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リボンマイクは、なぜああも柔らかく滑らかな音に聴こえるのか。
録音者たちは、その性格を薄い金属の襞(リボン)の動き方に由来すると受け止めてきました。
しかし、襞が音を受けて実際にどう動くのかは、これまで一枚の板が一つのバネで揺れるという大まかな像でしか説明されていません。
襞は一枚の板のように揺れるのか、それとも折り目ごとに別々の動きを見せるのか。
その動きは、襞を一つの塊とみなす従来のモデルで足りるのか、それとも折り目を一つひとつ追う必要があるのか。
この記事が答えるのは、音を受けたリボンの本当の動きと、それを表す物理モデルという問いです。
シュレシンガーとエイベル(2010)は、襞の動きをレーザーで測り、折り目ごとの質量をバネでつないだモデルによって、その多様な振動を説明できることを示しました。
リボンマイクの襞は、これまでどう説明されてきたのか
リボンマイクは、柔らかく滑らかな音で知られる録音用のマイクです。
その音の性格は、周波数応答や変換器の非線形性に由来すると考えられています。
心臓部は、ごく薄い金属を波形に折った襞です。
波形リボンとは、軸に対して垂直な折り目を持つ薄いアルミのリボンを指します。
折り目は、軸から外れた方向への動きに対してリボンを硬くし、長さ方向にはしなやかさを保つ働きをします。
音を受けると、リボンの前面と背面に音圧の差が生まれます。
これを差圧といい、リボンを前後に動かす力になります。
差圧は音源の方向に応じて変わるため、正面と背面に感度の山を持ち、真横ではほとんど音を拾わない双指向性が生まれます。
この指向性とマイクの型との関係は、マイクの型と指向性の設計トレードオフでも扱っています。
従来、リボンの動きは集中質量モデルで説明されてきました。
集中質量モデルとは、リボンを一つの質量と一つのバネに置き換え、単一の共振周波数で振動するとみなす解析です。
このモデルは、リボンの共振周波数を15から40 Hzの範囲と仮定し、低域と高域でそれぞれ6 dB/オクターブの傾きが組み合わさってリボンマイク特有の応答が作られると説明します。
しかし集中質量モデルが説明するのは、あくまで全体としての応答です。
実際のリボンは薄くて軽く、折り目が多数並んでいます。
一枚の板が一つのバネで揺れるという像では、折り目ごとの細かな動きが落ちてしまいます。
そうした複雑な動きこそ、リボンマイクの音を左右する手がかりになるかもしれない。
そこが、この研究の出発点です。
襞の動きは、どう測り、どうモデル化したのか
研究者たちは、襞の動きを物理モデルで表すことと、実際のマイクでその動きを測って確かめることを組み合わせました。
モデルでは、襞の折り目一つひとつを剛体の質量とみなし、折り目同士をバネでつなぎます。
バネの種類を変えることで、異なる振動の型を表しました。
折り目がリボンの軸まわりに回転する動きはねじれモードと呼ばれ、直線的なねじりバネで表されます。
折り目がリボンの面に垂直な方向へ動く動きは面直モード、軸に沿って動く動きは縦モードと呼ばれ、これらは互いに結びつくため、変位の向きを持つ質量を直線的なバネでつなぎ、重力と減衰の項も加えてモデル化されました。
モデルの値は、リボンの材質と形状の情報から決まります。
襞の形がその振る舞いを決めるという見方は、無指向性マイクの膜と指向性の問いにも通じます。
実際の測定には、レーザー振動計を使いました。
測定の条件は次のとおりです。
正面から正弦波の掃引信号を流し、襞の各折り目に沿った3点で速度と変位を測りました。
3点にしたのは、折り目の中でも位置によって動きが違うかを見るためです。
こうして得た共振モードと、周波数を波数(波長の細かさを表す量)に対して見た関係を、モデルの予測や剛な弦の分散関係と比べました。
剛な弦とは、弦のモデルに剛性の効果を表す項を加えたものです。
この項があると、波長が短い波ほど速く伝わるという性質が現れます。
襞も薄いながら剛性を持つため、この弦の式と比べることで、襞がどれほど硬い振る舞いをするかを読み取ろうとしたのです。
なぜ質量とバネのモデルを選んだのか。
重力で襞がたわんでできる懸垂線(吊り下げた糸が描く曲線)の形や、折り目の間隔といった実際の寸法を、直感的にモデルへ落とし込めるからです。
そして、襞の動きの物理的な描像を得られるからです。
複雑な方程式を解くよりも、折り目という実体とバネという比喩で、動きの本質をつかもうとしたのです。
測ってみると、襞はどう動いていたのか
レーザーで測った速度の実効値スペクトルには、多数の共振が現れました。
襞は一枚の板が単一の周波数で揺れるのではなく、たくさんの周波数で複雑に振動していたのです。
たとえば面直モードの共振の一つは298 Hzで観測されました。
最初の4つの奇数次の面直共振を撮ったスナップショットは、モデルが予測した動きと似ていました。
一方、ねじれの動きはほとんど見られませんでした。
測定で見られた速度のわずかな左右非対称は、ねじれが大きいためではなく、レーザー装置の配置のずれによるものと判断されています。
周波数を波数に対して見ると、4 kHz以下の範囲では、波数が大きくなるほど伝わる速さが増す傾向が見えました。
これは襞が剛性を持つことを示します。
剛な弦のモデルに最小二乗法で合わせると、測定値とよく一致しました。
ただし、いちばん高い伝搬周波数は剛な弦の予測よりわずかに低く、これは襞が、連続した弦ではなく折り目ごとに区切られた数珠状の弦として振る舞う特徴を示唆します。
さらに、7 kHzの整数倍のところに、別の伝搬領域が現れました。
これは折り目同士の間隔よりも短い波長を持つ、高波数の伝搬とみられています。
この結果は、どこまで言えるのか
著者たちは、この研究の限界をいくつか明記しています。
第一に、スピーカを正面に置いた配置は、ねじれモードを大きく励起しないため、測定でねじれの動きがほとんど見られなかったと説明しています。
ねじれ波の励起を調べるには、正面から外れた方向からの測定が必要です。
第二に、いちばん高い伝搬周波数が剛な弦の予測よりわずかに低かった点について、数珠状の弦としての特徴の可能性が指摘されています。
これを確かめるには、より空間密度の高いレーザー振動計の測定が必要です。
第三に、測定で見られた速度の左右非対称は、ねじれが大きいためではなく、レーザー装置の配置のずれによるものと判断されています。
第四に、測定したマイクは Nady RSM-4 だけです。
他のリボンマイクとの質的な違いについては、確かめられていません。
この研究をどう受け止めるか
リボンマイクの音は、周波数応答や変換器の非線形性に由来すると広く考えられてきました。
この研究は、その音の源である襞の動きそのものに、レーザー振動計と物理モデルという道具で踏み込んだ点に位置づけられます。
従来の集中質量モデルが一枚の板としてしか見なかった襞を、折り目ごとの質量とバネとして捉え直し、実際の測定と照らし合わせたことで、襞の動きが単一の共振よりも豊かであることが示されました。
とはいえ、この研究が示したのは襞の動きの描像であり、そこから録音の実践へ直接つながる結論が導かれたわけではありません。
測定されたのは Nady RSM-4 だけであり、結果が他のリボンマイクへそのまま及ぶとも限りません。
価値があるのは、襞の複雑な動きを測り、モデルと比べるという手続きそのものにあります。
リボンマイクの音を理解しようとするとき、襞が実際にどう動くのかという土台を、この研究は提供しています。
参考資料
原典の主張は、Dynamic Motion of the Corrugated Ribbon in a Ribbon Microphone をご参照ください。

