目次
日本で売られているカーオーディオの製品を、値段の高い順に並べてみました。
すると、いちばん上のあたりに日本のメーカーが並びます。
家庭用のオーディオでは、上位は海外の名前で埋まることが多い。
カーオーディオは事情が違います。
そして、上から順に見ていくと、この世界には性格の違う二つの思想があることが分かります。
上から見ると、二つの道が見えます
一つは、信号にできるだけ手を加えずに通す道です。
分けない、補正しない、余計なものを間に入れない。
もう一つは、徹底的に処理する道です。
帯域を分け、時間を揃え、周波数ごとに整える。
車という不利な空間を、演算で正面から相手にします。
どちらが正しいという話ではありません。
目指しているものが違います。
そして最上位の製品は、たいていどちらかの思想を突き詰めた結果として、あの値段になっています。
一つめの道。
つなぎ目を作らない
高い側にあるスピーカーの中に、一つの振動板で全部の帯域を受け持たせる設計があります。
フルレンジと呼ばれる形です。
普通のスピーカーは、高い音と低い音を別々の振動板に分けます。
分けるためには、信号をどこかで切り分ける回路が要ります。
この回路が、音を通す途中に入ります。
そして切れ目のあたりでは、二つの振動板から出た音が重なるので、位置の情報が乱れます。
フルレンジは、この問題を丸ごと消します。
切り分ける回路がないので、増幅の機器から出た信号がそのまま振動板へ届きます。
全部の帯域が一つの場所から出るので、位置も安定します。
代わりに難しいことがあります。
一つの振動板で低いところから高いところまで受け持つのは、無理があります。
ここを作り込めるかどうかが、設計の腕になります。
日本にこれを続けているメーカーがあります。
長野に本拠を置く老舗で、磁石にアルニコを使い、高い剛性と軽さを両立させた紙の振動板を組み合わせています。
製品はすべて職人の手作業だと説明されています。
家庭用のオーディオも手がけている会社です。
定電流という、この世界ではほとんど例のない選択
同じメーカーの増幅の機器に、もっと珍しいものがあります。
世の中に出回っている増幅の機器は、ほぼすべてが電圧を一定に保つ方式で作られています。
ところがこのメーカーの上位機は、電流を一定に保つ方式をうたっています。
私が調べた範囲では、カーオーディオでこの方式を採っているのは、この一社だけでした。
私自身の録音は、金田式の電流伝送によるDC録音で行っています。
マイクが捉えた小さな信号を、電圧ではなく電流の形で送る手法です。
長く引き回しても、音のエネルギーと情報量が落ちにくい。
電流で送るという考え方が、まったく別の場所である車の中にも存在していることを知ったときは、少し驚きました。
聴いた人の報告には、共通した言い方が出てきます。
出すところは出し、抑えるところは抑える。
ごまかしが効かない。
音源をそのまま映してしまうので、良い録音は良く、そうでない録音はそのように鳴る。
そして、この音を受け付けない人も確実にいる、とも書かれています。
好みが割れるのは、当然だと思います。
加工をしない方向に振り切った機器は、聴き手の側にも準備を求めます。
箱ごと持ち込むという解き方
もう一つ、日本のメーカーが上位に並んでいる分野があります。
車種ごとに設計されたスピーカーです。
車のスピーカーは、ふつう振動板とフレームだけで売られ、ドアが箱の代わりをします。
ところがドアは箱として設計されていないので、容積も密閉度も剛性も足りません。
この話は 車種専用のカースピーカーは、何が違うのか に書きました。
このメーカーの答えは、箱を自分で持ち込むことです。
振動板を密閉した小さな箱に収め、その箱ごとドアに取り付けます。
振動板そのものは車種によらず共通で、箱の形と取り付け方を車種ごとに設計します。
値段が高くなる理由は、ここにあります。
車種ごとに型と設計が要るからです。
技術が高価なのではなく、対象の数だけ設計をやり直していることが高価なのです。
二つめの道。
演算で正面から相手にする
思想の反対側には、処理を突き詰めた製品が並びます。
たとえば、二十を超える出口を持ち、三十を超える処理の系統を内蔵した増幅の機器があります。
前の高い音、前の中くらいの音、前の低い音、後ろ、低音の担当。
それぞれに別々の増幅と、別々の時間と、別々の周波数の調整を割り当てられます。
こちらは、車という空間の不利を認めたうえで、全部を測って直すという立場です。
つなぎ目は増えますが、そのつなぎ目を自分で決められます。
運転席が中央にないという事実も、時間で正面から打ち消します。
この考え方は 運転席は中央にありません に書きました。
海外のメーカーにも、この方向を突き詰めた上位機があります。
イタリアの製品が、日本の相場でも最上位に並んでいます。
なぜ、これほど高いのか
高い理由は、性能の数字ではありません。
作り方です。
車種ごとに型と設計をやり直す。
基板を一枚ずつ手で組む。
少ない数しか作らない。
世に出回っていない方式を採るために、部品から選び直す。
どれも、量産で安くするやり方の反対をやっています。
だから、値段は技術の値札ではなく、手間の値札です。
同じ音を安く作る方法があるなら、とっくに誰かがやっています。
上を知ってから、降りてくる
ここまで読んで、これを買いましょうという話ではありません。
上を知る意味は別のところにあります。
思想は、値段と切り離して選べます。
つなぎ目を作らないという考え方が良いと思ったなら、手の届く価格帯にもフルレンジの製品はあります。
一つの振動板で全部を受け持たせるという点は同じです。
箱ごと持ち込むという考え方が良いと思ったなら、まずドアを箱として整えるところから同じ効果が得られます。
制振と隙間の処理と厚い板。
材料の使い分けは デッドニングは、三つの別の仕事です に書きました。
演算で直すという考え方が良いと思ったなら、純正の後ろに一台足すところから始められます。
方法は 純正のナビを外さずに、音を変える にあります。
最上位が教えてくれるのは、どこにお金をかけるべきかの順番です。
順番が分かれば、予算がいくらであっても、その予算の中でいちばん良い形が決まります。
よくある質問
まとめ
日本で売られているカーオーディオの最上位には、性格の違う二つの思想が並んでいます。
信号に手を加えずに通す道と、演算で正面から相手にする道です。
前者の代表は、つなぎ目を作らないフルレンジと、電流を一定に保つ増幅の機器です。
後者の代表は、多くの出口と処理の系統を一台に収めた機器です。
値段は、技術の値札ではなく手間の値札です。
そして思想は、値段と切り離して選べます。
上を知ってから降りてくると、自分の予算の中でいちばん良い形が見えます。
測り方の手順は カーオーディオの音質を、測って確かめる にあります。



