後に、四分音の高さが流動的です。

12等分平均律は誰にとっても同じ基準ですが、マカームの四分音は流派や地域によって高さが違います。

同じラストでも、アラブとトルコの伝統では第3音がわずかに異なります。

網目が固定された西洋の音階と、網目の位置が柔らかいマカーム、という対比です。

四分音は、どこから生まれたのか

違いの背景には、楽器、歌の伝統、記譜の有無があります。

まず楽器です。

中心的な弦楽器ウード(oud)はフレットが無く、指の位置でどんな高さの音でも出せます。

ヴァイオリンもアラブの合奏に採り入れられ、同じくフレットレスです。

カーヌン(qanun)は弦の途中に小さなレバーを付け、四分音単位で高さを調整できます。

半音より細かい音を出す仕組みが、楽器に備わっています。

次に歌の伝統です。

アラブ音楽はもともと声を中心にした単旋律の音楽で、旋律の装飾と即興(タクスィーム taqsim)が重んじられます。

和音の響きに音の高さを合わせる必要が無いため、中間の音が自由に生き残れました。

そして記譜です。

アラブ音楽は長く、楽譜ではなく口承で伝えられてきました。

音の高さを記号に固定する必要が無かったため、四分音が失われずに残りました。

アラブ音楽が五線譜を採り入れたのは後になってからで、半フラットや半シャープを表す専用の記号を付け加える必要がありました。

楽器、歌、記譜。

この三つがそろって、四分音を含む旋律の体系が育ちました。

どれか一つが欠けていたら、マカームは今の形になっていなかったかもしれません。

あなたの楽器は、四分音を出せるか

マカームの音階には、12の鍵盤では表せない音が含まれています。

では、あなたが普段使う楽器やソフトウェアは、四分音を出せますか。

フレットレスの弦楽器なら指の位置で、シンセサイザーならピッチを細かくずらす機能で、楽譜の段階では半フラットをどう記すか。

12の網目を当たり前とせず、網目の外にある音を自分の手元で探してみると、音階の見え方が少し変わるはずです。

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